不器用な一途さ。
「ようこそ、ラグビー部へ。俺は副部長の田川友二、君は?」
「…倉田です。」
「下の名前は集。…孝介先輩の弟くんだ。」
萩先輩が俺の言葉に付け足した。
その途端、田川先輩の瞳の輝きが増す。
非常に信じがたいことだが、孝兄はかなり慕われていたようだ。
家ではその鱗片さえもうかがわせないが…。
「マジかよっ!?孝介先輩のっ…弟!?」
「そっ…すげぇだろ?」
「すげぇよ!!マジですげぇ!強くなるぜラグビー部!」
なんだか、すでに俺が入ること前提で話が進められている。
実際に入る気はさらさらないのに…。
だが、田川先輩の本当に嬉しそうな顔を見ていると心が痛んだ。
これ以上話が進まないうちに断っておいたほうがよさそうだ。
「…俺、ラグビー部には入りません。」
一瞬の沈黙。
その後、田川先輩がへっ?と聞き返してきた。
困った顔を萩先輩に向けている。
「うー…ん。これが問題なんだよなー…。弟くん、ラグビー部に入らないなんておっしゃるんだもん。」
「なっ…。」
田川先輩の表情が凍りつく。
その時、部長さんが入ってきた。
萩先輩と、何故か俺の靴を持っている。
「ミヤ!弟くん何で入部しないとか言ってんの!?ランナーなんだろ!?」
「へっ…?」
「なぁ、ミヤ。弟くん入ってくれるよな?なぁっ!?」
「…ちょっ…お、おい落ち着けっ、田川!」
部長さんの肩を掴んで、田川先輩が必死に訴える。
いきなりのことに部長さんは靴を落とし、田川先輩をなだめた。
萩先輩は、シューズからのんびりと靴にはきかえている。
「…大丈夫か?」
少しして部長さんが口を開いた。
それに田川先輩がこくりと頷いて答える。
ここにきて、この人が部長であることに納得した。
一呼吸おいて、部長さんが口を開いた。
「弟くん…集、だったよな?その、集は、他に入りたい部活があるらしい。だから…どうしようもないっていうか…。」
しばらく沈黙が部室内を支配した。
だが、ふいにそれを萩先輩が破った。
「…どうしようもなくは、ないんじゃねぇか?」
「な…どういう事っ…あ…。」
「そっ…アレだよ、アーレ。」
言い終わると、萩先輩が俺を見て不敵に笑った。
残念ながら“アレ”が何なのかは大体わかっている。
「…しませんよ。」
「えっ?」
「入部届にサインなんてしません。」
田川先輩だけではない。 萩先輩までもが驚いた顔をした。
「…なぁんだ、孝介先輩に聞いてんだ。つまんねー。」
思った以上に軽く受け止められ、困惑した。
もっと、焦ると思っていたのに…。
萩先輩…本当に底が知れない人だ。
「おいっ、どうするんだよ?」
田川先輩が萩先輩にささやきかける。
それには答えず、ロッカーを開けて、一枚の紙を取り出した。
それは紛れもなく入部届で、保護者の欄には汚い字で倉田孝介と書かれている。
間違いなく、孝兄が渡したものだった。
「俺はな、弟くん。…欲しい、って思ったもんは絶対に手に入れるんだ。…だから…」
言いながら、つっ立っている俺の胸に入部届を押し付けてくる。
「…力づくでもサインさせる。」
周りにいる部長さんや田川先輩が息をのんだ。
萩先輩が入部届を押さえる手に力を込める。
俺はあっけなくよろめき、ドアに背中をぶつけた。
はらりと入部届が床に落ちる。
一歩、萩先輩が俺に近づいた。
威圧感…おかしがたい情熱、揺るがない精神がこの人の中には、ある。
こういうのが苦手だった。
ずっと想い続けることができる一途さに触れるのが怖い。
いつの間にか唇を強く噛んでいた。
こうしなければ涙が出てしまう気がしたからだ。
「…もうやめてやれ。集、怖がってるぞ!?」
部長さんが萩先輩の腕を掴んで言った。
だが、萩先輩はまた一歩俺に近づく。
田川先輩は何もできずにおろおろしている。
俺は、萩先輩のまっすぐな目に捕えられて、動くことができなかった。
集、ピンチ!! 一体、将人たちは何してるんだぁ!?




