彼女を望む者たち
響華さんの病室の前で、コーヒーを飲みながらしばらく待つ。……ようやく満足したのか、和人くんが病室から出てきた。
「御園さん、響華は……」
「ご心配なく。すでに手続きはすんでおります。響華さんはすでに私の娘です。和人くんとの婚約も、そのまま継続させていただきます」
「……ありがとうございます。それよりも、あのバカは?」
あのバカ、こと私の息子は、現在買い物中だ。
「響華さんの必要そうなものを買いにいくと、出ていますよ。あれは響華さんを敬愛していますからね。妻も一緒なので問題も起こらないでしょう」
「……なら、いいです」
まったく。あれは正確には敬愛ではなく、崇拝だろうな。困ったものだ。ただ、幸いにして能力と空気を読むことについて問題がないので、普段は放ってあるが。
「明日からは、こちらで付き人をつけますのでご安心を。和人くんはご自分のすべきことを成すよう、お願いします」
そう。これは和人くんの役割だろう。
「……わかっています。まずは、見極めからですね」
病室を気にしながらも去っていく後ろ姿を見送って、私も病室に戻った。
響華さんとは、仕事でよく話をしていた。まだ、中学生なのに、その能力の高さは恐れ入るばかりだった。
実際、彼女の助言を聞き入れることで、わが社の業績もどんどん伸びていたのだから、感謝こそすれ、排斥する理由はない。
それを、あの倉敷は行った。それが自身の滅びを意味することも気づかずに。
倉敷の会社の重役たちは、自分達の会社を引っ張ってきたのだ誰だかはわかっている。
それゆえ、だろう。響華さんを私が引き取ることも予測していたらしく、内々に連絡をとってきた。
倉敷ではなく、新しい会社を起こせないだろうか?
もちろん、私は是とした。社長は響華さんが大学を卒業するまでは私が代理となる。 なにしろ、響華さんはまだ高校生だ。今までは仕事でほとんどが埋まってしまっていたようだが、自由を謳歌する時間は必要だろう。
実質の社長は響華さんであっても、何かあったときの責任を取るのも、親の仕事だろう。
妻も娘ができることに大喜びだ。ましてや、響華さんに憧れてもいたようだからな。
いままで守られなかった分、私たち家族に守らせてもらおう。
……響華さんが、和人くんのもとへ嫁ぐまでは。