表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

09 エピローグ 後編




「まあ、いい。どうせ攻め込んできたのは…… お前ら城塞都市アルヘナの連中だろ? 」


 じろりとにらんでアイカメラをぎらりと光らせてやると、パイロット達は青い顔をしてがくがくと頷いた。


 シャルちゃんが女王に即位したころ、人間族の王都であるアルニラムなど他の城塞都市とは友好条約を結べたのだが、アルヘナとだけはダメだった。

 不思議なことに、領主が変わっても、年代が下ってもその方針は変わらずに、アルヘナには亜人を見下す人間が集まって反発を続けた。


 シャルちゃんへ仕掛けられた暗殺も、裏でアルヘナが関わっていた。なんでも、シャルちゃんを排除すれば、アルヘナも友好条約を結ぶことを考えてもいい。これは、新たな王の功績として十分なのでは、的な密約が結ばれていたようだ。


 クーデターはハルさんと元サラッハ伯爵達が外交のために城塞都市をまとめる王都アルニラムへと遠征中の出来事であったため、二人とシャルちゃんの妹のサラサリアはそのまま亡命することになった。


 暗殺によるクーデターを起こした連中は、国名をサラサディア王国と改めてサラッハ一族の身柄の引き渡しを要求したが、アルニラム側はこれを拒否。

 そうこうするうちに反政権派が再度のクーデターを成功させ、二代目女王とその一族は一年と持たずに処刑台の露と消えた。


 三代目女王として、シャルちゃんの妹であるサラサリアを迎えようとする動きがあったが、ハルさん達はこれを拒否した。友好的な人間族とのパイプ役として、アルニラムに残留することを決めたのだ。


 長い年月が流れるうちにサラッハの名は失われていたが、ハルさん達の血は人間族の都市で暮らすエルフ達の中に残っている。

 そういうわけで、今のサラサディア王国の王族は、俺とは全く関係の無い集団だといえるだろう。




『アトさん、準備出来ました。出してください』


 俺の胸の奥。

 厳重なシールドを施され、例えゼロ距離で核爆発を受けたとしても、一切外部からの影響を受けない場所がある。

 俺にとって唯一の弱点にして、もっとも大切な領域。


 そう、操縦席だ。


 俺はそこに腰を下ろした”彼女”の声に応え、ゆっくりと片膝をついた。

 ハッチ開放の警告音に合わせて装甲がスライドし、内部のブラストドアが一つづつ順番に開いていく。


 操縦席が浮遊力場によって押し上げられ規定位置で停止すると、彼女は立ち上がり威厳たっぷりに人々を見下ろした。


 黄金の長い髪を飾る白金のティアラ、スレンダーな体を包む軍服にも似た紅の衣、白いファーをあしらった、重厚なマント。その肩にとまる黄金の鷹、足下に控える白銀の巨浪。


「まさか、あのお方は……」

「信じられない。だが、あのお姿、残された絵姿そのままではないか……」


 エルフの少女とダークエルフの女騎士の震える声に、彼女は鈴の転がるかのような声で応えた。


「多種族連合国家アルキュオーネ、初代女王シャルサリア・サラッハである!」

「控えい控えーい、者ども頭が高い、控えおろぉ~♪」


 ぱたぱたと羽根をはためかせたクリアが、空いている方の肩に腰を下ろした。


「我らが作り上げた王都を、人間族が土足で踏みにじるは我も不快なり。汝等が憂い、我とアトランディアが晴らしてやろう『アトさん、人間を回収してください。現地で捨てましょう』」

『おっけ』

<掌部PSコンテナ開放します>


 シャルちゃんの無言の指示を受け、パイロットどもとハーピー達をPSコンテナに回収する。もちろん、別枠だ。


「我は、我らの作り上げた王都が理不尽に踏み荒らされるとき、幾たびでも甦ろう。しかし、それが身内同士の醜い争いであれば、たとえ大地が滅びようとも手を貸すことはないと心得よ」


 女騎士がなにやらさけんでいたが、無視して操縦席を収納し、王国の六人をその場に残して立ち上がる。


「アトさん、久しぶりに飛びませんか? アルヘナをボッコボコにしてやりましょう。今度こそ元凶をどうにかしてやりたいです!」

「分かった。じゃあ」

<全領域飛行ユニット、ドラゴンシュラウドを射出します。合体シークエンス、スタート>


 俺の頭上に魔法陣じみた警告光がうかびあがり、大型用のPSコンテナの射出口が展開した。青白い噴射炎をまき散らしながら、大空に向かって漆黒の巨鳥が垂直に飛び立つ。

 同時に、俺は山頂へ向かって駆け上がる。その方が見栄えが良い。

 飛行ユニットは、大きく美しいループを描いて俺の後方を追うように高度と位置をあわせた。

 ドラゴンシュラウド。その姿は、翼を広げた竜に似ている。長い首のようにも見えるカナード翼を持った機首部分と、飛行中でも自在に振り回すことの出来る長い尻尾のようなカウンターアンカーを持つ。その四肢は、前足はドッキングアーム、後足部分はベクターノズルを持つメインスラスタと小型のサブスラスタの集合体となっている。


<座標データ同期。いつでもどうぞ>

「サンキュー、アイちゃん!」


 岩山の山頂を踏み切り板代わりに、走り幅跳びのように虚空へと飛ぶ。

 ドラゴンシュラウドが機首を折りたたみ、突き出されたドッキング―アームががっしりと俺の肩をつかんで固定、動力系が接続される。

 全スラスタ―をフルパワー。

 ドラゴンシュラウド胴体に設置されたシステムが重力と慣性をごまかし(どういう理屈で動いているかは俺も知らない)、航空力学さえも無視して、50メートルを超える鉄の塊を後から蹴飛ばされたかのような勢いで猛烈に加速させた。

 長大な噴射炎を引きながら僅か数秒で高度一万メートルまで上昇、水平飛行に移ったが、こんな無茶な機動をしても操縦席のシャルちゃんはまったく揺れを感じなかったそうだ。


 上空を飛び越える時に指示を出し、王国内のハイリカスを光学攻撃型プローブで全機を撃破。人間族はクリアが使っているモノを簡略化した対人戦闘用機械妖精で気絶させる。後は面倒なので、自分たちで頑張って欲しい。


 俺達は着陸することなく、アルヘナを目指して飛んだ。




   ※   




 私の名はシャルサリア・サラッハ。

 騎士巨神たるアトさんの力によって、多種族連合国家の女王として立つことになってしまったエルフだ。


 その昔、私は女王として数十年にわたり国を治めた。

 私の治世はそれなりに安定したものであり、その他の城塞都市からもエルフをはじめに複数の種族が集まりはじめた。少数種族であるエルフでさえ部族が五つも増えていた。


 そして当然のごとく権力争いが始まった。

 身内同士の争いに、私たちは著しくやる気を失った。

 そもそもが、一部の人間族の暴虐に抵抗するために立ち上げたのが、多種族連合国家であるアルキュオーネだ。こんなくだらない争いのために女王を引き受けたわけじゃない。


 そんな折り、私の暗殺によるクーデター計画を察知した。

 そもそも、私の周囲は銀狼に乗り移ったアトさんや金鷹のアイちゃん、クリアといった機械妖精が固めている。逆立ちしたって成功するはずがないのだ。

 だから、政争に疲れ切っていた私は、これを逆手にとって表舞台から退場することにした。


 クーデターの日。

 あえて警備に隙を作り、暗殺者を素通しにする。余計な被害者を出さないためだ。

 襲撃してきた暗殺者を一人残らず返り討ちにして、アトさんが豚肉で作った影武者人形を転がして、私自身はさっさと脱出したのだ。


 私そっくりの豚肉人形にちょっとだけもにょったのは余談だ。


 そして私は家族と合流し、いろんなことを話し合った。

 ずっと考えていたことがあった。


 アトさんを一人だけで永遠にこの世界に残していいのだろうか?


 いや、アイちゃんやクリアがいることは分かっている。

 だが、彼女たちはアトさんの配下のようなもので、最終的な部分で逆らうことが出来ない。

 人類としてのメンタリティを持つ彼が、鋼の肉体が朽ち果てるほどの長い年月を、理解者もなしに正気を保って生き続けることが出来るのだろうか?


 そんな言葉を続ける私に、母は柔らかい笑みを浮かべてこう言った。


「言い訳なんてしなくて良いわ。アトのことが好きなんでしょう?」


 私はものの見事に取り乱した。


「人でなくてもいいから、ずっと一緒にいたいんでしょう?」


 私は真っ赤になった頬を両手で押さえて、うずくまるしかなかった。




 だから、私はここにいる。

 子供の時、命を救われてからずっと、私はアトさんと共に生きてきた。




   ※   




 大陸歴4156年。

 サラサディア王国に宣戦布告なしで攻め込んだ城塞都市アルヘナは、一時的に王都を占領したが、長い時を経て目覚めた守護機神アトランディアの反撃を受けて侵略軍が壊滅した。

 城塞都市自身も防壁の四割を失い、ハイリカス関連の製造工場を全て破壊される大損害を受けた。

 同時に、都市周囲が亀裂により分断され孤立、サラサディア王国へ直接侵攻が物理的に不可能となる。

 陸の孤島となったアルヘナは、二度と他国への侵略を行うことができなくなった。住人達もほとんどが他の城塞都市へと散り散りに移っていき、日々襲い来る魔獣への対処に追われ続けることになる。


 数年後。

 単独での人類の居住地としての機能を維持出来なくなったアルヘナは、事実上壊滅した。




 そして、アルヘナを滅ぼした騎士巨神(ナイト・アトラス)アトランディアは、サラサディア王国の復興を見届けると、再び歴史の闇の中に消えたという。










評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ