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子供たちの鎮魂歌  作者: さき太
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終章

 沙依はそこで人を待っていた。それは沙依にとって重要なことだった。

 女媧との戦いから早数千年。ようやく沙依の願いは叶い始め、皆それぞれ心落ち着くところに落ち着いてきている。今日沙依がここで人を待っているのも願いを叶えるためだった。

 沙依の目にここに来る未来が映ったわけではなかった。ただここに来なくてはいけないと強く思った。そうしてここに来た時、沙依の目にある未来が映った。それは沙依が望む未来の一つだった。そして昔長兄に言われたことを思い出した。天啓を与える者。あの戦いの最中やその後の所々で、それぞれが沙依の声や姿に導かれたという。それは実際に沙依がしたことではなかったが、それがきっと天啓と言われるものだったのだと沙依は思う。望んだ未来へ歩を進めるために、必要な時に必要な人を導く。それがきっと沙依が父から引き継いだ本来の力だったのだ。だから確定はできない。最初から確定などできなかったのだ。だからいくら望んでもダメだった。でも確実に望んだ未来へ歩を進めることができた。そうして今がある。

 沙依は自分自身も自分の力に導かれ動かされているという事実がとても不思議で、感慨深かった。

 「沙依さん?」

 名前を呼ばれ、沙依は声の方を向いた。そこには男が立っていた。

 「待ってたよ。」

 沙依はそう言って男に笑顔を向けた。男は驚いた様子だった。それもそうだろう、沙依と男が会うのはそれが初めてだった。しかし沙依は男を知っていた。この男が自分の願いを叶えてくれる存在だと知っていた。

 「自分でここに来たはずなのに、なんだかあなたに呼ばれてここに来たようなきがします。」

 そう言って男は笑った。

 「沙衣さんからあなたの話を聞いていたので、一目見てあなたが沙依さんだと解りました。」

 そして男は間をおいてこう言った。

 「沙衣さんはずっとあなたの真似をしていたんだと言っていましたが、こうやってお会いすると全然似てませんね。」

 それを聞いて沙依は微笑んだ。

 そして沙依は彼をかつて仙人界と呼ばれたその場所へ案内した。

 その出会いから半年彼は仙人界で修練を積んでいた。

 それを沙依と長兄は眺めていた。

 「あの男はもう不老長寿になっているんだろう。修練を積ませる意味はあるのか?」

 太上老君の姿をした長兄が沙依に問いかけた。

 修練を積んでも不老長寿にはなれない。かつて仙人達が不老長寿となり得たのは、女媧の力があってこそ。彼女が天上の神より賜った力。成長を促し力を与える、いわば進化の力。それがあってこその不老長寿の技法。だから現在の仙人界は不老長寿の術を失ったと同じだった。だから今はもう新しい修練者などいはしない。そんな中、沙依は男に修練を積ませていた。

 かつての女媧の力は現在沙依の中にあった。だから男が不老長寿になるというのは沙依と会った時点で叶えられていた。それでも沙依は男に修練を積ませていた。

 「今は平和とはいえ、これからわたし達と同じ時間を生きるなら、最低限の修練は積んでおくべきでしょう。わたし達の時間は長い。何が起こるかわからない。その時、対処できる術は多いに越したことはない。それに彼は自分で龍籠を見つけなくちゃいけない。自力で見つけ、自力で入るくらいの実力はつけてもらわないと。」

 沙依はそう言って笑った。

 「お前は龍籠に帰らないのか?」

 長兄のその言葉に沙依は帰らないときっぱりと答えた。

 「昔はずっと帰りたかったけど。」

 そう言って沙依は空を見上げた。

 「わたしが帰りたかったのは、父様と同じで皆がいたあの時間のあの家だった。幸せだった時に帰りたかっただけだった。今はもうここがわたしの家で、ここがわたしの帰るべき場所だから。」

 そう言って沙依は笑った。

 「龍籠には彼がわたしのことを伝えてくれる。もし皆がわたしに会いたいと思うなら、会いに来ればいい。世界はちゃんと繋がっているんだから。」

 そう言って沙依は長兄の方を見た。

 「兄様はいつまでヤタの身体に潜んでいるの?本当の兄様は今何をしているの?」

 沙依の問いに長兄は答えなかった。

 「兄様は今幸せ?」

 沙依はそう言って太上老君の目を通して長兄の目を覗き込んだ。

 「兄様。わたしは兄様にもちゃんと幸せになってほしいんだよ。」

 そう言って沙依は笑った。

 「幸せって何だろうな。」

 長兄はそう言って遠い目をした。

 「とりあえず俺は今の状態で充分だよ。」

 長兄は末妹の頭を撫でた。

 自分たちの戦いは終わったのだ。長兄はやるべきことを失って、何をしていいのか解らなくなった。あれから数千年たつ今でも、自分が何をしたいのか解らないままでいる。正直望むことはもう何もない。あとは静かに生を終えたいと思っていた。でも未来はまだ続いている。これから先も永遠に近い年を生きつづけるであろう自分達には、立ち止まり考える時間は沢山あった。

 暖かい風がそっと兄妹を包み、そして去っていた。

 長兄は思う。未来はきっとそんなに悪いものじゃない。そう思えるだけで今は十分だった。


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