一緒に逃げよう!
「ったく、お前何やってんだよ!」
「何て…倉田探しとったんや。」
二年の教室から離れ、渡りローカの端まで来た侑希と佐野の二人。
苛立っている侑希に不思議そうな顔を向けて、佐野は答えた。
「あのな、今俺たちが行っても邪魔になるだけだろうが!!」
「けどなぁ…じっとしとるだけやなんて俺、我慢でけへんわ。」
「それは、そうだけど…。」
佐野の言葉に侑希は口ごもる。
侑希も、集のために何か行動したくてたまらないのだ。
「でもな、それで逆に迷惑になったら集…陸上部に入れなくなっちまうだろ?」
自分自身にいい聞かせるように、ゆっくりした口調で侑希は言う。
「……なぁ、侑希。」
しばらく黙っていた佐野が、口を開く。
侑希は何も言わず、佐野の顔を見た。
そして、目で先をうながす。
「倉田集て、どんだけ速いんや?」
あえてフルネームで呼んだ佐野を、侑希は怪訝そうに見た。
倉田集は、どれだけ速いのか?
答えとして、集のベストタイムを言うだけなら簡単だ。
それは、しっかり覚えているから。
…けど、佐野の求めている答えには不十分な気がしてならない。
もっと違う答え、か。
「多分…だけど。全国レベルはダテじゃない。…見てて飽きないっていうか、つい見惚れるような走りで。」
しばらく考え込んで、侑希は必死に言葉をつむいだ。
言いながら、思い浮かべる。
集の、綺麗な走りを。
佐野は、そんな侑希をじっと聞いていた。
「…風…うん、風だ。」
「へ?」
ふいに侑希の口からこぼれた言葉に、佐野はきょとんとした。
「集が走ってると、風が見えるんだよ。ふわっていうか…なんかそんな感じで。…ごめん、変だよな?」
「そんなことない。…侑希、よう見とるなぁ。」
真剣な顔で言う佐野に、侑希は頬を赤くした。
「べっ、別に!お、俺はただ、見ててそう思っただけで!!」
そう言う侑希を、佐野は不思議そうに小首をかしげて見た。
「な、侑希?」
「なっ、何だよっ?」
慌てて聞き返す侑希を、佐野はまっすぐに見た。
「お前は、見とるだけなんか?一緒に走っとるんやろ。ほんなら、何か感じへんの?」
侑希は、はっと息をのんだ。
集と…一緒に走って?
俺は、何を感じてるんだろう。
「…集は、本当に速くて。俺なんか比べものにならないくらいにさ。…けど、楽しいな。集と走るの、楽しい。」
タイムなんて、関係ないよ。
そう言って朗らかに笑う侑希を、佐野は見つめる。
「そっかぁ。…俺も、走りてぇな!」
渡りローカから外を眺めて、佐野は叫ぶように言った。
「…集、どこだろうな?」
「せや!はよ助けにいかな!」
「って、人の話聞いてたのかよ!?」
「ん、何やっけ?」
佐野の言葉に、侑希は露骨にため息をつく。
「だから、今行っても邪魔なだけだって!」
「大丈夫やって!あいつは…倉田は、風なんやろ?俺も、一緒に走るさかい。倉田と一緒に逃げるんや。」
「はぁ?」
唐突にすごいことを言い出す佐野に、侑希は目をむいた。
「あー…倉田どこやろ?」
「お、お前な。場所もわかんねぇくせに…んなこと言うなよ。」
半ば呆れ気味に、半ば安心して侑希は言った。
「…倉田くんなら、外じゃないかな?」
「え?」
「なっ…あ、葵!?」
いつの間にいたのか、葵がにこやかに笑って立っていた。
佐野の表情がぱっと輝き、侑希のそれは一気にくもった。
「ほんまに!?ありがとう、葵ちゃん!」
「どういたしまして。」
言ってから、佐野はすぐに走り出した。
その後ろ姿を、葵は微笑んで見つめる。
「あ、葵っ!!おまっ、余計なことを…。」
焦りながら、怒鳴る侑希にも葵は微笑みを向ける。
「侑希も行ったら?倉田くんのとこ。」
思いがけぬ言葉に、侑希は目を丸くする。
が、すぐにムスッとした表情になった。
「…ありがとよ。」
「うん!」
ぶっきらぼうに言って侑希は走り出した。
「…少しは、役に立てたかな?」
渡りローカからグランドを見下ろして、葵はつぶやきに近い声で言った。
集のタイムくらい、侑希は完璧に覚えてます。 侑希 「当たり前だろ!」 けど、葵ちゃんのことはあんまりわかってないみたいだよね? 侑希 「なんで、葵が出てくんだよ…。」 だってそうじゃん。葵ちゃんは侑希のこと面白いくらいにわかってるのにさ。 侑希 「そうなのか!?何で?」…だから、わかってないんだよ。 侑希 「??」 ま、いいよ。次回、集がついに!? 評価・感想待ってます。




