心の声に従えば
「…んー…。」
暖かい布団の中で、集は身じろぎをした。
カーテンのすきまから太陽の光が差し込み、朝を知らせる。
太陽のまばゆさに自然とまぶたを強く閉じた。
そして、枕もとち置いた目覚まし時計を手にとって目の前にかざした。
AM8:05.
長針と短針が示す時間に集の眠気は一気に吹っ飛んだ。
がばりと布団から飛び起きると、部屋にあるもう一つの掛け時計をに目をやった。
AM8:10.
どっちが合ってるんだろう?
だが、そんなことを考える余裕はなかった。
寝過ごしたことには変わらないのだから。
急いで着替えをすませ下の階に下り、居間の戸をいきおい良く開ける。
TVを見ながら茶を飲む母が驚いた顔でこちらを見た。
「何でっ、起こしてくれなかったんだよ!?」
食ってかかるように怒鳴った。
それに対し、母は何の反応も見せない。
「…やー…だってね。孝介が今日はギリギリくらいが丁度いいって言ったのよ。」
いつものやわらかい口調で母が言う。
だが、集が納得できるはずがない。
「孝兄が!?」
「そうそう、何か早いと危ないんだって。…あら?」
バタンと扉が閉まる音。半分も話を聞いてもらえなかった母が、もうっ、とため息をついた。
何やってんだ俺は――。
走りながら集は自責した。
遅刻寸前で親子げんかなんか…。
ガサガサと森の中に入っていく町営グランドにつながる道だ。
そこを通った方が少しは距離が縮まる。
グランド内に足を踏み入れる。
乾いた土の感触が直接、伝わってくるような気がして…思わず、足を止めた。
―走れよ―
すぐ近く、いや、俺の中で声がした。
―走れ、思いきり。何も考えるな―
どこか、体の奥底からわき出てくるような声。
その深い響きに思わず身震いした。
―走れ、さあ、さあ、さあ!走れ!!―
すぅっ、と一つ息を吸い込んで走り出した。
足が、腕が、全身がとても軽い。
風を切り、走る感じ、全身がしなやかに前へと進む感じが心地よかった。
反対側に着くのがいつもより早く感じられた。
腕時計を見る。
AM8:25.
ヤバイってこれ!!
入学式遅刻ってどうなんだよ!?
集はひたすらに走り続けるしかなかった。




