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序章
【序章】
降りしきる雨の中で見つけられたのは血にまみれた一人の人間だった。
生きている。それは脆弱ではあるが呼吸をしていて、微かに上下する肩が命の儚さを示している。
「――さん」
かすれた声は雨音に消された。
手を伸ばした先で求めるものは幻影のように揺らめき、やがて消える。
掴めず、すり抜け、触れられない。
それでいいのだ。手が届くはずないと知っている。
望む存在が自身の傍にあることなどありえない。
その事実を突きつけてほしくて、なおも彼は手を伸ばした。
「お前はいつも――」
怒っている。
彼は困った顔をして。
これは――
「だいすき!」
彼女はよくそう言った。
手を伸ばして。
だから私は――
「さよならを」
それは、誰に向けての言葉だったのだろう。
…………。
……。
……思い出せない。