探し人は思わぬところに。
佐野直一は数分前から集中できないでいた。
全く新しい土地での入学式。
ここにいるクラスの連中も今住んでる町のことも、何も知らない。
そんな中に一人立たされている。
だか、不思議と緊張しないでいた、むしろ退屈だった。
興味を示せない、この学校にもこの町にも…。
あの日から、あの瞬間から今まで、頭の中には一人の人物しかいない。
好きとかそういうものではなく、ただ純粋な憧れ。
あのスパイクに、走りに、“走”に対するひたむきさが表れていたからだ。
はぁ…。
自然とため息をつく。
あの時、その人物と約束をした。
もう一度会えたら…。
かなり難しい約束だ。
手がかりといえば、倉田孝介…その名前だけ…。
会える可能性は0%に近い。
もう一度ため息をつく。
そして、一番後ろの席でぼんやりと窓の外を見る。 青く澄み渡った空には雲一つない。
グランドに目を移す、トンボがけがしてあって美しく整っていた。
ザワリと鳥肌が立ち、言いようのない欲求が突き上げてくる。
―走りたい―
ただ、それだけのことが今、できない。
気持ちを静めるように瞳を閉じて、ゆっくりと息を吐く。
すっと楽になったような気がして瞳を開けた。
トクン…。
鼓動が一つ、前ぶれもなく高鳴った。
視界の片隅に、探していたその人物、倉田孝介がいたのだ。
「…倉田っ…!?」
驚きと喜びが混ざり合い、つぶやきが口をついて出る。
「えっと…佐野、くん?…倉田くんの事知ってるんだ?」
「…知っとる。」
窓の外から目を離さずに答える。
「すごい有名だもんね、倉田くんって。」
「有名…?」
顔を隣へ向けて聞き返すと、その子は少なからず驚いたようだ。
「えっ、知らないの?倉田くんって陸上でかなりすごい大会までいったんだよ。」
「っ、陸上!?…そっかー…そうなんや…陸上で、か。」
少なからず安心した。
倉田は走っとるんや…。
ありがとう、隣の女子に言うと不思議そうな顔をされた。
もう一度窓の外を見る、少年が3人横一列に並んで隣のクラスを指さしている。
倉田以外にも見覚えがあった、グランドにいたやつらだ。
…確か、背の高い方が侑希とかいう名前だ、もう一人はわからない。
3人ともバッグを肩にかけ、片手をひざに乗せて前方を見据えている。
名前の知らない少年が何かを言った、と同時に3人が走り出した。
速いっ…!!
すぐに3人が視界の外へ消える。
慌ててローカの方を見ると、すりガラスの窓が半分ほど開いていた。
しばらくすると、そこからキュッキュッとローカの床とシューズの擦れる音がする。
ドクン…。
更に鼓動が高鳴る。
ドタドタと騒がしくなり、窓の向こうに倉田と少年が競り合うように走りすぎていく。
その時、倉田がこちらを見た。
目が合う。
「あ…。」
思わず、口から言葉がもれる。
それと同時にドタンッと激しい音をたてて倉田がこけた。
後から来た侑希という少年もそれにつまずいて転ぶ。 その騒ぎに教室内が笑いに包まれる。
俺も笑っていた。
倉田、おもろいやつや。
立ち上がって隣のクラスへ入る少年を見ながら、直一は思った。




