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乃木咲学園物語  作者: ハコオシ
1/2

(1)はじまり

描写は第三者視点で、例えるなら「神の視点」です。

地の文に心情描写がなされることもあります。

外国の小説を手本にして書いてます。


よろしくお願いいたします。

木々が像の尾を引いて流れていく。


早瀬薫(はやせかおる)は顔を横に向けて、車の窓から外の景色を見ていた。並び立ついくつもの樹木が瞳に映っている。

一台の高級車が林に挟まれた舗道を走っていた。その高級車の後部座席に座る薫の隣には上質な素材でできた学校鞄が置かれ、鞄の側面には校章が描かれたワッペンが縫い付けられている。


「もうしばらくお待ち下さい。早瀬様」

車の運転手が薫に言った。この男性とは薫は面識はない。薫を迎えるために、今まさに向かっているの高校から薫を迎えるために派遣された者で、今朝、初めて会ったばかりだ。薫は少し畏まって「はい」と返事をする。


薫を乗せた車が向かっているのは、首都郊外に建つとある私立高校だった。すでに正門を通り、構内には入っているはずだが、敷地が広大なのか、まだ校舎らしき建物は見えない。緑に挟まれた舗道――おそらく学園の周辺部であろう造林された区域を今は進んでいる。


私立乃木咲(のぎさか)学園高等学校。


薫はこの春からこの高校に転入することとなった。

この学校は世の一般的な高等学校ではない。莫大な財を持つ親の下に生まれ、かつ優れた資質を持つ子女のみが通うことの許される、知る人ぞ知る私立高校である。名門高校というには設立されてからまだ日が浅く、また男子生徒も在籍しているので、いわゆるお嬢様学校というわけでもない。強いて言うなら進学校という位置付けになるのであろう。


緩やかなカーブを車が曲がるたびに、隣に置いている学校の鞄につけた、自作のぬいぐるみのキーホルダーが揺れる。架空の――丸い体に半開きの目を持つ、なんとも形容しがたいキャラクターのそれは、薫が手作りした、世界で二つだけしかないものだった。


薫はこの春で高校3年生だが、この時期に別の学校に転入することになったのは、父親の仕事の都合のためであった。

(でもお父さん、投資家だよね……)

個人投資家として収入を得ている父に指定された勤務地も、ましてやその変更もあるはずがない。なのに仕事の都合とは……。これは今でも薫の腑に落ちないことであった。

(まあ、いいや)

薫は深く考えるのはやめにした。娘とはいえ父親のことを全て知っているわけではない。何か自分の知らないところで、都合や理由があったのであろう。

薫は男手一つで自分を育ててくれた父親を信頼し尊敬していた。


それにそれまで在籍していた学校を転学しなければならなかったこと自体、薫にとってそれほど辛いことではなかった。これも今回の首都圏への転居をすんなり受け入れることができた理由である。

以前いた学校では薫は友達と馴染めなかった。

または波長が合わなかったと言うべきか、薫の振る舞いが、周囲の少年少女にとっては彼らが持つ価値観にそぐわないものであることがあった。

例えば、一般的な学生の子ども達は休み時間や放課後お喋りをすることが多いだろう。そんななか薫が友達と喋ったりしないで、一人でずっと絵――しかも他人から見れば何を描いているか分からない、得体の知れない「変なもの」の絵を描いていたら、それだけで変わった目で見られた。他にも気になったことを調べるべく、日が暮れるまで本をずっと読んでいても同様であった。

周囲の目は始めは気になったものの、薫は一度何か夢中になると他のことは意識の上からすっかり消えてしまうので、心が傷つくことは無かった。

ただ薫自身も若干「しっくりこない感じ」は抱いていた。何かが違う、何かはまっていない感じ。四角い穴にはめられた丸い柱のような……。


ともかく薫は別の学校に移ることになっても、それを容易く受け入れることができた。名残惜しさは無かった。

それどころか、父が勧めた転入先に乃木学園の学校名を聞いたとき、驚きとともにある期待を抱いたほどであった。

薫には乃木咲学園という名前に覚えがあったのである。


(栄茉(えま)さん、いるかな……会えたらいいな)

松永栄茉(まつながえま)は中学年のころに同じ学校、同じ学級で共に学んだ少女であった。同い年ではあったが、落ち着いた雰囲気を持つ彼女を薫は「さん」付けで呼んでいた。

他の生徒と違って、栄茉とはお互いの気持ちがしっくりと合っていた。心が通じた唯一の友人であった。

しかし、薫と栄茉は中学卒業後、同じ高校に通うことは出来なかった。栄茉は別の高校に進学することになっていたからである。親の仕事の都合のためと彼女は言っていた。その時、栄茉が教えてくれたその学校の名前が、私立乃木咲学園であった。

別れの時、薫は離れ離れになってしまう友への別れのプレゼントに、自分でデザインした架空のキャラクターのぬいぐるみ――手芸で作った自作品――を栄茉に贈った。対となるもう一つのそれは自分が持ち、今も隣にある。


車が大きな角度で曲がったのを感じて、薫は後部座席から車の正面を覗いた。

「綺麗……。」

思わず感嘆の息が漏れた。

フロントガラスの向こうには大きな広庭が広がっていた。

中央には噴水が造られており、その周囲は敷石で形成された石造りの広場となっている。広場には色鮮やかな花が植えられた花壇が設置され、また憩いのためのベンチの置かれれている。この円の広場を環状の舗道が囲み、乗用車が奥――校舎前まで進入できる造りになっている。そして広庭の外縁には緑の茂みが綺麗に整えられていた。

広庭の向こうには真新しく見える、陽の光を受けて白く輝く校舎が見えた。

車は広場に進入し、噴水と広場を囲む輪となっている舗道を徐行する。窓越しに校舎の姿がよく見えてきた。左右に伸びた校舎の中央下には正面玄関であろう、凸状に出た構造物がある。扉の外で、誰か一人立っている。

車は正面玄関前に横付ける形で停車した。運転手が先に車を降りて、外から後部扉を開き車から降りる薫をエスコートした。

春の中頃の風が薫の柔らかい髪をふわりと波立てる。

車を降りた薫に、先程窓から見えた人物が近づいてきた。

「お待ちしておりました。早瀬薫さんですね」

薫の前に立ったその人――スーツ姿の女性は丁寧に礼をする。細く長い脚が印象的である。

「乃木咲学園へようこそ。私≪わたくし≫は教職員の丸ノ内(まるのうち)と申します」

女性はそう名乗った。上流階級の子女が通う学校に勤務するに相応しく、その動作は品のあるものであった。薫も「早瀬薫です。よろしくお願いします」と返す。

「こちらへどうぞ。荷物はこちらでお運び致しますので。」

「荷物」とは薫の衣類や他の生活用品のことである。薫はこの学園に下宿することになっていた。

丸ノ内は体を半身に開き、指を揃えた手で後ろの校舎を指した。

「それでは、参りましょう」

丸ノ内が先導する形で、二人は大理石の土台を二段上がって、正面玄関から校舎の中に入って行った。


「この棟は職員の事務棟になっております」

正面玄関から建物の中に入ると、そこはロビーとなっていた。横に外来客のための受付窓口がある。前には左右へと通る廊下がある。

「当校は全館土足ですので」丸ノ内が告げる。

二人はロビーを進み、右に曲がり廊下に入った。


そこはとても無機質な空間だった。

真っ白に塗られた壁と天井、汚れ一つ無い床、薄明るい白色灯。壁に埋まるようにはまっている各部屋の扉が等間隔に奥まで続いている。

病院みたい、と薫は思った。または、実際に見たことはないが、イメージで例えるなら研究施設の廊下か。この事務棟は廊下の両側に部屋が設けられている設計らしく、薫が以前通っていた学校――およそ一般的な校舎と違って廊下の片側だけに部屋が設けられ廊下の反対側が外に面している構造ではなかった。

コツン…コツン…と、二人の靴が立てる足音が何も無い廊下に木霊する。

(なんか……怖い……)

気味の悪いところだとすら思えてきた。一人で歩いていたら、きっと恐怖に駆られ早足になるに違いない。とても子供が通い学ぶ建造物としての温かみがある造りとは言えなかった。

「この反対側、後ろですね。そこに職員室があります。他は進路相談室や事務室です。」

そんな薫をよそに、丸ノ内は建物の説明をする。

「そうなんですか……なんか病院とか研究所みたいですね」

薫は廊下を歩いていて感じた違和感を、慎重に口にした。

「お分かりですか?この学校は以前大学だったんですよ」

「えっ、大学?」

思わぬ答えが返ってきた。

「ええ。閉鎖された私立大学の建物を改修して、私立高校にしたんです。ここも元は研究棟でした」

「だから、こういう感じなんですね……」

「はい。もしかすると普通の学校とは造りが違うかも知れませんね。」

丸ノ内の言葉は丁度薫の感じた違和感を払拭するものであった。確かにそれなら合点が行く。どうりで無機質な造りであるわけだ。


真っ白な廊下の最奥は正面玄関と同様に開けた空間になっていた。この棟の横側からも建物のなかに入れるように右手に小広間と入口が設けられている。左手には階段とエレベータ、その手前に外へと繋がる扉がある。

「外からでも教室のある建物に行くことは出来るのですが、今回はご案内も兼ねて事務棟を経由しました。」

左に曲がった丸ノ内は扉を押して開く。

外に出ると渡り廊下となっていた。上は空中廊下だろうか――頭上は屋根があり、下は地面より一段高く造られた白セメントの石の道が奥の建物に伸びている。

二人はそのまま渡り廊下を進む。左は中庭になっていた。造園された庭が見える。


屋外に造られた廊下を渡り終え、次の棟の前まで来た。

「この棟の三階に、三年生の教室があります」

この建物の中に、生徒達がいる教室があるようだ。

棟自体は三階以上ある。元大学の建物だからだろう。

丸ノ内に続いて薫が校舎の扉に手をかけ、中に一歩踏み入れたまさにその瞬間、

「!!」

ビクッと薫の体がまるで何か反射を起こしたように、小さいが、でも鋭く跳ねた。

「いかがしました?」

「い、いえ……」

異変に気づいた丸ノ内が薫に声をかける。薫は咄嗟に平然を装った。

(これ……開けたことある……ううん、この扉だけじゃない……ここ、前にも入ったことがある……)

薫の体が引きつるように動いたのは、薫の頭の中に眠っていた記憶が突如、一瞬にして蘇ったからだった。

この扉と扉を開けた瞬間の光景、薫にはこれらの既視感があった。

(でも……)

薫は思い直した。自分は今日初めてこの学園にやって来た。これより前に、この扉を開け中に入ったことなんてあるはずがない。

(デジャビュかな?)

デジャビュは初めてみる場所や光景を、以前見た経験があるという思いにとらわれる現象である。デジャビュかあるいは単なる勘違いだろう。薫はそう考え、遅れないように丸ノ内の後ろについていった。


「ここが3年A組の教室です」

階段を登り三階にやって来た。階段から一番手前の部屋のネームプレートに「3年A組」とある。

閉ざされた戸だけがあり、教室と廊下を隔てる壁にはやはり窓はない。薫は知らされなかったが、ここは元は大学の講義室の一室であった。

教室の戸は、木製ではない何か重厚そうな材質のものである。

丸ノ内がコンコンと戸をノックした。戸は開けずにしばらく待つ。すると、戸が半分ほど開いて、そこから女性が顔を覗かせた。

「馬場先生。お連れしました」

馬場と呼ばれた女性は心得たように丸ノ内に軽く頷くと、教室のほうに顔を戻して「皆ちょっと待っててね」と告げた。そうして教室の外に一旦出てきて戸を閉めた。

「こちらが3年A組の担任の、馬場瞳(ばばひとみ)先生です」

丸ノ内が薫に馬場を紹介する。「早瀬薫です」と薫も名乗る。

まだ若くその名前にふさわしく、双眸がきらきらとして綺麗な女性だった。

「話は聞いてます。馬場瞳です。瞳先生って呼んでね」

丸ノ内とは違う、砕けた口調と好意的な雰囲気に薫は少し安心した。職員は皆、丸ノ内のように堅苦しい感じなのかと思い込んでいたが、そうでもないのかも知れない。

「では、私はこれで」丸ノ内が律儀に頭を下げる。

「ありがとう」と馬場は薫を案内した丸ノ内を労った。

「じゃあ入ろっか」馬場はそう言って、教室の戸を開いた。


薫は馬場の後に続いて教室の中に入った。馬場は教壇に立ち、薫はその横、少し離れた位置に控えるように立つ。

薫は教室全体を視界に収めたその一瞬で、席の数とそこに座る生徒の数を把握した。

席は5掛ける5――五人が縦に並ぶ席の列が5列あり、25の席が格子点状に置かれている。うち空席は最後尾の2つ窓際一列目の一番後ろの席とその隣、窓から2番目の列の最後尾の席である。

その2つの空席のうちのどちらかが薫に用意された席であろう。

薫は生徒の方を見渡した。当然のことながら、クラスの生徒たちほとんどの視線は馬場ではなく、自分たちの見知らぬ人間――薫に向けられていた。彼女らの注意が自分に集中しているのが感じられる。

「今日からこの学校に転校してきた、早瀬薫さんです。皆仲良くしてね」

「早瀬薫です。よろしくお願いします」

薫は生徒らの注視に負けないように、気持ち明るい表情で、しっかりと挨拶をする。目立った反応は……無い。生徒らは何者かと問う目でじっと薫を見ている。


「早瀬さんの席はあそこです」馬場が示したのは窓側の列の一番後ろの席であった。

「はい」と薫は返事をして、その席に向かう。生徒の席と席の間を通っている時も、その席に座る生徒それぞれに上目遣いの目で追われた。

その視線を気にしないふりをして通路を進む。自分に用意された空席の手前で、自分の前に座る男子生徒と目が合った。

癖のある髪がボサボサしていて、黒縁眼鏡をした肌の白いの男の子である。

すると、その男子生徒はさっと視線を脇へ逸らしてしまった。控え目な子なのだろうか。


薫が席に着いたのを認めて、馬場は口を開いた。

「皆さんの自己紹介の時間は設けないので、休み時間等に各自でやって下さい。一時限目は生物ですね。じゃあ~今日も皆元気に頑張りましょう!」

はじめは事務的な口調だったが後半は砕けた調子で馬場が言った。めり張りがしっかりしている。


クラスに「正座」の号令がかかる。薫も皆と同じように姿勢を正す。

「礼」の号令で一礼し、馬場は教室から退出した。


(しっかりしたところなんだ……)

薫はこの短時間におけるクラスの様子を見てそう感じとった。わざわざ交流のために時間を作らないあたり、やはり進学校といったところか。少し寂しくもあるが仕方がない。後からやってきた新参者一人のために、皆が合わせることはない。

――もしかすると、和気あいあいとした学校生活は期待出来ないかも知れない。

薫は表情を少し硬くした。


だが、一時限前の休み時間に入ったとたん、薫のその思いはよい意味で裏切られた。馬場が退室するや否や、薫の周りの生徒らが一斉に薫の下に集まってきたのである。

「ねえ、どこから来たの?」

真っ先に話しかけてきたのは、くりくりした目が好印象な男子生徒であった。背は薫と同じくらいでそれほど高くなく、自然に上がったら口角が愛嬌のある、童顔の男の子だった。

とはいえ、相手の名前も知らないうちからいきなり質問されて薫が戸惑っていると、

「いや、まずお前誰だよ」

その男子の左隣に立つ女子生徒が冷淡な口調で突っ込んだ。黒髪をツインテールにした、顔立ちは淡いというよりはっきりしたタイプの美少女である。彼女の言葉は確かに薫の気持ちを代弁するものであったが、それにしても――容姿からのイメージとのギャップもあって――言い方が少しきつくはないだろうか?言葉遣いも男の子の粗野なそれのようである。

「あっ、ごめん。俺、北条。北条蒼介(ほうじょう そうすけ)

出鼻を折られた少年は北条というらしい。

「早瀬薫です。よろしくね、北条君。」

薫は北条にそう返した後、彼に辛辣な言葉を発した隣の少女に顔を向けた。

「ん?あぁ私?私は前川春菜(まえかわはるな)。『ハルナ』でいいよ」

薫の視線に気づいた少女は思い出したように名乗った。きっとさばさばした性格だろう。

「俺、高見一(たかみはじめ)。よろしく~」

北条の右手に立つ少年が陽気そうな笑顔を向けた。人の良さそうな男の子である。

「俺|千葉塁≪ちば るい≫。」

北条と高見の間の後ろに立つ千葉は、背の高く、目鼻がくっきりして大人びた顔立ちのハンサムな少年である。

「私、京極雛子(きょうごくひなこ)。よろしくね、薫ちゃん」

こちらはまだ高校生なのに早くも艶色のある少女である。日本美人的な顔立ちで、早咲きの色気がふわりと香る。

「私、熊元冬実(くまもとふゆみ)。『ふゆたん』って呼んでもいいよ」

今度はキャラクターやぬいぐるみ的な可愛いらしさを持つ女子だ。二つに分けた後ろ髪を両耳のあたりで束ねている。その愛称で呼ぶかは……まだ保留にしておく。

北条蒼介、前川春菜、高見一、千葉塁、京極雛子、熊元冬実。一挙に6人の同級生から自己紹介されたが、薫は彼らの名前と顔を苦もなく正確に頭に入れた。


「ねえ、どこからきたの」

「休みの日ってなにしてるの?」

自己紹介が済んだら、待ちかねたように質問攻めが始まった。

それぞれが思い思いに質問を口にして、薫がどの質問から答えようか迷いかけたとき、、

「一度に話しかけては薫様が困ってしまいますわ。」

薫たちの間に綺麗な声が透き通った。歌うように心地よい澄んだソプラノの声。

声がした方を皆が振り向いた。薫を囲んでいた人だかりが二つに割れる。

その間に姿を現したのは一人の少女であった。

清らかな白い肌に、明眸皓歯の顔立ち。肩に触れるあたりで美しく切り揃えられた黒髪は純潔さをたたえている。ほっそりとした手が華奢な体の前で合わせられ、すっと伸びた姿勢には気品が漂い、令嬢然とした少女である。

その少女は薫の方へ数歩歩み出ると、スカートの両裾を手でつまみ、片足の膝を軽く曲げて、西洋式のお辞儀をした。

「|私≪わたくし≫は天音(あまね)カレンと申します。お見知りおきを、早瀬薫様」

カレンはそのを薫に向けた。

その一声で北条たちが場を譲ってしまったところを見るあたり、このカレンという少女は一目置かれた存在であるようだ。

「よ、よろしく……」

他の生徒とは違う、その板に付いた所作と高貴な風格に飲まれてしまった薫は一瞬調子を乱してしまう。

そんな薫を見たカレンはにっこり笑うと優雅に身を翻して、自分の席に戻った。


カレンの登場に一時的に静まりかえってしまった一同だったが、誰ともなく口を開き、また質問や会話が始まった。

だがそれも長くは続かなかった。

「あっ、一分前」

京極雛子が時計の針を見て言った。

今まで思い思いに過ごしていたクラスの生徒達が自分の席に戻っていく。

授業開始時刻――チャイムが鳴るそれまでには着席するのがこの学園のしきたりらしい。

雛子たちも「また後でね」と薫の下をあとにした。

すると一旦背を向けた北条が再び薫に振り返って、

「あっ、何か困ったことがあったら言ってね、薫ちゃん」

と薫を気遣ってくれた。だがその北条の様子に目ざとく気付いた春菜は

「いきなり『ちゃん』付けかよ。馴れ馴れしいな」

と口を挟んだ。やたら手厳しい。

「なにいいカッコしようとしてんの?早瀬さん、コイツいつもはこんな奴じゃないから。」

「……」

春菜はさらに追い打ちをかける。

すっかり心を折られた北条は、口を結んで気まずそうな顔で視線を下ろしている。北条の心を抉った本人は何の悪気の無い顔をしたまま、去っていった。

一人取り残され、顔を赤くして気まずそうに口を真一文字に結んでいた北条に、薫は

「北条君。何かあったら言うね。ありがと」

ニッコリ笑って言った。

北条はぱっと顔を上げて、嬉しそうな顔で自分の席に戻っていった。


(皆いい人そう)

薫はこれからの学校での日々が楽しそうに思えてきた。


全員が席に着き、姿勢を正して待っているなか、授業開始のチャイムが鳴り響いた。

生徒達は先生が来るのを黙って待っている。

私語一つ無いこの真面目な雰囲気に、この学園の気風の水準の高さを感じながら、薫も気を引き締めて授業が始まるのを待った。


静かな時が流れる。


そのなかで、抑えきれぬ笑みに微かに口元が歪ませる少女がいた。

(お会い出来て嬉しいですわ。ようこそ……早瀬薫様)


















未熟です。


もしよろしければ、「ここをこうしたらいいよ」という旨のご指摘やご指導をよろしくお願いします。


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