彼の決断
……響華が事故に遭った。
大怪我を負い、しかも倉敷の娘ではなかったことが判明したから捨てられた?
……ふざけてんのか!
響華とは高校一年からクラスメイトだった。最初の印象は、とにかく綺麗、ということだった。運動神経も抜群、勉強もできるし、とにかく優しい。……家庭科は苦手っていうのが、妙に可愛らしい。ということで、あっという間に学校中にファンが出来たくらいだった。
夏休み、僕のような人間に休みなどない。あっちこっちで挨拶を交わす、社交に勤しんでいた。そんななか、響華を見つけた。
うちの分家筋の御園の社長と言葉を交わし、どうやら社長の方が響華に敬意を持っているようだった。
あの、御園と対等にあることに興味をもって、僕は響華に近づいた。
「倉敷響華さん?」
「あ、園部和人様? こうした場でお会いするのは初めてですね」
ゆったりと挨拶を交わし、会話をすると、彼女の知性がはっきりと現れる。
「……もしかして、最近倉敷の業績が伸びつつあるのは?」
「間違いなく、倉敷さんの手腕ですよ。私もそのおこぼれに与っているのです」
「そんなことは……」
「いや、御園さんがおっしゃるのなら、その通りなのでしょう」
僕はそれを肯定して、響華を見つめた。真っ直ぐな綺麗な眼差し。おそらく、このときに僕は囚われた。
「倉敷さん、お願いがあるのですが?」
「はい? わたくしでできる事でしたら?」
「ええ、あなたにしかできないことです。
……倉敷響華さん、僕と結婚を前提にお付き合いをしていただけませんか?」
「え!」
ざわっと周りのざわめきが聞こえる。今まで僕はこの手の話はすべて断ってきた。必要とも思えなかったから。
だけど、彼女は別だ。何があっても手に入れたい。
しばらく、なにかを考えていた様子だった。恐らくは、倉敷の会社にとっての有利不利を考えていたのだろう。
「……分かりましたわ。そのお申し出、お受けさせていただきますわ」
優雅に一礼をすると、僕の手をとってニッコリと微笑んだ。明らかに作り笑いとわかる微笑み。いつかは、これを本当の笑みに変えると自分に誓った。
もろもろも事情から、倉敷の方は問題もなく、父からもあっさりと許可が出た。
もともと、響華については、一部の人間からはかなりの有名だったようだ。
むしろ、よくやったと誉められた位だった。
それが、倉敷の事情から、一方的に婚約の解消と、新たな婚約者の提示をされた。
学校であったその倉敷の娘は、育ての親の事などなにも気にしていないようで、自分を僕の婚約者だと言い出した。
そうか。君はそういう子なのか。ならば、遠慮は要らないね。
僕は、倉敷を潰すことに決めた。