不安の種は成長します。
現実逃避のため、俺はずっと目を閉じている。
目を開けてはいけない。
俺の中でずたずたにされたプライドが最後にあがいた。
「…どうしたの、大丈夫?」
その時、上からハスキーな声が降ってきた。
かぜ気味のようでかすれている。
人いましたかー!!
心の中で叫んで絶望する。
最悪だ…。
声を出すわけにはいかないので、うつむいたままこくこくと頷いた。
ここで男だとバレたら…恐ろしい。
きっと部活だとか言っている余裕もなくなるだろう。
もしかすると、転校なんてことも…。
暑くもないのに汗がどっと出た。
これを冷や汗っていうんだな…。
そんなことを思いながら苦笑する。
「ねぇ…君さ、男でしょ?」
「っ!!?」
なっ…何でバレた!?
っていうか、俺の不安の種を一気に発芽させちゃったよこの人!
冷や汗が凍ってしまいそうなほどに、全身が冷たくなった。
とりあえず、否定するために頭を左右に振る。
だが、その人はなかなか引き下がってくれない。
「じゃあ、顔見せてよ。」
なんて言ってきたから、さぁ大変!
どうする…どうするよ、俺っ!?
っていうか古後先輩っ、何かフォローしてください!
「…どうしたの、早く見せて。」
いたずらっぽい声で、その人はささやいてくる。
ここで見せないのは不自然か…。
でも!
バレたら、俺のスクールライフは…地獄!!
仕方、ないな。
俺は自分の乏しいイメージの中で、精一杯“可愛い顔”を作った。
一度頬をつねる。
…痛い。
そして、顔を上げた。
「…あれ?…あ、やっぱり男だ。」
「……え?」
俺は…固まった。
「上目遣いだし、瞳はうるんでるし…女かと思っちゃった。けど、やっぱり男だね。」
「…なん、で…?」
微笑みながら言うその人の言葉はほとんど届いていない。
ただ、目を見張った。
「なぜって…他の人はごまかせても、この僕の目はごまかせないよ?」
いやいや、そんな事を聞いている訳じゃない。
俺が言いたいのは、もっと根本的なことで!!
「そうじゃなくて…だから、その…。」
「何?はっきり言ってよ。」
「だからっ…どうして男子がここにいるんですか!?」
俺の目の前にいるその人―――男子に問いかける。
「君も男じゃないか。」
「…。」
そうなんだけどさっ!
俺は不可抗力だったんだ、事故だったんだ!
「…それに、男がここにいて何が悪いのさ?僕は、君が入ってきた時の方が驚いたよ。」
「…へ?」
どういう事だ?
だって、ここは女子トイレじゃ…
「って、なぁ!?」
周りを見て驚いた。
そこには、女子トイレにはないものが並んでいたのだ。
ってことは、ここはつまり…
「男子トイレ?」
その人は頷いた。
どうりで古後先輩がいない訳だ。
「…君、知らずに入ったってどういう事だよ。…それ以前に、その格好は何?」
「えっ…それは、その…」
指摘されて、急に恥ずかしくなった。
俺は早口で簡単ないきさつを説明する。
「…へー、それは大変だね。」
まるっきり他人事のような、棒読みの感想。
仕方ないことかもしれないが、さすがにいらっとする。
「あーあ…君が女だったら面白いシチュエーションだったのになぁ。」
「…はぁ。」
気のない返事をした。
とりあえず、俺のプライドはなんとか保たれたという訳だ。
よかったよかった。
集の早とちりでした(笑) 次回、謎の(?)男子生徒のペースに巻き込まれる集。果たして、どうなる!? 評価・感想待ってます。




