ラストスパート!
「何で…ここに。」
拓真の肩越しにその人物が見える。
俺は目を疑った。
「や…やっと、見つけた。」
俺の視線の先の人物は息をきらして、俺たちを見ている。
「うわ、夏原!」
「…萩。お前、っ!」
その時、背後からも怒気を含んだ声が聞こえた。
「み、峰川!?」
ご丁寧に、拓真が二人の名前を呼んでくれた。
つまり俺たちのもとに、陸上部の2トップが集まってくれた訳だ。
…何てありがたくねぇ。
「お二人さん、意外と早かったね。」
嫌味たっぷりに言うと、峰川は眉間にしわを寄せた。
「…お前の手回しの早さには驚いたよ。」
「それはそれは。光栄なことです。」
呆れ顔で言う夏原に、肩をすくめて答える。
「まさか、呼び出し食らうとは思わなかったからな。」
「だってぇ、君ら勉強に熱心だからさ。先生と熱く語り合う機会も欲しいだろうと思って。」
「…余計なお世話だ。」
夏原の言葉に答えると、今まで黙っていた峰川がぼそりと言った。
何か、迫力ある。
「やっと解放されたと思ったら、ラグビー部員が押し寄せて来るし。」
うんざりした顔で言う夏原。
隣の拓真は頬を引きつらせている。
「俺…お前は敵に回したくねぇよ。」
「そりゃどーも。」
言いながら、拓真のでこをはじく。
感想がそれかよ。
思ったが、口に出すのは止めておいた。
いてぇ、とうなる拓真は涙目だ。
「まぁ…会えて良かったよ、捺芽くん。」
「な、夏原?」
急に夏原がにこやかに言ってきた。
拓真が不安げな顔でその名を呼ぶ。
「これ以上、君を野放しにしておく訳にはいかないからね。」
「…思い通りにはさせねーよ。倉田は俺たちのもんだ。」
真剣な表情で言う峰川。
その言葉に満足そうに笑う夏原。
隣でオロオロしている拓真。
そして、弟くんを諦めきれない俺。
まったく、面倒なやつに目を付けちまったよ。
「さぁて、どうすっかなー。」
言いながらグランドに目をやる。
そしてにやりと笑った。
俺の足は走るのを止めていた。
これ以上、走る気力が起こらなかったのだ。
瞳を閉じて、その時を待った。
近づいて来た足音が止まる。
それとほとんど同時に手を掴まれ、ぐいと引っ張られた。
覚悟はしていたが、びくっと体が震える。
「集!!」
名前を呼ばれる。
…え?
瞳を開けて、俺を必死で引っ張っていく人物を見た。
「あ…え?侑希。」
「集、しっかり走れよ!ばかっ!!」
「え…あ…うん。」
侑希は本当に怒った顔で言ってきた。
階段を降り、グランドの土を踏む。
ザワリと血が騒いだ、気がした。
もう全力は無理だ、と訴える体。
それとは裏腹に、走れ、と俺の中の何かがささやきかける。
よく通るその深い声音に身震いした。
「集?」
足を止めてうつむく俺に、侑希が心配そうに声をかけてくる。
「倉田、待てー。」
後ろで声がする。
はっとして顔を上げた。
そして走り出す。
「集、大丈夫か?」
侑希が後ろを振り向いて聞いてくる。
「わっ、侑希前っ!!」
前方不注意の侑希は見事にぶつかった。
縁があるのか、ラグビー部員の中井に…。
「っ…集、走れ!」
侑希が俺を後ろに突き飛ばして叫んだ。
「わかったっ。」
すばやく反応して、人のいない方向に走り出す。
だが、前から突然人が飛び出してきた。
「…くっ!」
無理矢理後ろに飛びのいて、その人物をすり抜けるようにかわした。
人の多いグランドから出て、校舎の外周を走った。
走っていると、後ろを振り向かなくてもその息遣いや足音で、追いつかれそうであることがわかる。
苦しい…っ。
バクバクと心臓が激しく波打ち、口の中が乾く。
なかなか鳴ってくれないチャイムに絶望した。
いつまで続くのかわからないこの追いかけっこに気が遠のいていく。
そんな俺の横を、嫌味なまでに速いスピードの影が通り抜ける。
「弟くーん!!」
その言葉に本当に絶望した。
俺はもうくたくたで、速くは走れない。
薄闇の中からの言葉に、後ろのラグビー部員たちのスピードが落ちた。
嘘だろ…。
あと、ほんの少し…なのに。
俺は唇を噛みしめて、走り続けた。
悔しいが、走り続けることしかできなかった。
「おい…はよ乗れ、集!!」
…え?
か、関西弁?
前方から聞こえてきた声に、目をしばたかせる。
「何しとんのや、集!」
また、関西弁…ってことはやっぱり…。
俺は不思議と心臓が高鳴るのを感じた。
その影、佐野直一はチャリにまたがって、じれたように見てくる。
俺は、すばやく足をかけた。
その影がラグビー部員ではないことを悟ったのか、後ろの2、3人が慌てて追いかけてくる。
だが、さすが自転車。
スイスイ進んでいく。
「何で…」
「葵ちゃん、やっけ?その子が教えてくれたんや。集は、外におるって。」
俺が問いかけようとすると、先に直一が言った。
「そっか…。ありがとな。」
「うん?今、何て…?」
俺はそれには答えず、直一の肩に手をかけ、天を仰いだ。
厚い雲でおおわれた空は、ほとんど闇に包まれている。
ぽた、と雨が俺の顔に落ちた。
それを始めとしてか、本格的に降り出す。
後から後から降り続く雨粒は、視界を悪くさせた。
「げっ…。」
直一の表情が固まった。
チャリのすぐ前に人が立っていたのだ。
方向を変える余裕もなく、チャリはその人にぶつかった。
…というよりは、止められた。
そのちょうど一分後、チャイムが鳴った。
鬼ごっこ―――終了…!!次回、ついに本編最終回。集はどうなる!? 評価・感想待ってます。




