嫌な人に目をつけられたものだ。
「…ったくー、萩先輩め…。こんっなか弱い俺をいじめてー…。」
萩たちが行った途端に将人が文句を言った。
俺と侑希は顔を見合わせた後、同時に将人の頭をはたいた。
「どこが弱いんじゃ、あほっ!」
「お前はゴキブリ並だろうが!!」
集と侑希に口々に言われ、将人は反論のタイミングを逃して、後味悪そうな顔をした。
「あの人…何や隠してる感じするなぁ。」
黙ってやり取りを見ていた佐野が口を開いた。
「それに決めセリフってなんや?…弟くんがラグビー部に入るようなそんな決定的なセリフ、あの先輩は持っとるんか?」
意味深な言葉に、三人は考え込む。
「…確かに、萩先輩は変だ!」
将人が無駄に確信を込めて言う。
「…だからな、気をつけろよ集。あの人は、お前がきっぱり断ったくらいで諦めるような人じゃないからな。…まったく、悪質セールスマンよりタチが悪いんだもんな…。」
いきなり、真剣な声で言い出す将人を見て、俺は背中に寒気が走るのを感じた。
萩捺芽という先輩がよくつかめずにいたのだ。
「…ってぇ。」
立ち上がろうとしていた佐野がうめきに近い声を上げた。
その声に、佐野が俺をかばったことを思い出し、不安になった。
将人も侑希も不安そうな顔を向けている。
「おっ、おい大丈夫かよ、本当に!?」
「しょーがねぇなー。…おい、ちょっと痛いかもしんねぇけど、我慢しろよ。」
そう言って将人がやや強引に佐野の靴とくつしたを脱がせた。
あまりの激痛に佐野は、顔をしかめた。
左足首が少し腫れている。
「うーん、まだ良い方なんじゃないの?…おい、侑希。」
左足をつかみながら、将人は侑希からシップを受け取った。
「俺んち、薬局だから…。一応シップとかは入れてるんだ。」
そう話す侑希に将人は、集がケガしたときのために持ってんだろ、と言いそうになるのを辛うじておさえた。
「おい集、お前貼れ。…手ぇ離せねぇんだ。」
「わかった。」
自分に責任があるという思いがあるため、素直に俺はシップを貼った。
「これ、即効性だからすぐに効果はでるよ。この程度なら…一日貼ってれば、治ると思う。」
侑希が説明する。
「…集は大丈夫なのか?ケガとかないか?」
きっちりと集の心配をする侑希をまたか、というような顔で将人が見つめる。 その様子を見て、佐野が思わず笑いだした。
俺と侑希は不思議そうな顔で、将人はむすっとした顔で佐野を見た。
「ありがとな。」
佐野が突然言い出して、焦った。
「いやっ、佐野。俺のほうこそありがとう、ってかマジごめんな。…大丈夫なのか?」
そんな俺の様子を見て、佐野はさらに笑った。
「…いや、ほんまにありがとう。」
「…なぁーもう帰ろうぜ?陸上部は明日見ることにしてさー。」
「そうだな、ナオもこんなだしな。」
将人と侑希が言って立ち上がった。
それに続いて佐野もゆっくりと立ち上がる。
「帰るか。」
「おうっ。」
こうして、入学式は終わり、中学校生活は始まったのだった。




