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タイム!!  作者: 音無奏
39/48

萩先輩を甘くみてはいけません。

一日遅れました。    すみませんっ!!

 二年の教室に入って50分が経過した。

 …俺には2時間くらい経っているように思えるけど。


 とにかく、何もできずにいるので時間が遅く感じられた。


 俺をこの場所に連れてきた張本人、白河先輩。

 この人は、カーテンに隠れて寝てるし。

 なんでも寝不足らしい。


 ため息をついて、窓の外を眺める。

 厚い雲が空をうめつくしていた。

 雨でも降りそうな、どんよりした天気。


 なんとなく、俺も同じ気分だ。

 …俺、こんなことしてていいのか?


 そんなことを虚しく考える。


 その時、二年生が4、5人教室に入ってきた。


 その姿を見て、俺は頬を引きつらせる。


 体操服ではないが、明らかに彼らの体型はラグビー部員のものだった。

 そりゃあもう、見事な逆三角形。


 ヤバくないっ?

 ヤバいよね!?

 俺、どうすりゃいいんだよ?


 完全にパニックに陥った頭で考える。

 とりあえず、白河先輩を起こそうと手を伸ばした。


 が、その手を誰かに掴まれた。

 驚いて、すばやくその手の主を見上げる。


 えっ…?



「順子ってさ、本当顔に出やすいよねー。」


「そうそう。面白いくらいに。」


「え…そっ、そんなことないよー。そーいう未来こそあの時は…」



 俺の手を掴んでいたのは、教室にいた女子の先輩たちだった。

 いつの間にか、俺と白河先輩を見えないように取り囲んでいる。


 俺は訳がわからず、目をしばたかせた。


 ふいに、手を離される。

 その先輩を見ると、ウインクしてきた。


 もしかして、この人たち……俺たちを隠してくれている?


 俺はほっと息をついた。


 白河先輩の手回しだろうか?

 とにかく、助かった…。


 その時、絶妙なタイミングで悪魔の声がした。



「倉田っ!…おーい、倉田ぁー。」



 俺はすっと肝を冷やした。


 こ、この声は、佐野…だよな?


 教室内の空気が一瞬にして張りつめる。



「…ここに、いるのか?」


「あいつ、“倉田”って言ってたよな?」



 ラグビー部員のささやき声が、すぐ近くで聞こえた。


 女子の先輩たちも表情をこわばらせる。


 ヤバいだろ、本当に!



「…あっ、ナオ!や、やっと見つけた。」



 その時、追い討ちをかけるような声。


 まさか…侑希まで…?


 俺の心臓は、信じられない速さで動いている。


 この場所から逃げ出したい。

 誰にも気付かれずに逃げてしまいたい…。


 そんなことを思ってしまう。



「おっ、侑希やん。どないした?」


「ちょっと耳貸せよ?………わかったか?」



 侑希が佐野に何か言っているようだ。

 残念ながら聞こえないけど…。


 いや、それにしても何かさ…侑希の声がめちゃくちゃ恐い。



「…な、なんや!!そっ、そうやったんかぁ。ガセつかまされたわ。」



 どことなくわざとらしい声で佐野が言った。

 そして、教室から出ていく。


 侑希が芝居しろとでも言ったのか?

 …脅したのか?



「…どうする?違うみたいだぜ?」


「次行くか。白河か、一年を見つけりゃいいんだろ?」


「ああ。」



 ラグビー部員の重量感のある足音が遠ざかっていく。


 …単純な人たちでよかったぁ。


 女子の先輩たちもさりげなく離れていく。

 俺は感謝の意味を込めて頭を下げた。


 ところで、どうして白河先輩も追われているんだろう?



「…倉田。」



 その時、白河先輩がカーテンから顔を出さずに言った。



「はい?」


「実は、俺も逃げ役なんだよ。倉田と同じで。」



 いきなりの衝撃発言に俺は思わず息をのんだ。



「せ、先輩も?」


「うん。…だから、いらない事で悩むんじゃないぞ。…俺も、倉田が陸上部に入ることを望んでるんだからな。」


「…はい。」



 俺の心の中を見透かしたように白河先輩は言った。


 いらない事で悩むな、か。

 そうだよな、俺は逃げ切らなきゃいけねぇんだ。

 この先輩たちと走るためにも…。


 俺は窓の外を見た。

 乾いたグランドが見える。



―走りたい。―



 息が詰まるほどそう思う。


 走ることが許されない今、自分の中で渦巻く感情がとてつもなく苦しい。



「窓、開けていいですか?」



 白河先輩は何も言わない。

 俺は静かに窓を開ける。


 ふっとグランドの匂いが届いたような気がした。

 反射的にそちらへ目を向ける。


 そのまま、動けなくなった。


 俺の視線の先に、萩先輩の瞳がうつる。


 窓にかけた手が自然と強く握られた。



「…?どうした、倉田?」



 白河先輩が怪訝そうに尋ねて、頭を上げようとしてきた。

 とっさに俺はその頭を押さえつける。


 それとほとんど同時に、萩先輩が目をそらした。


 緊張から解放されたように、へにゃへにゃとイスに座り込む。



「一体どうしたんだよ、倉田?」



 俺の顔をのぞき込みながら尋ねてきた。



「は、萩先輩に…見つかったかもしれません…。」


「萩先輩…ラグビー部のか?でも、倉田は今、女だし…。」


「あの、萩先輩ですよ?…きっとバレてる。」



 俺が萩先輩を強調して言うと、白河先輩は納得した表情になった。



「…仕方ない、か。急いで倉田。逃げるよ。」



 俺は、どこにですか、と聞こうとした。

 その時、白河先輩がすばやく耳打ちする。



「………わかった?」


「…はい。」



 俺がうなずくと、白河先輩は少し不安げに微笑んだ。

 そしてベランダへ飛び出していく。


 俺は、白河先輩の指示を頭の中で反すうした。


 今は、逃げ切るためにどうすればいいのか、そのことだけを考えた。

侑希は、集のことになると人格(?)が変わるみたいです。          女子を味方に付けるとは…やるな、白河先輩!   さてさて、萩先輩もいい感じに絡んできて、次回は激動の予感!?      評価・感想待ってます。

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