約束は果たされる。
「約束…覚えとるか?」
「…約束…?」
佐野が問いうてきたが、思い出せない。
将人ほど記憶力は良くないのだ。
「ほらっ、もう一度会ったら…、っちゅーやつや!!」
その言葉で思い出し、複雑な気持ちでいっぱいになった。
絶対に会わないつもりで言ったのだが、まさかこんなにも早く会うことになるとはな…でも…
「…あー、あれな。…俺は…走ってるぜ。こいつらと一緒に!」
こいつ悪そうなやつじゃないし、いいか。
俺はにっ、と笑う。
「うそや、ないよな?…よかった…ほんまに、走っとるんやな。」
「何をそんなに言ってんだよ?」
変なやつだな、こいつ。首を傾げながら思った。
「へへっ、俺も走っとるんやで!」
「お前もっ!?」
すかさず将人が驚きの声を上げる。
驚いているのは将人だけではない。
俺も侑希も目を丸くしていた。
「…ったく、失礼なやっちゃなーお前ら…。」
心外といった表情で佐野は言った。
「佐野…陸上やってんだ…。」
「まぁ、倉田ほどやないけど…大阪ならいいとこまで行ったんやで。」
そう言う佐野を将人がキラキラした目で見つめる。 今、何となく、将人の考えが読み取れたような気がした。
「そんじゃあさ、ナオ。俺たちと一緒に陸上部入ろうぜ!!…なっ、いいだろ?…あっ、俺、直一のこと“ナオ”って呼ぶからな!」
俺と侑希に一瞥もくれずに、将人が言った。
こいつは、本当に…。
俺は素直に思った。
「いいんじゃねーの?」
侑希が言う。
将人が俺の顔を見た。
佐野もまじめな顔でこちらを見る。
ふ、と一息ついて答えを口にする。
「入れよ、佐野。」
佐野が嬉しそうに、にっと笑った。




