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08 エピローグ 中編

前話にミスがあったため修正しています。

シャルちゃんのひ孫ではなく、ハルさんのひ孫でした。





「お前等ごときが、ハルさん達から貰った俺の名を口にするな!」


 その場にいた者たちは、天を見上げて我が目を疑った。

 音も無く空を漂う、透き通った羽根を持つ6機の妖精が、蛍火のごとき淡い光をまき散らしながらハイリカス達をポイントしていた。


 羽根から吸収した光をエネルギーとして高出力レーザーを発振する、光学攻撃型プローブ、光子妖精(フォトンシルフィード)スノウドロップだ。

 体長は1メートル程か。こんな小さな存在が放った光の剣が、3機の巨大なハイリカスの四肢を切断してだるまにしたのだ。


 それだけではない。

 神殿の背後にあった岩山がぐらぐらと揺れはじめた。そのあちこちからは、冬用の白い羽毛に包まれたハーピー達が次々と慌てて空へと舞い上がった。


 岩山だったものから雪崩落ちた雪が舞い散り、それに混じって土や枯れ草、木の枝などが大量にこぼれ落ちた。


「それで、そこのだるまになって転がってるポンコツども。この騎士巨神(ナイト・アトラス)アトランディアである俺を、どうしたって?」


 エルフの少女も、ダークエルフの女騎士たち護衛も、密偵も、そのでたらめな姿にぽかーんと大口を開いて硬直していた。


「馬鹿な。なんなのだ、これは……」

「こんな巨大なものが、何故自立できるのだ」

「心臓部どころか、構造材すら想像出来ませんね」


 ハイリカスのパイロット達も、四肢を失って身動き一つ出来なくなった機体の中で、モニターに映るそれを畏怖の目で眺めていた。


 エルフの少女が絶望とともに見上げていたハイリカスでさえ、騎士巨神の膝の高さにさえ届いていなかった。その巨大な腕であれば、ハイリカスなど人形遊びに使うおもちゃも同然だ。


 白銀に輝く鋼の鎧。

 雲を突くほど巨大な、機械の騎士。

 無数の機械妖精たちを従え、この世界の全てを見通す全知なる存在。

 その力の前にはいかなる巨獣でさえ只の一撃で打ち倒され、王都を築く際にはたった一晩で川の流れをもねじ曲げた。さらには邪魔になる山脈を更地に変えて、現代まで残る広大な敷地と巨大な防壁を作り上げたという、サラサディア王国の守護神。


 騎士巨神(ナイト・アトラス)|アトランディア。


 伝説に語られたとおりの騎士巨神の偉容に、エルフの少女と護衛たちは、その身を畏れに振るわせながら膝をついた。人間族の密偵たちでさえ、腰を抜かして座り込んだ。


 一度飛び立ったハーピーたちが、騎士巨神の肩や頭に舞い降りた。

 白い冬毛に包まれたハーピーたちは、きらきらと舞い散る粉雪とその容姿も相まって、神鳥といわれても頷けるほどに美しく見えた―――――


 ―――――のだが。


「アトさん、ひどーい!」

「巣が壊れた! 冬ごもり出来ない!」

「しゃざいとばいしょー!」


 口々にさえずりながら、ぴょんぴょんと雀のように騎士巨神の上を跳ね回り、そして。


「すごーい、アトさん大きーい!」

「たーのしー! アトさん、歩いて!」

「ぬくぬくー アトさん、あったかーい」




 色々台無しになった。




   ※   




「うるさいぞ、お前ら。今年の冬はコンテナに入れてやるから、静かにしてろ」

「わーい、やった! 今年の冬はいつでも暖かいね」

「コンテナ、コンテナ!」

「ご飯、ご飯は?」

「最低限はつけてやる」

「すごーい!」

「うーれしー!」


 きゃわきゃわとさえずりながら謎の踊りと歌を披露するハーピーに、俺はため息をひとつ。しゅごーっとインテークから暖かい空気が排出され、さらにハーピーたちが喜んだ。


<マルチパーパスプローブNo.07、パワーフィールドによる非接触急速エネルギー充填完了、スリープモードより復帰しました>


 やっと起きたか。サンキュー、アイちゃん。


<どういたしまして>


 アイちゃんのお知らせに合わせるかのように、エルフ少女の着込んだ外套のがもこもことうごめき、そのあわせからにゅうっと機械妖精が這い出した。蛍火のごとき光の粉を舞い散らせる透き通る妖精の羽根を持ち、小妖精(ピクシー)のような30センチメートルほどのサイズの体に、体のラインが出るほどに張り付いたエメラルド色のレオタードのようなものを身につけていた。


「ねぇ、アト。なんでハーピーには優しいの? この子達を守るためにスリープモードになっちゃうぐらい頑張った私にも、もっと優しくしてくれてもいいと思うのだけど」

「クリア。俺は、ハルさんたちの子孫を見守って徳を溜めたいって言うお前のわがままを聞いて、自由に動けて人類の姿に近いそのボディを作ってやっただろ。なんだったら、今すぐPSコンテナから放り出しても良いんだが?」

「ごめんなさい、もっと徳を積ませてください」


 そう。このエルフ少女の肩で土下座をする小妖精、中身は万能型(マルチパーパス)プローブに全感覚投入をした元駄女邪神クリアだ。本体は未だにPSコンテナの中にいるが、全感覚投入をすることで自分本来の体のように扱うことが出来るのだ。 




 開拓村を助けた宴の場で、俺はハルさんたちから名前を貰った。それがアトランディア。親愛なるアトラスとか、そんな感じの意味らしい。あのときは本当に嬉しかった。


 その時、ふと1時間ほど放置したままのクリアを思い出してログを開いた。


 全ての感覚を失い、千倍の時間が流れるPSコンテナの中で一ヶ月以上過ごしたクリアは、最初の頃は暴言ばかりであったが、十日ほど後にはぎゃあぎゃあと泣きわめくようになり、五日ほど前からはべそべそと静かに泣きながら、謝罪の言葉を繰り返すようになっていた。

 貨物詳細を見ると、五千万を超えていた謝罪値は一日あたり一千万程のもの凄い勢いで減少を続けており、五日目となる今、残りカウンターは二桁、いや、すぐに残り1となって停止した。

 そして、あのクリアの口から、その一言がこぼれた。


「私のせいで、あなたを殺してしまってごめんなさい……」


 カウンターがゼロになったので、俺はクリアを許すことにした。感覚を戻し、クリアが今どんな状態になっているのかを、貨物詳細を見せて説明してやった。 

 しおらしくなったクリアは、この開拓村のために働いてせめて人類になれるぐらい徳を積みたいと言うので、それ用に新しくプローブ作って体として貸し出すことにした。

 まあ、なんだかんだで元神のメンタリティは強靱だったらしく、すぐに見た目が気に入らないなどとアレコレわがままを言い出し、七機目にしてようやく満足したのだった。




 そんな緩い空気を吹き飛ばすかのように、ハイリカスの胸の搭乗ハッチが吹き飛んだ。脱出用に爆発ボルトでも仕込んであったらしい。


「何をしている! 王女を押さえるんだ。これだけ大きければ、我々だけを狙えはしまい!」

「ざんねーん。このサラサディア王国の守護妖精、クリア様におまかせー♪」


 パイロットである中年の男の声に密偵が反射的に動こうとした所に、クリアが放った電撃が襲いかかった。密偵達は感電し、一瞬の硬直の後に大地に転がった。クリア用のマルチパーパスプローブには、暴徒鎮圧用の電撃銃(テイザーガン)など、対人戦装備をいくつも搭載している。ここへ向かう道中では、複数の魔獣を相手に何度も戦い、流石にエネルギーが足りなくなってスリープモードに陥ってしまったが。


「そんな…… っ!?」


 呆然とするパイロットのハイリカスを、上空を漂っていた光子妖精(フォトンシルフィード)スノウドロップが、人間一人分ぎりぎりの幅を残して胴体を輪切りにした。


「はい、どーん♪」


 クリアが指さすと、バチイッと空気を裂いて電光がひらめいてパイロットがスタンした。


「残りのパイロット、おとなしく機体から降りて降伏した方が良いわよ。アトは私ほど優しくないから、降りてこないとそのまま握りつぶされるかもよぉ?」


 クリアの人聞きの悪い降伏勧告に、残った二人も大人しく機体から降りてきて、エルフ少女の護衛に拘束された。




騎士巨神(ナイト・アトラス)様、お願い申し上げます。どうか王国を救うためにお力をお貸しください」


 片膝をついて騎士の礼をとるダークエルフの女騎士。それに続いてエルフの少女も両膝をついて、両手を組み合わせた祈りのポーズで頭を下げる。


「どうか、私めに貴方様を駆ることを、お許しくださいませ」


 慌てて治療が終わった虎のワイルドとオークも騎士の礼をとり、ゴブリンとコボルトは平伏する。


「いや、普通にダメに決まってるだろ。なんで俺がお前等やサラサディア王国とやらをを助けにゃならんの?」

「「「「「「「えええええ!?」」」」」」」


 その場にいた人々が、意識のあるパイロットの二人まで口をそろえて驚愕した。


「そ、それでは、何故我々のハイリカスを撃破したのですか?」

「何故もくそもそこのおっさんの命令で、俺の像をぶっ壊しただろお前ら。せっかく詫び寂を楽しんでたのによ」

「アトさん、わびさびってなにー?」

「おいしー?」

「というか、アト本当に詫び寂分かってるの?」

「知ってるよ。物の哀れだろ。というか、おやつやるから鳥頭組は黙ってろ。アイちゃ―ん」

<了解。無塩のポップコーンを配布します>


 PSコンテナから射出されたプローブが、紙コップに山盛りのポップコーンを配っていく。


「すごーい、ふわカリだ!」

「アトさん大好きー!」

「ねぇちょっとアト。なんで私にまでポップコーンくれるの? 食べるけど」


「馬鹿な、貴方は王国の守護神ではなかったのか! この○○○様は、正当なる王家に連なる血筋のお方、貴方に騎乗する条件は揃っているはずだ。このままではサラサディア王国は、人間どもに滅ぼされてしまうんだぞ!」


 まさかの守護神からの拒絶に、驚愕から立ち直った女騎士が思わず立ち上がって叫んだ。


「え? なんだ、それ。そんな条件を付けた記憶が無いんだが。というかそもそも、初代女王シャルサリア・サラッハを暗殺して権力を奪って、サラサディア王国とやらに改名したくせに、正当な王家うんぬんとか何を言ってるんだ。しかも、その後何回かクーデターが起きて、今じゃ全く関係の無い一族が王位を継承してるんだぞ。どんな寝言だ、それ? 」


「「「「「「「「「えええええええええ!?」」」」」」」」」


 その場にいた誰もが、敵対していた連中までもが、困惑の悲鳴を上げた。


「あー、それね。シャルちゃんに暗殺を仕掛けた連中を粛正して後を継いだ女王が、あまりにもひどい話だからって、代々の即位した女王だけに口伝で伝えることにしたから知らないんじゃないかな。クーデターの後でも、私がちゃんと約束を守って新しい女王にだけ教えたし」


 もしゃもしゃとポップコーンを頬張りながら、クリアがフォローする。

 思わぬ場所での国家機密の暴露に、敵も味方も誰一人として続いて口を開くことが出来ずに、呆然とするばかりだった。








終わりませんでした!

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