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ヒロインは英雄をお断りします  作者: 月咲シン
3/4

♯3.勇者というより気分は保母さんでオワタ(呆)

自分は感情を動かすのは嫌いだ。


だからギャンブルで高揚して気分の変動を楽しむことも嫌いだ。

別にギャンブラーが嫌いなわけではないが、自分とは別の人種だと考えている。


ただ「きらいではない」と「いやではない」は別物だ。


つまり何が言いたいのかというと……自国の負け戦を他人に押し付けようとする連中に、自分の負債を他人に擦りつけんじゃねーよ、ということだ。




王様やお姫様も色々と忙しいようで、一通りの説明がすむと宰相共々早々に退室して行った。お偉いさんだもんね、正直助かる。


ただ一部の生徒はこの後に招待を祝って晩餐会でもあるのかと思ったようで、お姫様とのお近づきもできずに落胆している者もいた。バカサルめ。


その後、引継ぎのように説明に繰り出した人物は、ここにくるまでにからかったあの騎士のコスプレャーさんだった。や、本職なわけだけど。


「では諸君、移動をするから着いてきてくれたまえ。ああ、道中自己紹介もかねて、ざっとこれから君たちが所属する部隊について少し説明をしておこう」


そう言ってガレスと名乗った四十台半ばの引率騎士は、騎士団でも連隊長クラスの将軍のようで威厳もそれなりに。


素直についていくのは正直気が進まないが、他の阿呆どもは〈眷霊憑依トランスコア〉に意識がイっているようで危機感ゼロ。こちとらその呪いをうけて危機感MAX。なんだろうねこの対照は。泣きたくなるダメさ加減だ。


肉壁になるかどうかすら怪しい。なのでいざという時、やはり自分の身を守るのは自分か。とにかく今は情報が欲しかったので願ったり叶ったりだ。


この国の軍組織の体制は上から『総軍』『師団』『旅団』『連隊』『大隊』『中隊』『小隊』『班』の八つ。


一番少ない班で約10人規模、それから上に単純にその3倍。

つまり30、90、270、810、2430、7290、21870、65610。四捨五入して正規兵だけで7万人。


つまりなにか? この騎士さんは3000人近くの部下がいるというのに、その100分の1である30程度のあたし達の面倒見役だそうで。


左遷でもされたのかね? それとも給料アップか昇進でも裏約束しているのだろうか。どちらにせよ手のかかるガキ共の子守なんてついてない。同情はせんが。


で、続く話によると、人口は約100万人。そこから力のある農奴などを徴兵すれば20万といったところか。

それでも人族の三大王国の一つとして君臨しているからには、元の世界人口と照らし合わせても日本より少ないのかもしれない。


まあ大陸続きかどうかすら知らないしね。敵が人でないだけマシか。人殺しは精神の疲労がヤバイので二度と・・・ごめんです。


というか数字だけ見れば近代の四個師団だが、戦列歩兵に騎兵が加わって突撃が主流だって? 遠距離ではなく近距離戦がメイン?

おいおい時代錯誤にもほどがある。あたしらより信長呼べ。


そんなこんなでこの国の頭の痛い軍事情勢を理解し始めたところで、歩くこと十五分ほど。


白を基調とした屋内を進み、タイルもよく磨かれたメインホールを横切り、厳つい衛兵に護られた大扉を抜けると、懸念していたお外にあっさりと出られた。


そこから風を肌で浴びながら広場の中心部へと到着すると、一望できる城下町の風景にクラスメイト共々感嘆の息が零れる。テレビや雑誌でしか見たことがないようなヨーロッパ風の光景がそこにあった。


空を見上げると半月が三つ弧を描いて重なっており、眼下の賑わう民衆の中に明らかに人族以外の亜人の姿も遠目で確認できる。


異世界なんだなと改めて確証し、街を囲う城壁までの距離と城門の位置を目視で確認しながら脱走計画を瞬時に組み立てるがプランは次々棄却されていく。無理だね。マジ、檻の中と変わりありません。


情報がない。金銭がない。身寄りもない。なにより生きていくための知恵と力もない。


ああ……空はあんなに青いのに、あたしの心はどんより曇り空。ファッキン。


「諸君らの住んでいた場所とはずいぶんと異なるかもしれないが、なぁにすぐに慣れる。衣食住は保障されておるのだ。困ったことがあれば気軽に相談するといい」


はあ? 住めば都ってか? 観光じゃないんだから、こんな文明退化な場所で慣れるのは一苦労どころじゃないっての。


「これから色々と学ぶことも多いが、頭よりも身体を動かす機会も増えるだろう。不慣れな場所だが、おいおい覚えていけばいいさ。まあ忙しくて悩む暇などないのかもしれんがな。ははは」


……うーん? なんというか……変というか違和感?


気遣いの冗談にしては、まるで新兵に接するような態度だ。ユニークというよりも圧をかけているようにも感じる。


なにかずいぶんと事が急速に進んでいるような気が……というかどうもあたしたち、いまいちちゃんとした客人扱いされていない・・・・・・・・・・ような……?


不信さを三割増しにして、この世界の住人達を目で観察していると、いや~なことに気づいた。


ひそひそとこちらを遠目から見ている瞳の色に見知った感情を読み取れたからだ。それも沢山。


これは実は謁見の間にいるときに感じた違和感だが、気のせいという希望的観測は理性が見事なドロップキックで退場させる。


ここでいう違和感というのは、武官も文官もあたしたちのことを邪険に扱っていないということ。

つまりそれは、反対派がいなかったということだ。

満場一致で、あたしたちは歓迎されている。


それはつまり、あたしたちの存在は彼らにとってどう転ぼうとも利益になるということだ。どこの誰とも知らない異世界人が。それもわけのわからない力を宿しているというのに。


胡散臭すぎて吐き気と寒気と怖気が止まらない。人を人として見ていないあの目。

あの目は知っている。実家の爺婆共で知っている。利用することしか頭にない権力者共の眼差しだ。


しかもそれを裏付けるように、あたしたちは召喚されたというよりも、召喚してもらった・・・・・・という認識がチラホラと。


なぜなら今だにクラスメイトの何人かが不安で狼狽している状態において、周囲のこの世界の住人の目の奥には侮蔑が込められているからだ。


大抵は気弱で『眷霊』のスコアも低い者だが、どうやらこの言動を試みるに、

王女に選ばれておいて何たる無礼な、ということろか。ああ最悪。胸糞悪い。


クラスメイト全員が頭のネジの外れた能天気なお花畑でもなければ、自分を追い込んで悦に浸るドMではない。臆病なのは至極全うの感性なのだ。


なのに本来こんな時に慰めるはずのスクールカーストの上位陣である会長達も、まだ頭の整理がついていないのか他者を気遣う余裕もないようで、周囲からチヤホラされているだけ。


集る寄生虫候補者に囲まれて、パニックに陥りかけている生徒達にまで目が届かないようだ。

なんたる残念な連中。少しでも期待したあたしが馬鹿だった。


さて、どうしたものかね?


→放っておく。

慰める。


うん、普段のあたしならなんの躊躇もなく前者一択をポチリだね。

だけど待って欲しい。ここは今普通ではないのだ。ならば普段のあたしのままでいいのだろうか。


仮定として、このまま前者の選択をするとしよう。

ならば当然のごとく、犠牲者は現れる。即ち死。デットエンドだ。


そして最初の犠牲者が現れれば、皮切りに二人、三人と増えていく。よほど親しい間柄でもなければ擁護もされずに。さながらダムの決壊のように。


弱者はなんの抵抗も出来ないまま、蟻が踏み潰されるが如く切り捨てられる方向へと進み、追い込まれる。


そしてそれが『仕方のない犠牲』だと割り切られるのに、大した時間はかからない。

一々他人の死を悼んでいれば、自分の精神が持たない。特にこんな状況下では。


この国の保護下にあるとはいえ、あてにはできない。自分から『道具』を壊すような酔狂な輩はさすがにいないと願いたいが、それも程度が知れている。修理に対する保障期間は1年あるんですかね?


悪循環。その輪の中にあたしが巻き込まれる可能性は大。人が人としてある為の十戒が破られるのは時間の問題だろう。そうなれば待つのは修羅の道か。ご免こうむる。


ならばやはり『ストック』は必要だろう。自分の番になるまでの盾は一つでも多く、長くあったほうがいい。

『道具』ですら手入れは必要だ。だからあたしが彼ら彼女らになんらかの手を差し出したといしても、それは仕方のないこと。必要な偽善行為だ。


自己推測終了。


大変遺憾ながら不本意かつ面倒で役不足感は半端ないが致し方あるまい。

もっとも、こんなあたしに何ができるかは不明だが。コミュ障なめんな期待すんな。


なので傍観する騎士たちの奇異に満ちた視線を観客=カボチャ並みに無視しつつ、溜息一つ吐いた後に見ていて泣きそうな生徒の下に脚を進める。


とりあえず見るからに死相が出てそうなグループは次の男子生徒三名と女生徒二名。


普段なら放っておくところだが、気づいてしまった手前放ってもおけない。

使えないから不要と処分されれば後が怖いし。こういうのは最初の一人が出れば、連鎖的に広がっていくものだ。


なのでしかたがな~く、ガラではないが慰める。慰め方なんて知らないが、やるしかない。

でもどうすればいいのだろうか……。まあとりあえず男子生徒は気合ダーで元気付けるとするかね。


だが忘れてはいけない。あたしはコミュ障。

そんな器用にフォローというか、会話のキャッチボールなんてできるわけもなく、


「てぃっ」

「ぐふァッ!?」


ボディーブロー。

ムシャクシャしてやった。反省も後悔もしていない。

むしろ気分が微かに晴れたがそれはさておき、弁護――もとい優しい慰め開始。


っていうかさ、軽くボディブローを食らわしただけなのに身体をくの字にして膝をつくとか、どれだけもやしなわけよ君は?


まったく大げさだなぁ。こんなか弱い乙女の冗談パンチで咳き込むなんて鍛え方が足りなすぎるでしょうに。運動部でしょあんた?


戸惑いの表情であたしを見る男子生徒、というか池田君が文句を言う前にずいっと拳を差し出す。

ポケットに入っていた飴玉を握って。


「手」

「え? え、えっと……な、なに?」


はあ? ちょっと、犬でも『お手』ぐらいは分かるだろーに。


言葉足らずな口調なのは自覚しているけど、そこはツーカーで察してくれないかなぁ? 

というか、怯えた表情がなんか傷つくからやめてくれない? もう一発殴るよ? 今度は抉るようなグーで回転力を増して。


心中で肺腑一杯の溜息を吐きながら、テイク2。


「……手。ほら、出して」

「手って? あ……」


あたしの拳からはみ出ている飴玉の包装紙を見てようやく意味を理解したのか、呆然としたままおずおずと両手をお椀型に広げたので、ぽとりとその中に飴玉を落とす。


一つ、二つ、三つ。池田君とその傍にいる二人の男子分。等しく〈眷霊〉のスコアが低かった三人だ。とはいえ、この国の貴族達と同レベルぐらいはあるでしょうが。

まあ、仲良く分けたまえ。で、糖分とって少しは落ち着け。男の子でしょうが。


「始める前から負けたような辛気臭いツラしないの。顔を上げて。男らしさを見せて」

「へ……?」

「へ、じゃない。返事」

「あ、う、うん……?」

「よし」


うん。とりあえず少しは活力は蘇ってようだね。ふふん、あたしのお気に入りの飴玉だからね。まあ当然といえば当然か。甘いのはいいものだ。現実は甘くはないが。


ぽかんとする池田君らに手の平をひらひらしながら離れ、次に震えている女生徒の下へ。


さて……どうするかね? ノープランです。さっきもだけど。

や、さすがに女子に男子と同じように接するわけにはいくまい。マジ泣きされたら困るし。後々に陰湿なイジメとか受けたくないし。上履きに画鋲とかされたらハートブレイクで引きこもる自信があるし。


うーん? 緊張を紛らわすなら、こんなときはどうすればいい?

体験談だと、あたしが弓道の試合などで緊張したときは確か姉弟子が……。


…………#(イラッ


そっと胸を抱く。嫌な思い出というか、恥かしい思い出が蘇って。

うん、揉まれたなぁ……。お尻も、触られたなぁ……。腰元も撫でられて……。あのセクハラどもめ……!


実行? 馬鹿言ってるんじゃないよ? 自分がされて嫌なことを相手にしてはいけないって、本にも書いてあるでしょう? 人に言われたことがないあたしの人生は悲しいものだが。


とりあえず、無難なとこでいこう。シンプルイズベター。中学生でも真っ青な英語力だ。思考がまだ正常に回っていないらしい。あははははぁ~↓


さして親しくもない間柄だし……そもそも親しい間柄がいないわけだが。

うん止めよう。ネガティブになるだけだ。なんで実行する前から精神攻撃(自滅)食らってるんだろうねあたしは? 根暗で卑屈にもほどがある。


気を取り直してテイクスリー


気分が悪い相手だし、背中をそっと撫でる。

びくっと身体を震わせてあたしを見ると、ビックリとした表情になった。

まあ、いきなり背中を撫でられたらびっくりするよね。とりあえずこれあげるから元気出して、と飴玉を渡す。


「食べて」

「え、えっと……」


今まで話しかけられたこともないクラスメイトに困惑しているが、恐怖よりはマシでしょうに。

ほれ、リスのように飴玉を口の中でコロコロしながら無我の領域に旅立ってくださいな。


無理? ですよねー。めんどいけど追撃フォローするか。

でもこういう時はどうすればいいんだっけ? ひとまず少女マンガ的な綺麗事言ってりゃいいでしょーかネ?


「……家族とか友人とか、待っている人を思い浮かべて。生きたいという想いを、忘れないで。諦めないで」

「……で、でも……」


デモのテロもないよ。いいから生きる原動力に火を点けろ。寝たら死ぬぞ理論だ。

滾れ、燃えろ、ファイヤー。でも燃え尽きるな。


「世界は変わっても、自分は変わらない。だから自分を見失わないで。生きるために顔を上げて。前を見て。いい?」

「……う、ん……」


うんって顔じゃないね。オウムのように返答しているだけだねこれ。

隣の子を見るが同じ様子。よし、ここは傷の舐めあいでもしてもらいましょーかね。ゆりれ。


「自分が信じられないなら、信じられる人を信じて。友達とか。委員長さんとか。会長さんとか。――大丈夫、貴女は一人じゃないよ」

「っ……信じられる人を、信じる……。うん、わかった……ありがとう、白鷲さん」

「どういたしまして。うん、笑っているほうが可愛いよ」

「え? あ、う……」


よっし成功。こんなものか? こんなもんだよね? うざがられてないよね? ニコリと笑ってくれたし、頬に赤みもでてるから活力が戻ったってことでOK?

あとは友情(笑)っぽいものに任せて、フォロー完了。ではさよなら。バイB-。


「ぁ……」


なにか名残惜しそうな声が背後で聞こえた気がしたけど気のせい気のせい。肉盾が…、とか思ってるだけだろうしネ。


うえー。気持ちの悪い。ケーキにシロップとハチミツかけてアイスクリームをおかわりした気分だ。胸焼けしそう。慣れない事はするもんじゃないねー。


で、あたしが苦労している間に、他の連中はというと……?


「ウェーイ! この角度で撮るのがコツなんだよな~。帰ったらブログにアップしよ! 鰻上り間違いなしっしょ! インスタインスタw」

「うっはっw この間のしょっぼい修学旅行なんて目じゃねーな! 俺京都に親戚がいるから珍しくもなかったけど、海外旅行みてーでやっべヤッベェ! 写メ写メ!」

「ばっか電波ねーての! くっそっ、当分オンゲできねーのかよ! ログボだけでも欲しーんだけどよ~。おいタツヤ、おめー電波出せや勇者だろーがw」

「はああ? おめーも勇者だろうがw 電波な勇者(笑)ってか? 電波召喚! は圏外で出来ませんって姫様に泣きついて頼んでこいってのw」


「「「あははははっ!!」」」


…………。


ああ、うん、なんだろう……彼らは本当にあたしと同じ人間なのだろうか? 

実はここの世界の住人と同じで、人間とは違った霊長類ではなかろうか? 進化の失敗とか?


都合のいい人型自立兵器に仕立てられている自覚とかってないんだろうなー。のうたりんが。くたばれ。バルス!


てか、なんでコイツラこんなにやる気なの? このやる気を授業でも出せれば受験勉強なんて苦でもないでしょーに。


まあ戦争というものに対して実感が湧かない分、一種の現実逃避かね。集団でいることでなんとか精神状態を維持している状況か。アドレナミンどばどばで薬中みたい。テンション壊れてるし。


これから本当、どうなるのだろうか……。ああ、不安しかない。

それでもあたしはマシなほうか。日本での生活にさしたる未練はないのだから。

家族も親族も友人も、弟以外は興味どころか関心すらない。


それでも帰りたいと願うこの気持ちは郷愁の念か。はたまた日本人の血か。


空を見る。この空の向こうに故郷があると信じて。

夜になって星が出れば、地球が見えるかな。見えれば願いぐらいは込めたいものか。


星の距離と心の距離。はたして勘当された自分にとって本当に遠いのはどちらだろうか。

少なくとも自問自答して解らないぐらいには、離れているということ。


別段それが「寂しい」とは思わないあたり、案外一番この世界に適合しているのはあたしかもしれないなぁ……なーんて、ね。

がんばれクズ子ちゃん! 君の人生はバラ色だ(笑)

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