萩先輩を甘くみてはいけません。
一日遅れました。 すみませんっ!!
二年の教室に入って50分が経過した。
…俺には2時間くらい経っているように思えるけど。
とにかく、何もできずにいるので時間が遅く感じられた。
俺をこの場所に連れてきた張本人、白河先輩。
この人は、カーテンに隠れて寝てるし。
なんでも寝不足らしい。
ため息をついて、窓の外を眺める。
厚い雲が空をうめつくしていた。
雨でも降りそうな、どんよりした天気。
なんとなく、俺も同じ気分だ。
…俺、こんなことしてていいのか?
そんなことを虚しく考える。
その時、二年生が4、5人教室に入ってきた。
その姿を見て、俺は頬を引きつらせる。
体操服ではないが、明らかに彼らの体型はラグビー部員のものだった。
そりゃあもう、見事な逆三角形。
ヤバくないっ?
ヤバいよね!?
俺、どうすりゃいいんだよ?
完全にパニックに陥った頭で考える。
とりあえず、白河先輩を起こそうと手を伸ばした。
が、その手を誰かに掴まれた。
驚いて、すばやくその手の主を見上げる。
えっ…?
「順子ってさ、本当顔に出やすいよねー。」
「そうそう。面白いくらいに。」
「え…そっ、そんなことないよー。そーいう未来こそあの時は…」
俺の手を掴んでいたのは、教室にいた女子の先輩たちだった。
いつの間にか、俺と白河先輩を見えないように取り囲んでいる。
俺は訳がわからず、目をしばたかせた。
ふいに、手を離される。
その先輩を見ると、ウインクしてきた。
もしかして、この人たち……俺たちを隠してくれている?
俺はほっと息をついた。
白河先輩の手回しだろうか?
とにかく、助かった…。
その時、絶妙なタイミングで悪魔の声がした。
「倉田っ!…おーい、倉田ぁー。」
俺はすっと肝を冷やした。
こ、この声は、佐野…だよな?
教室内の空気が一瞬にして張りつめる。
「…ここに、いるのか?」
「あいつ、“倉田”って言ってたよな?」
ラグビー部員のささやき声が、すぐ近くで聞こえた。
女子の先輩たちも表情をこわばらせる。
ヤバいだろ、本当に!
「…あっ、ナオ!や、やっと見つけた。」
その時、追い討ちをかけるような声。
まさか…侑希まで…?
俺の心臓は、信じられない速さで動いている。
この場所から逃げ出したい。
誰にも気付かれずに逃げてしまいたい…。
そんなことを思ってしまう。
「おっ、侑希やん。どないした?」
「ちょっと耳貸せよ?………わかったか?」
侑希が佐野に何か言っているようだ。
残念ながら聞こえないけど…。
いや、それにしても何かさ…侑希の声がめちゃくちゃ恐い。
「…な、なんや!!そっ、そうやったんかぁ。ガセつかまされたわ。」
どことなくわざとらしい声で佐野が言った。
そして、教室から出ていく。
侑希が芝居しろとでも言ったのか?
…脅したのか?
「…どうする?違うみたいだぜ?」
「次行くか。白河か、一年を見つけりゃいいんだろ?」
「ああ。」
ラグビー部員の重量感のある足音が遠ざかっていく。
…単純な人たちでよかったぁ。
女子の先輩たちもさりげなく離れていく。
俺は感謝の意味を込めて頭を下げた。
ところで、どうして白河先輩も追われているんだろう?
「…倉田。」
その時、白河先輩がカーテンから顔を出さずに言った。
「はい?」
「実は、俺も逃げ役なんだよ。倉田と同じで。」
いきなりの衝撃発言に俺は思わず息をのんだ。
「せ、先輩も?」
「うん。…だから、いらない事で悩むんじゃないぞ。…俺も、倉田が陸上部に入ることを望んでるんだからな。」
「…はい。」
俺の心の中を見透かしたように白河先輩は言った。
いらない事で悩むな、か。
そうだよな、俺は逃げ切らなきゃいけねぇんだ。
この先輩たちと走るためにも…。
俺は窓の外を見た。
乾いたグランドが見える。
―走りたい。―
息が詰まるほどそう思う。
走ることが許されない今、自分の中で渦巻く感情がとてつもなく苦しい。
「窓、開けていいですか?」
白河先輩は何も言わない。
俺は静かに窓を開ける。
ふっとグランドの匂いが届いたような気がした。
反射的にそちらへ目を向ける。
そのまま、動けなくなった。
俺の視線の先に、萩先輩の瞳がうつる。
窓にかけた手が自然と強く握られた。
「…?どうした、倉田?」
白河先輩が怪訝そうに尋ねて、頭を上げようとしてきた。
とっさに俺はその頭を押さえつける。
それとほとんど同時に、萩先輩が目をそらした。
緊張から解放されたように、へにゃへにゃとイスに座り込む。
「一体どうしたんだよ、倉田?」
俺の顔をのぞき込みながら尋ねてきた。
「は、萩先輩に…見つかったかもしれません…。」
「萩先輩…ラグビー部のか?でも、倉田は今、女だし…。」
「あの、萩先輩ですよ?…きっとバレてる。」
俺が萩先輩を強調して言うと、白河先輩は納得した表情になった。
「…仕方ない、か。急いで倉田。逃げるよ。」
俺は、どこにですか、と聞こうとした。
その時、白河先輩がすばやく耳打ちする。
「………わかった?」
「…はい。」
俺がうなずくと、白河先輩は少し不安げに微笑んだ。
そしてベランダへ飛び出していく。
俺は、白河先輩の指示を頭の中で反すうした。
今は、逃げ切るためにどうすればいいのか、そのことだけを考えた。
侑希は、集のことになると人格(?)が変わるみたいです。 女子を味方に付けるとは…やるな、白河先輩! さてさて、萩先輩もいい感じに絡んできて、次回は激動の予感!? 評価・感想待ってます。




