第2話
「お前……頭おかしいんじゃねぇの?神様が朝突如目の前に現れるつったらなぁ、美少女か幼女に決まってんだよぉ!!」
俺も十分頭がおかしかった。
すると神様と名乗る男は「あっそう。」と素っ気なく言うと、指を再びパチンと鳴らす。
その瞬間、ガタイの良い身長180cm超えてそうな細マッチョイケメンは140cmあるかないか分からない小さな少女───いや、幼女になってしまった。
俺は愕然とし、開いた口が塞がらないとは正にこの事であった。
「これでいいのか?」
声も正しく幼女。
ロングヘアのつるぺた幼女は黒く艶やかな美しい髪に純粋無垢そうなつぶらな瞳、きめ細かい白い肌、さらにはだぼだぼジャージ!!
「うぁ、これ動きにく。」
そう言いつつ足を動かすと緩すぎたズボンがするりと地面に落ち、細く美しい御御足が……
生唾を飲み込んだ頃にハッと我に帰る。
駄目だ、駄目だ駄目だ!俺は、俺には心に決めた人が……。
でも、でもでもでもこんな可愛い少女もとい幼女が俺の前にぃぃぃいいいいい!!!!
「何を悶えてるんだお前……。」
♂神改め幼女神は気付けばPC前の小さな座椅子に腰掛け胡座を掻いて肘をついていた。
「あ、いや……。」
ゴホン、と咳をして気を取り直すと状況を確認する。
「ごめん、その……神様だって事は今ので信じるにしても何で俺の前に現れたんだ?それも全裸で。」
「ん、あー。ふむ。何と説明したものか。」
何か言いずらそうに視線を泳がせつつ指先でトントンと机を小突く。
「それにしてもお前は初めは驚いた癖に今はえらく落ち着いとるな。」
「俺は常日頃から女の子が降ってきたり現れたり湧いて来たり同化したりするのを想像するのが趣味だからな。職業病みたいな物だ。男は例外だ。イレギュラー過ぎる。」
幼女神は怪訝な顔をし、溜息を吐いた。
「最後の2つは聞いたこと無いが……はぁ、職業は学生だろう?ボッチ。」
「うっ、うっせぇよ。見てろ、あいつら絶対後悔させて……何で知ってるんだ。」
「神だし。」
俺の想像する神も大体の事は知っている奴が多いが、やはり実際もそうなのか。
……いや、何か流されそうになったがよく考えたらこれは夢だったとか実際は死んでるとかそういう展開も有り得る。
それこそよくある展開ではないか。
「死んでない死んでない。これは現実。夢でもないぞ。」
思考を……読んだ……?
ありきたりな超常能力を目の当たりにして口を開閉させる俺を一瞥し、幼女神は立ち上がる。
「そりゃー神だもんっ!これ位余裕だよぉ?……あ、因みにこれはお前の投稿してる「幼女神と僕の日常」に登場す───」
「すいません神様。頭が覚めました。」
俺の連載してる小説の幼女の神の様に「余裕だよぉ?」と言いつつ指をさしニッコリと笑顔になる仕草を実演されてそれがまた理想以上の出来であった事もあるがそこまで知られている以上神だ。神以外あり得ない。
これが「神の御技」という奴か。恐るべし。
……どうやら神様の様でこれはどうしようもなく現実の様だ。
最後に確認として頬を思い切り抓る。
つっ!!───痛い!本っ当に痛い!
夢じゃない。痛い。一度やってみたかったけど二度とやらねぇ、痛い。
「ふむ、ようやく本題に入れるな。」
俺の理解が確実になり満足したのか腕を組み仁王立ちで……おい待てそれ「幼女神と僕の日常」の──
「ふっ、その前に飯にしろ!」
この野郎わざと仕草を似せようとしてやがる。
「ねぇよ、んなもん。」
「あぁ!?舐めてんのかテメェ!」
突如ドスの効いた漢の声で怒鳴り付ける幼女神。
俺の幼女神そんなことしなかったお!!
ひぃ、と怖気付いた声を上げる俺を見て、ぽん、と納得した様に手を叩く。
指をパチンと鳴らすと今度は髪型がふんわりとしたツインテールに一瞬で様変わりした。
「おにいちゃん、お腹すいたぁ……ごはん……。」
座り込んで上目遣いのダボジャージ一枚限りと言うトリプルコンボをかましてくる幼女神に、身体が反射的に俺の晩飯に食べようと思っていたレトルトのカレーを開けようとまでしたが、俺はすんでの所で留まった。
危なかった。さっきの渋い声を聞いていなければ物語の様にササッと用意してしまいそうであった。
「も、もうやめろ、それ……。」
「なんだ、喜ぶと思ったのに。ほれ、お前の好きな幼女だぞ?」
ダボジャージの裾をひらひらぁ、と挑発的な幼女神。
俺は不躾な態度にカッとなって立ち上がった。
「馬鹿にするな!俺はその程度で落ちる様な軽い男じゃねぇぞ!伊達に数年間一人で二次元的超常現象について想像し、構想し、妄想し、試行錯誤を繰り返して来てねぇ!自らの物語の為であればと様々な人の本を読み漁り自分流を何度も何度も更新しながらこうして今の俺という存在が出来上がったのだ!自らの物語で登場する幼女一人如きで俺が言いなりになると思うなよ!あと5人用意して出直して来やがれ!!ハーッハッハッハァ!!!」
チーン。
ほわぁ。
レンジでチンしたご飯の上にさっき湯煎したカレーをかけて幼女神の前に置いた。
「ほぉ、これがカレーか……。」と呟きながらスプーンを握り、かき込む様にしてカレーの食べ始める。
「……はぁ。」
一通り言い終えたので最後に溜息で締めくくり、幼女神の向かい側に腰を下ろす。
ガツガツと勢い良くかき込む幼女を肘をついて眺める。
可愛い。
俺が理想とする幼女を具現化してそこに変な属性を混ぜ込んだらギャップ萌えが生まれちゃいました!みたいな。
夢中でカレーを頬張る幼女に暫く見惚れていると幼女神は喉に詰まらせたのか胸をトントンと叩き始めた。
「ん、ほら。お茶。」
俺が飲もうと思って入れておいた緑茶を差し出すと飛びつく様に奪い取り、ごくごくと音を立てて全て飲み干した。
「何だ。ニヤニヤして。」
ふあぁぁ……と息を吐く幼女神を見てつい頬が緩んでいたらしい。不覚不覚。
「?……まさか飲みかけを飲ませて───!?」
「ねぇよ!まだ飲んでなかったわ!」
咄嗟に言い返すも虚しく確信犯の笑みを浮かべつつ俺を軽蔑する。
「キモぉ。流石に引いたわー。」
くっ、こいつ……
俺が幼女を殴れないと思って……。
ふふん、と満足げに笑うと再びカレーをかき込む。
「お前、名前は?」
「ん?ほふひはひは?」
「飲み込んでから喋れ。」
んぐ、んぐ、ごっくん。ふはぁ。
「名前なんて特に無いが?呼び名が欲しいなら勝手に付けていいぞ。」
そう言って空のコップを俺に突き出す。
お代わりですね、はいはい。
席を立ち、お茶を淹れながら考える。
小説のキャラ名は流石に痛々し過ぎか……。ふむ。
「そうだ、爛漫、ってのはどうだ?天真爛漫の。」
「ほう、爛漫か。んー、ランランとかは?」
「パンダっぽいからだめ。爛漫じゃ不服か?」
「いや、それで構わん。言ってみたかっただけ。」
そう言うと残りのカレーを最後までスプーンですくい切ろうとカチャカチャ音を立てる。
「なら、爛漫だな。」
この名前の理由は教えないでおこう。
そんな事を考えながら俺はコップを差し出した。




