敵のアジトに連れ込まれ…。
「うわぁっ!?」
グランドへ下りるための階段を軽々と飛んで、萩先輩はまた走り出した。
「ほぉら、抱きついた。」
俺はくすくすと笑う萩先輩の学ランから慌てて手を離した。
頬がやけに熱い。
イヤな熱さだった。
「うん。本当可愛いなぁ、弟くんは。…やっぱり…」
そこまで言って萩先輩は言葉を切り、歩きだした。
そして俺の顔を一瞬真剣な顔で見た。 だがすぐに、それを不敵な笑みにかえて、口を開いた。
「やっぱ、手放せねーよなぁ。」
いつの間にかグランドの一角、ラグビー部部室の前まで来ていた。
萩先輩がそのドアを軽く蹴る。
少しして中から低い声がした。
「…適性ポジションは?」
「最強ランナー!!」
その声に答えて萩先輩が言う。
中にいる人物が息をのんだのが、なんとなくわかった。
一瞬の静寂の後、おぉっという野太い歓声。
そして、ドアがいきおいよく開いた。
「ようこそ、ラグビー部へ。」
頬が引きつる俺に笑いかけ、萩先輩は部室内に一歩踏み込んだ。
室内は思った以上に狭かった。
器具は隅のほうに寄せられ、ズラリと並んだロッカーの間に長いベンチがいくつかある。
そしてベンチにはガタイのいい上級生たちが騒ぎながら立っていた。
なんか…暑苦しい…。
そのうちの一人が、俺たちのほうへ駆け寄ってきた。
「おい、捺芽。いつまで抱えてんだよ?」
言われて気付く。
俺はまだ萩先輩の腕の中だったのだ。
一気に顔が熱くなる。
真っ赤になってんだな、と自分でもわかった。
「早く降ろしてやれよ。」
先輩が言う。
やっと解放されると思うと、全身の力が抜けた。
だが…
「いやっ、もーちょっと。…だって、すっげぇ可愛いんだぜ?」
そう言って萩先輩は離そうとしない。
どれどれといった感じで先輩が俺の顔をのぞき込んだ。
そして、へぇーと声をあげる。
「すげぇな少年、めっちゃ可愛い。…ははっ、萩好みだなこの子。」
「だろっ?よくわかってんな田川。さっすがー。」
「まっ、一応な。」
田川と呼ばれた先輩はいっこうに俺を助けようとしない。
「おっ、降ろしてくださいっ!」
俺が必死になって言うと、いきなり田川先輩が笑いだした。
「しっかりしてんなーこの子。俺も嫌いじゃないな、こーいう子。…ほらっ、嫌われる前に降ろしてやれよ。」
もう嫌いだ、心の中でつぶやく。
「…ちぇっ、わかりましたよー。」
しぶしぶといった感じで萩先輩が俺を降ろす。
地面に足がついた途端、一気に脱力したが踏みとどまった。
今、倒れてしまったらどうなるかわからない。
ふぅ、と一息ついて顔を上げた。
なんとか落ち着きを保っている頭で考える。
さて、これからどうしたもんか…。




