表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タイム!!  作者: 音無奏
34/48

長いようで短い日常。

「…弟くーん!」



 俺はその言葉に敏感に反応した。


 いろいろと考えているうちに、もう学校近くに来ていたようだ。


 俺をこんな風に呼ぶものは、ラグビー部員だけ…いや、もう一人いた。

 佐野直一…イマイチつかめない男、そいつである。



「ったく、そんな風に呼ぶなっつたろ?」



 俺は言いながら振り返った。


 表情が凍る。

 見事に俺の予想は覆されたのだ。



「えっ?…言われたっけ。」



 俺に声をかけてきたのは、今最も会いたくない人物である萩先輩だったのだ。



「いえ、こっちの話です。…何か用ですか?」



 俺は冷たく言い返す。



「冷たいなぁ〜。…あっ、おはよう、弟くん。」


「……おはようございます。」



 萩先輩の視線が痛いほどに注がれたので、仕方なく俺はあいさつを返した。



「いやぁ〜、いつから鬼ごっこするのか言ってなかったから…。」



 言われなくても普通わかるでしょう…。


 そう言い返しそうになるのをぐっとこらえた。



「…じゃあ、今日の9時からねー。」


「………はいっ?」



 一瞬、何を言われているのかわからなくなった。


 9時とは…夜の?

 それとも…。



「朝の9時から、下校時間までってことで。」



 さらりと萩先輩は言う。



 な…何ですと!?

 そんなの、俺に授業そっちのけで逃げ回れということですか?



 俺は、そんな訴えを萩先輩に申したてた。



「むむむむ…無理ですっ!絶ッ対無理ですって!そんなのっ…俺、授業どころじゃなくなりますよっ!?」



 すると突然、萩先輩がくすくすと笑いだした。


 俺はきょとんとなる。



「…なんてね、うっそ。弟くんの反応が可愛いから、ついー。」



 ついってなんだ、ついって!?


 もう、この人を信じることができなくなった。

 もとより、信頼などという単語はないにも等しかったが。



「じゃっ、また放課後ねー。」



 萩先輩はからかうだけからかって、さっさと行ってしまった。


 少しの間、俺はぼう然としていて動く気になれなかった。

 そんな俺の目の前にひょっこりと顔が現れた。



「あ…やっぱり倉田くんだ。おはよう。」


「…わっ…あ、葵ちゃん!?」



 あまりに突然のことで声が裏返ってしまった。


 そんな俺を見て、葵ちゃんは笑い出す。

 かぁっ、と顔が熱くなった。



「どっ…どうしたの!?」


「どうしたのって、何か倉田くんぼーっとしてたから…。あっ!そうだ、聞いたよ。今日なんだってね、鬼ごっこ。」



 並んで歩いていると、葵ちゃんが突然言い出した。 俺は驚いて、その横顔をまじまじと見てしまう。



「何で知ってんの!?」


「えっ?倉田くん見てないんだ、これ。」



 そう言って、カバンの中から一枚のチラシのようなものを取り出してくれた。 それをのぞき込んで、硬直した。


 そこには…


【ラグビー部との真剣勝負!!鬼ごっこスケジュール表】


 とかいうおふざけが書いてあって、いくつかの運動部の名前があった。

 無論、陸上部もある。



「…何、コレ。」



 頬をひくひくさせつつ、俺は努めて冷静に尋ねた。



「うーん、なんか毎年こんな告知してるみたい。けが人とか出た年もあるみたいだから。…倉田くん、気を付けてね。」


「…うん。」



 本当に、やばいかもしれない。

 けが人が出たって?

 しかも、何で陸上部のとこだけ、若干時間が長いんだ?


 どっと押し寄せてくる後悔につぶされないよう、必死だった。

 なんだって、こんなことになったんだろう…。


 むなしい問いの答えは、当然ながらなかった。




 それからは、なんにも変わらない一日だった。


 授業の内容も、数学の関口の口癖も、何一つとしてかわらない。



 だが、放課後が近付くにつれて確実に、俺の鼓動は高まっていった。


 不安と興奮…似つかない二つの感情が俺の中で膨らみ、渦巻いている。



 そしてその時は、きた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ