リミットは一週間。
放課後、将人や侑希、佐野に昨日の孝兄との会話について話すことになった。
「…つまり、萩先輩が持っている入部届にサインしちまったらゲームオーバーって訳だな?」
話し終えると、将人が真っ先に口を開いた。
「…まぁ、簡単に言うとそうなるな。…でもな、将人。」
「うん?」
俺の方をキラキラした目で見てきた。
「お前…なんか楽しんでねぇ?」
「えっ?べっ、別に楽しんでねぇよ!…たっ、ただ、ゲームみたいだな…と。」
「思いっきり楽しんでるっつーの!」
言い訳をするように将人は言ったが、全然そうなっていない。
変に正直なやつだ。
「将人っ!おまっ…集が大変なのにお前は…。」
「うえっ!?…なっ、何で将人が泣くんだよっ!?」
「だっ…て、将人がっ…」
「まぁた泣いてんのか、侑希は…。」
言いながら涙目になっていく侑希に将人がとどめの言葉を放った。
途端に侑希の涙が数倍に膨れ上がる。
「ばっ…バカ将人っ!侑希がかわいそうじゃねーか!…おっ、おい侑希、もう泣くなよ。」
「ひゅー。集くん、優しーい。フォローが大変だね。」
わたわたと慰めていると、隣から将人がちゃかしてくる。
こいつ…っ!
さすがにイラッとする。
「お前のせいだろうが!」
「いてっ、叩くなバカ!」
俺たちのやり取りを佐野が笑いながら見ている。
こいつが一番楽しんでいる気がする…。
「ナオー、助けてくれぇ!」
将人がそんな佐野の後ろに隠れた。
佐野を間に、俺と将人が対じする形になる。
「わぉ、俺はどないすりゃええん?」
「とりあえず、集をどうにかしてくれ!」
「いーや、将人を捕まえといてくれ。」
ヘラヘラと笑いながら言った佐野の言葉をきっかけに、言い合いが始まった。 最初は楽しんでいた佐野も、今ではうんざり顔だ。
「お前ら、ええ加減にせぇよ…。」
「「うるせぇ!」」
見事に将人と声がかぶった。
佐野は困った顔をしている。
本当は…本当は自分でもわかっていた。
萩先輩への対策が浮かばない今、これからの一週間が不安で仕方なかったのだ。
突然、佐野が一歩俺に近付いた。
佐野の肩につかまっていた将人が前によろけて、背中にぶつかっている。
何だよ、といった感じの顔を佐野に向ける。
佐野はもう笑っていなかった。
困ったような顔もしていない、大人っぽい真剣な顔をしている。
俺は、こういう真剣な顔が好きではない。
ずっと見ていることができないのだ。
思わずうつむいてしまう。
少しして、倉田、と呼ばれた。
優しい穏やかな声だった。
だけど、顔を上げる気にはなれない。
その時、がっちりした手が俺の腕を掴んだ。
驚いて顔を上げると、目の前に佐野の顔があった。
倉田、ともう一度優しい声で名前を呼んでくる。
声と同じくらい優しい微笑みを浮かべていた。
「大丈夫やて。萩先輩から俺がお前を守ってやるさかい。…な?」
小さな子どもを教えさとす父親のような口調で、佐野が言う。
こくり、と息をのんだ。
「ばっ、バカ!何っ、恥ずかしいこと言ってんだ!」
こんな風に言われたことがなかった。
どうしていいのかわからない。
「わおっ、集くん赤くなってるー。かっわいー。」
将人が言った直後、侑希が俺の顔をのぞき込んでくる。
やっと泣き終わったらしく、鼻が赤い。
数秒間見つめられる、顔を見合わせるのが苦手なので居心地が悪い。
「本当だ。集、赤い。」
ぽつり、と心なしか悲しそうに侑希が言う。
また泣き出しそうなくらい切なげに。
「赤くないって!」
「いや…赤い。」
俺が即否定しても、侑希の反応は何故か冷たい。
将人が何かを納得したように、いたずらっぽく笑っている。
「なんだよ侑希、お前さ…。」
そこで将人は言葉を切った。
一斉に将人に視線が集まる。
「何なんだよ?」
「いや…ナオに嫉妬してんの?」
「「…はぁっ?」」
たまらず口を開いた侑希に将人が答える。
その将人の言葉に俺と佐野が同時に反応する。
「なっ…そんな訳ねーだろ、バカ将人!」
「どーだか。」
真っ先に否定する侑希に将人は笑みを深めながら言った。
「…何で、侑希が佐野に嫉妬するんだよ?」
頭の中がうまく整理できないまま、俺は将人に聞いた。
「…何で、って…なぁ?侑希。」
俺の質問の答えを言おうとせず、侑希に視線を戻した。
俺も侑希の方に視線を戻そうと振り返り、名前を呼ぶ。
「「侑希。」」
また、佐野と声がかぶる。
今度は佐野の方を向く。
目で、先にどうぞ、と言う。
佐野が一歩侑希に近づき、その手をとった。
侑希だけでなく俺も驚いた顔になる。
将人だけが、興味津々といった顔だ。
佐野はというと、何も気にした様子もなく、握った手を胸のあたりまで持っていった。
「ごめんな侑希、嫉妬させてもうて。」
「はぁっ?」
「は?やのうて…何言うてんねん。俺に嫉妬しとるんやろ?」
「え…。いや、してねぇから!」
佐野の激しい思い込みを侑希は全否定する。
佐野は困った顔を将人に向けた。
「照れんなよ侑希。」
「照れてねぇ!!」
将人は俺の方をちらっと見て、からかうように侑希に言った。
「またまたぁー、恥ずかしがっちゃって。」
「侑希…ほんまごめんな。」
「人の話を聞けー!」
先ほどの将人の視線で、俺のことについて話していることはわかった。
何となくだけど…。
わかってはいるが、入り込むスキがない。
そんな俺の耳に、侑希の悲痛な叫びが聞こえた。
なんだか、侑希のキャラが勝手に変動してしまいました。 友達を大切にする子なんですよ!侑希ってやつは!だから、将人のことも大好きだと…思います。そうだよねっ、侑希? 侑希「…。」 ということです!思春期の少年はいろいろあるんですね! 侑希「…。」 話が続かないので、終わります…。




