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タイム!!  作者: 音無奏
21/48

リミットは一週間。

 放課後、将人や侑希、佐野に昨日の孝兄との会話について話すことになった。



「…つまり、萩先輩が持っている入部届にサインしちまったらゲームオーバーって訳だな?」



 話し終えると、将人が真っ先に口を開いた。



「…まぁ、簡単に言うとそうなるな。…でもな、将人。」


「うん?」



 俺の方をキラキラした目で見てきた。



「お前…なんか楽しんでねぇ?」


「えっ?べっ、別に楽しんでねぇよ!…たっ、ただ、ゲームみたいだな…と。」


「思いっきり楽しんでるっつーの!」



 言い訳をするように将人は言ったが、全然そうなっていない。

 変に正直なやつだ。



「将人っ!おまっ…集が大変なのにお前は…。」


「うえっ!?…なっ、何で将人が泣くんだよっ!?」


「だっ…て、将人がっ…」


「まぁた泣いてんのか、侑希は…。」



 言いながら涙目になっていく侑希に将人がとどめの言葉を放った。

 途端に侑希の涙が数倍に膨れ上がる。



「ばっ…バカ将人っ!侑希がかわいそうじゃねーか!…おっ、おい侑希、もう泣くなよ。」


「ひゅー。集くん、優しーい。フォローが大変だね。」



 わたわたと慰めていると、隣から将人がちゃかしてくる。



 こいつ…っ!



 さすがにイラッとする。



「お前のせいだろうが!」


「いてっ、叩くなバカ!」



 俺たちのやり取りを佐野が笑いながら見ている。

 こいつが一番楽しんでいる気がする…。



「ナオー、助けてくれぇ!」



 将人がそんな佐野の後ろに隠れた。


 佐野を間に、俺と将人が対じする形になる。



「わぉ、俺はどないすりゃええん?」


「とりあえず、集をどうにかしてくれ!」


「いーや、将人を捕まえといてくれ。」



 ヘラヘラと笑いながら言った佐野の言葉をきっかけに、言い合いが始まった。 最初は楽しんでいた佐野も、今ではうんざり顔だ。


「お前ら、ええ加減にせぇよ…。」



「「うるせぇ!」」



 見事に将人と声がかぶった。

 佐野は困った顔をしている。




 本当は…本当は自分でもわかっていた。


 萩先輩への対策が浮かばない今、これからの一週間が不安で仕方なかったのだ。



 突然、佐野が一歩俺に近付いた。

 佐野の肩につかまっていた将人が前によろけて、背中にぶつかっている。


 何だよ、といった感じの顔を佐野に向ける。



 佐野はもう笑っていなかった。

 困ったような顔もしていない、大人っぽい真剣な顔をしている。



 俺は、こういう真剣な顔が好きではない。

 ずっと見ていることができないのだ。


 思わずうつむいてしまう。



 少しして、倉田、と呼ばれた。

 優しい穏やかな声だった。


 だけど、顔を上げる気にはなれない。



 その時、がっちりした手が俺の腕を掴んだ。

 驚いて顔を上げると、目の前に佐野の顔があった。



 倉田、ともう一度優しい声で名前を呼んでくる。

 声と同じくらい優しい微笑みを浮かべていた。



「大丈夫やて。萩先輩から俺がお前を守ってやるさかい。…な?」



 小さな子どもを教えさとす父親のような口調で、佐野が言う。


 こくり、と息をのんだ。



「ばっ、バカ!何っ、恥ずかしいこと言ってんだ!」


 こんな風に言われたことがなかった。

 どうしていいのかわからない。


「わおっ、集くん赤くなってるー。かっわいー。」



 将人が言った直後、侑希が俺の顔をのぞき込んでくる。

 やっと泣き終わったらしく、鼻が赤い。


 数秒間見つめられる、顔を見合わせるのが苦手なので居心地が悪い。



「本当だ。集、赤い。」






 ぽつり、と心なしか悲しそうに侑希が言う。

 また泣き出しそうなくらい切なげに。



「赤くないって!」


「いや…赤い。」



 俺が即否定しても、侑希の反応は何故か冷たい。


 将人が何かを納得したように、いたずらっぽく笑っている。



「なんだよ侑希、お前さ…。」



 そこで将人は言葉を切った。

 一斉に将人に視線が集まる。



「何なんだよ?」


「いや…ナオに嫉妬してんの?」


「「…はぁっ?」」



 たまらず口を開いた侑希に将人が答える。

 その将人の言葉に俺と佐野が同時に反応する。



「なっ…そんな訳ねーだろ、バカ将人!」


「どーだか。」



 真っ先に否定する侑希に将人は笑みを深めながら言った。



「…何で、侑希が佐野に嫉妬するんだよ?」



 頭の中がうまく整理できないまま、俺は将人に聞いた。



「…何で、って…なぁ?侑希。」



 俺の質問の答えを言おうとせず、侑希に視線を戻した。


 俺も侑希の方に視線を戻そうと振り返り、名前を呼ぶ。






「「侑希。」」



 また、佐野と声がかぶる。

 今度は佐野の方を向く。


 目で、先にどうぞ、と言う。


 佐野が一歩侑希に近づき、その手をとった。



 侑希だけでなく俺も驚いた顔になる。

 将人だけが、興味津々といった顔だ。

 佐野はというと、何も気にした様子もなく、握った手を胸のあたりまで持っていった。



「ごめんな侑希、嫉妬させてもうて。」


「はぁっ?」


「は?やのうて…何言うてんねん。俺に嫉妬しとるんやろ?」


「え…。いや、してねぇから!」



 佐野の激しい思い込みを侑希は全否定する。


 佐野は困った顔を将人に向けた。



「照れんなよ侑希。」


「照れてねぇ!!」



 将人は俺の方をちらっと見て、からかうように侑希に言った。



「またまたぁー、恥ずかしがっちゃって。」


「侑希…ほんまごめんな。」


「人の話を聞けー!」



 先ほどの将人の視線で、俺のことについて話していることはわかった。


 何となくだけど…。


 わかってはいるが、入り込むスキがない。



 そんな俺の耳に、侑希の悲痛な叫びが聞こえた。

なんだか、侑希のキャラが勝手に変動してしまいました。          友達を大切にする子なんですよ!侑希ってやつは!だから、将人のことも大好きだと…思います。そうだよねっ、侑希?                  侑希「…。」                  ということです!思春期の少年はいろいろあるんですね!                      侑希「…。」                  話が続かないので、終わります…。

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