小学生と中学生のはざまで
それから数十分後…。
「よう、侑希。来るの早いなー。」
「…こんの、あほ集が!!良く見てみろ、みんな来てるっての!…本当に、心配かけんなよ!!」
遅刻してきた集を、侑希が安堵した顔で一蹴する。
「うわっ、将人に負けた!!大遅刻だ!」
普段遅刻魔の将人の姿を見て、集が悔しがる。
「うわうわっ、それひでーよ集ちゃん!」
すかさず将人がつっこみ、しばし笑いが起こる。
「あっ、そういや集。関西人がお前の兄貴探してたぜ。」
「関西人が、孝兄を…?」
なんとなく心当たりがあるような…。
昨日のことを思い出す。
ごついガタイの少年が関西弁を話していたような…。
でも、何で孝兄を?
「そうそう、何か孝兄に用があるみたいだったぜ。」
将人が言う。
謎は深まるばかりで、何も考えがまとまらない。
思わず考え込んでしまう。
「まあまあ、そんな難しい顔するなよ。俺たちには関係ねぇじゃん。」
「そうだって。それより、遊ぼうぜ?」
将人が他人事のように言う。
まぁ、実際他人事なのだが…。
考えても仕方ない、って訳か。
ふっ、と短く息を吐き出し笑顔を作る。
「そうだなっ、ほんじゃあ…」
そう言って、タンッと地面を蹴り、将人の頭を叩いた。
へっ?と、将人がまぬけな声を出す。
「…将人っ、お前が“鬼”でスタートな!」
楽しそうに言った集の声をきっかけに、一斉に少年たちが将人から飛びのいた。
そして、いきおいよく走り出す。
「おいっ、集、コノヤロー!遅刻者が鬼しろよ!!」
将人が反論の声を上げる。
だが、その言葉とは裏腹に素直に“鬼”として走り出す。
「集、覚悟しとけよー。」
「きゃー、将人くんこわーい!」
将人が集を追って走る。少年たちのにぎやかな声が、太陽の光をいっぱいに受ける町営グランドに広がっていった。
春休みの数週間はあっという間に過ぎ去るもんなんだな。
明日は中学の入学式という日の夕方、俺はぼんやりと思った。
隣で、将人と侑希が芝生の上に寝転がって、朱に染まる空を仰いでいる。
汗がうっすら乾いて、ひんぱんに駆け抜ける風が冷たく感じる。
隣に寝転がる2人を横を向いて、見る。
まっすぐ上に向けられた視線はゆるがない。
小さい頃から一緒に走ってきた2人の横顔が、見たことないほどにたくましく見える。
ふ、と侑希が横を見る。
いきなりのことで俺はどきりとした。
「…明日から中学生か…。」
つぶやきに近い声で侑希が言う。
「集、将人…。部活、陸上部に入るよな?」
真剣な表情で問うてくる侑希に、一瞬息を呑む。
将人は相変わらず、暗くなっていく空を見つめている。
侑希は答えを待つように、今度はじっと将人の方を見つめる。
「……当たり前じゃん。それより他に何に入るんだよ?」
いつもの調子で、将人が答える。
侑希が俺の方を見る。
俺はにっ、と笑って見せた。
「…そーだよな。」
侑希もふわりと優しい笑顔を浮かべて、空を見上げた。
風が止み、暖かい空気が俺たちを包み込む。
そう。俺たちは、また一緒に走るんだ。




