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タイム!!  作者: 音無奏
25/48

不器用な一途さ。

 「ようこそ、ラグビー部へ。俺は副部長の田川友二(たがわ ゆうじ)、君は?」


「…倉田です。」


「下の名前は集。…孝介先輩の弟くんだ。」



 萩先輩が俺の言葉に付け足した。

 その途端、田川先輩の瞳の輝きが増す。


 非常に信じがたいことだが、孝兄はかなり慕われていたようだ。

 家ではその鱗片さえもうかがわせないが…。



「マジかよっ!?孝介先輩のっ…弟!?」


「そっ…すげぇだろ?」


「すげぇよ!!マジですげぇ!強くなるぜラグビー部!」



 なんだか、すでに俺が入ること前提で話が進められている。

 実際に入る気はさらさらないのに…。


 だが、田川先輩の本当に嬉しそうな顔を見ていると心が痛んだ。

 これ以上話が進まないうちに断っておいたほうがよさそうだ。



「…俺、ラグビー部には入りません。」



 一瞬の沈黙。


 その後、田川先輩がへっ?と聞き返してきた。

 困った顔を萩先輩に向けている。



「うー…ん。これが問題なんだよなー…。弟くん、ラグビー部に入らないなんておっしゃるんだもん。」


「なっ…。」



 田川先輩の表情が凍りつく。


 その時、部長さんが入ってきた。

 萩先輩と、何故か俺の靴を持っている。



「ミヤ!弟くん何で入部しないとか言ってんの!?ランナーなんだろ!?」


「へっ…?」


「なぁ、ミヤ。弟くん入ってくれるよな?なぁっ!?」


「…ちょっ…お、おい落ち着けっ、田川!」



 部長さんの肩を掴んで、田川先輩が必死に訴える。


 いきなりのことに部長さんは靴を落とし、田川先輩をなだめた。


 萩先輩は、シューズからのんびりと靴にはきかえている。



「…大丈夫か?」



 少しして部長さんが口を開いた。

 それに田川先輩がこくりと頷いて答える。


 ここにきて、この人が部長であることに納得した。


 一呼吸おいて、部長さんが口を開いた。



「弟くん…集、だったよな?その、集は、他に入りたい部活があるらしい。だから…どうしようもないっていうか…。」



 しばらく沈黙が部室内を支配した。


 だが、ふいにそれを萩先輩が破った。



「…どうしようもなくは、ないんじゃねぇか?」


「な…どういう事っ…あ…。」


「そっ…アレだよ、アーレ。」



 言い終わると、萩先輩が俺を見て不敵に笑った。


 残念ながら“アレ”が何なのかは大体わかっている。



「…しませんよ。」


「えっ?」


「入部届にサインなんてしません。」



 田川先輩だけではない。 萩先輩までもが驚いた顔をした。



「…なぁんだ、孝介先輩に聞いてんだ。つまんねー。」



 思った以上に軽く受け止められ、困惑した。

 もっと、焦ると思っていたのに…。


 萩先輩…本当に底が知れない人だ。



「おいっ、どうするんだよ?」



 田川先輩が萩先輩にささやきかける。


 それには答えず、ロッカーを開けて、一枚の紙を取り出した。




 それは紛れもなく入部届で、保護者の欄には汚い字で倉田孝介と書かれている。

 間違いなく、孝兄が渡したものだった。



「俺はな、弟くん。…欲しい、って思ったもんは絶対に手に入れるんだ。…だから…」



 言いながら、つっ立っている俺の胸に入部届を押し付けてくる。



「…力づくでもサインさせる。」



 周りにいる部長さんや田川先輩が息をのんだ。


 萩先輩が入部届を押さえる手に力を込める。

 俺はあっけなくよろめき、ドアに背中をぶつけた。


 はらりと入部届が床に落ちる。


 一歩、萩先輩が俺に近づいた。




 威圧感…おかしがたい情熱、揺るがない精神がこの人の中には、ある。


 こういうのが苦手だった。

 ずっと想い続けることができる一途さに触れるのが怖い。



 いつの間にか唇を強く噛んでいた。

 こうしなければ涙が出てしまう気がしたからだ。



「…もうやめてやれ。集、怖がってるぞ!?」



 部長さんが萩先輩の腕を掴んで言った。

 だが、萩先輩はまた一歩俺に近づく。


 田川先輩は何もできずにおろおろしている。


 俺は、萩先輩のまっすぐな目に捕えられて、動くことができなかった。

集、ピンチ!!     一体、将人たちは何してるんだぁ!?

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