弟くんの素質。
「…おーい、大丈夫かぁ?弟くん達ー。」
階段を降りてきながら萩が声をかけてきた。
その後ろから部長と呼ばれた男が降りてくる。
「いやー、さすが弟くん!見事な不意打ちだったな。」
のん気な声で萩が言う。 佐野は誰のことを言っているのかわからず、俺に視線を送ってきた。
なんとなく、“弟くん”とやらが誰をさしているのかわかった俺は、困った顔を向けた。
「で、さ、弟くんラグビー部に入んない?…今の腕さばき、絶対素質あるもんな!」
俺のほうを見て萩が言った。
佐野が驚いた顔をする。
「…弟くん、て?」
言いながら俺のほうを見る。
俺は、ため息をついて見せた。
「…えっ、知らないの君!?この少年は、ラグビーの天才であり、ラグビーの名門・桜崎高校の一年にしてレギュラー張ってる、倉田孝介先輩の弟くんなんだよ。」
大げさに驚いた顔を見せ、萩は佐野に説明をした。 後ろで部長さんがうんうんと頷いている。
「…そーいや、兄貴おるて言うとったな。」
「俺には、自慢できない兄貴だけどな…。」
ため息混じりに言うと萩が、そんなこと言っちゃって〜、と満面の笑み。
部長さんは、入るよな?と言いたげな視線を送ってくる。
さて、どう断ればいいものか…。
「…ですが先輩、こいつは…集は、ラグビー部に入る気ないんですよ。」
俺が思案していると、佐野がやけにきっぱりと言った。
そして、俺のほうを、なっ?といった感じで見てきた。
俺は、驚いたがしっかりと頷いた。
「あの…俺、もう入る部活決めてるんです。…だから、入りません!」
よっし、きっぱり断ったぞ!
そんなことを考えている俺に、萩が何か言おうとしたその時…。
「…おーい、集!大丈夫かお前!?階段から落ちてただろ?」
「おいナオ、大丈夫か!?…ありがとな。集、助けてくれて…。」
将人と侑希が走りよってきた。
侑希のほうは、何故だか涙声だ。
「…ったく、侑希のやつまたかよ。お前、集に関しては本っ当に心配性だなー…。」
将人がちょっとイジケ気味に言う。だが…
「…まぁーさぁーとー。」
「はいっ!?」
この世の終りのような声が自分の名前を呼んだので、イジケていた将人は肩をびくりと震わせた。
そんな将人の首を鍛え上げられた腕が締め上げる。
「…おっまえは、本当にタイミング悪いのぉ〜。俺がせっかく決めセリフ言おうとしてたのに…。」
「わっ、萩先輩じゃないですか!?…なっ、何なんすか!?…ぐっ、苦しいぃー。」
将人が悲痛の声を上げる。
俺は、不思議に思って聞いた。
「何だよ将人、知り合い?」
「い…いぢおう…。」
首を締められているせいか、将人の声はくぐもって聞こえた。
その声が聞こえた後、ぱっ、と突然萩が腕を離した。
将人がどすん、としりもちをついて、いってぇ〜と声を上げる。
そんな将人を微塵にも気にした様子もなく、萩は俺のほうに向き直した。
「まぁいいや。入部期間はまだあるしな。…そんじゃあ、また会いましょ、弟くん。いや…倉田、集…だっけ?」
言いたいことを言った後、萩たちは階段を上っていった。




