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ご話

ちゃんと、聖龍なルナマリアの回。

評価やブクマありがとうございます!

やる気出ました!これからも頑張りますね!!

「遠方の時期に良く来てくれた。ご苦労だったな」


「臣下として当然です」


あの後父様と合流して、現在陛下と謁見しました。父様が陛下に挨拶の言葉を交わしている中、龍人形態の陛下達を観察しております。そのお姿は変わらず凛々しく、その隣にいらっしゃる王妃様も美しいです。正しくお似合いの夫婦に、憧れます。勿論、父様母様もそうなのですが、万年ただのいちゃつき夫婦なので、こちらが照れます。娘の前でも自重して、と思わずにはいられないので、仕方ないです。


それはともかくとしまして、ここにてお会いできると思っていたエリオット様はいらっしゃいませんでした。残念です。いえ、お忙しいのは分かってますので、ここは我慢です。それに、あの手紙以降エリオット様との接触がありませんので、いくら招待して頂けたからと言ってそれはきっと、臣下の中で、年の近い龍には同じ様にしているのでしょうから、変に期待はしたらいけません。


「オルビスの隣にいるのは、ルナマリアか?」


「お久しぶりです、龍王陛下、龍王妃陛下。変わらずの神核の輝きにご健勝である事、何よりです」


「ふむ、ルナマリアはますます神核を磨かれたのだな。アルマに似て美龍だ。さぞかしオルビスも自慢だろう」


「お褒めに預り光栄です」


「此度は聖龍修行である見聞の旅に出る所を引き留めてすまぬが、息子が成龍なので、是非ルナマリアに祝って欲しい」


父様は龍騎士として頻繁に来ているので挨拶もそこそこに終わりましたが、私の時になると、陛下はにこやかに対応して下さいます。美しいと評判の母様に似ていると仰って頂けるとは、優しいです。気脈不全で浮腫(むく)んでいた前回とは大違いですよね、やはり、修行頑張っていて良かったです。


「はい、エリオット殿下にはお忙しいのに気に掛けて頂いた事も少なくないので、精一杯祝福させて頂きます」


「まあ、素晴らしいわ。エリオットもさぞかし喜びましょう」


私の返しに、王妃様が瞳を輝かせ喜色満面に声をあげられました。

そんな様子を見ていると、私は、気に入られてるのだと錯覚してしまいます。いえ、お二方共前回の私でさえ何も言わず追い出さなかったので、優しいのです。だから、普通になった私に笑顔を見せて頂けるのはお二方の普通なのですよね。


「失礼します、父上、お呼びですか?」


父様と一緒に近況報告をしておりましたら、グレイル様が入室されました。入る際の言葉から、陛下がこの場にお呼びしたようですね。


「一度戻った所すまんな。ルナマリアもそろった事だし話すのに良いと思ってな。予想はしておるだろう?」


その陛下の言葉に、私を始め、父様やグレイル様も察しました。


「以前話の上がったグレイルとルナマリアの婚約の件だが、白紙に戻す事にした」


陛下の言葉に、私達は全員緊張致しました。望んでいる事の流れになったのは確かですが、この次が肝心だからです。


「同時に、エリオットと王弟子女アピンスとの婚約も取り消す。これはエリオットも既に了承している。でだ」


何と、エリオット様とアピンス様の件もなくすとは、これは、期待出来ますね、グレイル様!

実はエリオット様と情報交換を始めた初めの頃、エリオット様の伝でアピンス様とグレイル様の仲が宜しいのが陛下の耳に入ったら、教えて頂ける様にお願いしておりました。そして、アピンス様に相談され、グレイル様に積極的になるよう助言した辺りより、他龍に目撃されると噂がたっているとお聞きした際には、陛下の耳に入るのも時間の問題でした。陛下がそれを考慮して下されば、グレイル様とアピンス様は晴れて婚約を言い渡されると思ったのです。

心の中で、グレイル様を応援いたします。


「婚約を結ぶのは、好きな相手が良いだろう、と以前からシルヴィと話していた。グレイルよ、お前、(つがい)にしたい相手がいるのだろう」


疑問形のようで、確信された声色に、グレイル様は真剣な顔で陛下を見て、言葉を発されます。


「はい。許されるなら、王弟子女のアピンスを我が妻としたいです」


後半期で5の歳となるグレイル様は本当に格好いいです。成龍になれば婚姻可能なので、さぞかし雌龍のお誘いがあるでしょう。アピンス様が妬き持ちを抑えるのが大変で、グレイル様に余計に甘えていたと仰っておりましたが、その気持ちは、凄く共感できます。


「アピンスもグレイルには特別な感情を持っていた様子だったな。では、この後王弟アスランとアピンスをここへ呼ぶ。お前より、その気持ちをアピンスへ告げよ。アピンスが了承すれば、お前達はその時より婚約だ。アスランからの許可は私がとろう」


「ありがとうございます」


陛下の措置に、グレイル様は嬉しそうに頭を下げて臣下の礼を取られました。これはもうお二方が婚約される事間違いないでしょう。相談を受け、お二方の様子を知っていただけに凄く嬉しいです。

王妃様も嬉しそうなグレイル様を微笑んで見ていらっしゃいます。


「さて、ではルナマリアよ、当時3の歳にした約束により、婚約の話しは無くなった。グレイルとの仲は友龍であるとグレイル自身より聞いている。異論ないな?」


「はい、陛下。私はアピンス様には姉の様に慕って頂き、グレイル様には良き友として頂けて、光栄に思っております。これより先も、長いお付き合いをさせて頂きたく思います」


陛下の質問に、私はにこやかに頷きます。その際に恋愛としてグレイル様に接していた事はないと暗に伝えておきます。

ですが、この時私は失念してました。エリオット様のお名前だけ抜けてしまったのです。


「あら、ではエリオットは違うのかしら?あの子は貴女を今回の祝いに招待を自分の名で出していた筈ですけど」


王妃様の言葉に、私は失言だったと気付きました。先程の言い様では、エリオット様だけ友龍ではないと言っているようで、焦ってしまいます。


「その、エリオット殿下につきましては、頼りがいのある方でして、友と言うより、不敬でなければ父様に近いと言いますか、でも流石次期龍王となられる素晴らしい方なので、友であると主張するには、エリオット殿下に聖龍になっていない私では恐れ多くて、名乗れません」


言っていて自分で何を伝えたいのか分からなくなりました。恥ずかしいです。見事に玉砕した私は、陛下達の前に出ていられなくなり、不敬と解りつつも、父様の背に隠れました。

この様な事で怒らない陛下達なので出来る事ですね。


「ふはっ。エリオットの奴が、父親(オルビス)と対等とはっ!!」


「陛下、抑えて下さい、あの子が可哀想ですよ。折角頑張って説明してくれたのに」


「兄上の位置が、まさかの…」


「そうか、ルナマリア、地上でも頼れる父親を見つけるとはな!よし、これからはエリオット父様と呼んであげなさい。俺が許そう」


何故か陛下は身体を震わせ、王妃様は慈愛の表情、グレイル様は悲哀の表情で、私の前にいる父様は喜びの顔でエリオット様の呼び方を決めて来ました。

父様、流石にその呼び方は友龍だと言うより不敬ですよ。

取り敢えず、皆様怒ってる様ではないので、安心致しました。


「取り乱してすまない。そうだな、エリオットの奴が今は、執務と訓練で暇を作っていないが、明日の成龍祝いではルナマリアに必ず声をかける。その時に色々話してやってくれ。聖龍修行の邪魔はしないから」


「はい、エリオット殿下も次期龍王として励まれているのですね。明日は聖龍に伝わる祝福の祈りを贈らせて頂きますね」


漸く陛下の震えが治まり、普段よりやや砕けた感じの陛下に私も父様の背後から出て頷きます。

エリオット様に嫌われた可能性があると落ち込む私に、母様から明日は是非エリオット様へ行いなさいと、祝福の祈りを教わりましたので、仲を修復させる切っ掛けになるよう努めたいです。でも、流石聖龍ですね。不仲の関係修復の術も修めているとは、畏れ入ります。これを前回知っていれば、と思わずにはいられません。


「ほう、それは楽しみだな」


「ふふ、ではルナマリアは明日に備えて身体を休めて下さい。龍人での飛行は慣れないとかなり疲れるものらしいですから」


「お気遣いありがとうございます。それでは、お言葉に従いまして、休ませて頂きます」


私の明日の目的をお話したら、お二方とも笑顔を見せて下さいました。そして、王妃様より、身体の気遣いまで頂いてはこれより休ませて頂く事に致しましょう。目上の方の忠告は聞き入れるのが基本ですものね。


謁見室を出るとそこにはポプリさんがいらっしゃいました。あら、どうされたのでしょう?


「休憩されるとお聞き致しましたので、お部屋へご案内致します」


何と言う事ですか、何度か此方へは伺った事がありましたが、この様にご丁寧な侍女様は初めてです。流石、ポプリさんです。


「ありがとうございます。では、宜しくお願い致します」


私の謝辞に、ポプリさんは微笑んで頷いて下さいました。ふわっとした優しい微笑みに、こんなお姉様がいれば素敵だなと思いました。アピンス様が慕って下さって本当に妹ができた様で嬉しかったのですが、お姉様も居ないので、憧れはあります。はあ、お姉様とお慕いさせて頂けないでしょうか?

でも、流石にいきなりでは馴れ馴れしいですよね。先ず交流をしてからですよね。


「あの、ポプリさん、良くして頂いてばかりでは申し訳ないので、何か私で出来る事があれば仰って下さいね」


部屋に着くと、ポプリさんは直ぐに、お茶をいれますね、と動いて下さいました。お客様に対する対応が完璧過ぎて居たたまれません。

ですから、この際に声を掛けます。


「では、少し私とお喋りして下さいますか?」


すると、ポプリさんは少し考える様にされた後、嬉しいお願いをされました。


「ふふ、私もポプリさんとはお話をさせて頂きたかったので、それでは私へのご褒美になってしまいますね」


「っ、では、明日の生誕祝いに出る際にルナマリア様のお支度を私に任せて頂きたいです」


頬を染めて上を向かれたポプリさんに、何か失言だったのでしょうかと思ったら、次に言われた言葉に、考えを忘れました。

ポプリさんは、前回の時では、私の体型に合わせて綺麗に見える様にして下さってました。前回程の苦労はさせないでしょうが、手間ではないのでしたら、エリオット様に少しでも綺麗に見て頂きたい私は是非お願いしたいですね。


「あの、お手数でなければ是非お願いいたします」


「そんな!寧ろルナマリア様のをさせて頂きたいのは此方です!ああ、とてもやりがいがありそうで、ふふ、明日が楽しみです。今からでもどう飾らせて頂くか想像が膨らみます」


何だかとても張り切って頂ける様子です。頬を紅潮させて、キラキラ語るポプリさんは、さっきまでの凛とした様相とは逆に少女の様な無邪気さがあります。


「私の支度程度で喜んで下さるとは、思いもしなかったので、嬉しいです。ドレスはあるのですが、髪の形を整えるのや小物類は用意出来ず、それでは此方で貸して頂けると王妃様に伺ったのですが、何を選んだら良いか分からず困っていたのです」


「成る程、それでルナマリア様の侍女を選ぶ審査に私が通ったのですね。私、そう言った事を趣味にしてますから」


どうやら今回わざわざ侍女様が付いた理由は、私の支度の為でした。今まで侍女長の方が案内等をして下さってたのですが、私付き侍女、と言われたのは初めてでしたから。

母様から、身の回りの事は全て自身で出来るように指導はされているので、今まで特別苦労はありませんでしたから、今回限りでしょうが、それならそれで前回の様に我儘を言ってはいけません。自身で行う様になり、初めてその事が大変で、そして子供でも出来る事であったのかが分かり、恥ずかしくなりました。

漸くそれに母様の許可が降りたので、旅に出られるとなった訳です。確かに前回の私でしたら、確実に身の回りの事が出来ず、途方に暮れた事でしょう。


「ポプリさん、よろしければ私に侍女様のお仕事を教えて頂けませんか?私も母より教わりましたが、侍女の方はとてと素晴らしい技術を持たれてるそうで、今後の旅に活かせると思うのです。数日では覚えられないでしょうが、それは旅の間に磨いてみせますから」


そう私がお願いすると、ポプリさんは、フルフルと震えて下を向かれてしまいました。そんな一朝一夕で覚えられる技術ではないのに、簡単に言う私にお怒りになってしまったのでしょうか。

ああ、折角良好な関係関係が出来そうでしたのに、私はまたやってしまいました。


「あの、ポプリさん…」


「ルナマリア様!」


「はいっ!」


礼儀知らずで申し訳ありませんでした。と、謝ろうと口を開いた瞬間、ポプリさんに呼ばれ中断致します。説教でしたら、甘んじてお受け致します。


「よろしければ、私をルナマリア様の見聞の旅に同行させて下さい」


えっ、なぜその様な事に!?


「あの、私そんなに自活出来ない様に見えますか?」


前回に比べたらかなり学んでいただけに衝撃です。


「そうではありません、いえ、ここは敢えて言わせて頂きます。旅に予想外は付き物。毎回宿があるとも限りません。野草等で食事の用意や外で野宿もあります。そんな時、ルナマリア様では生き残れません」


「た、確かにその通りです…」


何と、指摘頂いた事は旅に有りがちな事!失念しておりました。この分野は父様に教わるべきでした。


「それに、人族の里には悪意ある者もいます。例えば、金品を騙し取るとか。私でしたら、その方面も、しっかり備わっております。ですので、道中それらもきちんとお教え出来ます」


人里とは危険な所なのですね!甘く見ておりました。本日ポプリさんとお話出来て良かったです。ですが、出来る侍女様をとても私の為にご同行何てお願い出来かねます。


「申し出はとても有り難いのですが、王妃様や侍女長様にも、優秀なポプリさんをお借りするのは申し訳ないです」


「大丈夫です!ルナマリア様に選ばれたと伝えれば王妃様より全て許可されますから」


あの、私にとは一体何ででしょう?

あ、分かりました。今回の許嫁の破棄で、私の番相手がいなくなってしまったから、そのお詫びで王妃様から侍女を借りれると言う事なのですね。

私は気にしてないので、気を使って頂かなくても良いのですが、先程の事を考えると私では厳しいでしょう。


「ですが、それこそ見聞の旅の主旨です。ですから、他龍から援助を頂いては修行になりません。母もその程度で挫けるとは情けないと言うでしょう。やはり、この数日で出来る事を教えて下さい」


「ルナマリア様、それは違いますよ!」


覚悟を決めて言った私に、ポプリさんは声をあげました。何か間違った事を言ってしまったのは確かですが。


「まさか、ご存知無いのですか…?すみません、用事が出来ましたので、少し失礼致します。ご用がありましたら、こちらの笛をお吹き下さい。私にしか聴こえない音ですので、周りの妨げにはなりませんから」


驚いた様にポプリさんは何かに気付かれ、そのまま優雅に礼をされると部屋を出て行かれました。

私、また何か不快な事をしてしまっていたのでしょうか?私の知らない何かがある様な言い方でしたが、無知とは困りました。

調べたくとも、本日はもう休む事になっているので、部屋はなるべく出ないのが良いでしょう。

仕方なく、私はその後は荷物の整理だけして休みました。




「おはようございます。昨晩は急な用事でお休みされるお手伝いが出来なく申し訳ありませんでした」


翌朝、ポプリさんが、私の起きた時間丁度に部屋へいらっしゃいました。


「生誕祝いは本日正午からです。この後のご予定は、ご朝食の後、先ずは湯浴みですね。それから気脈マッサージと、気替えとメイク、出席者の方の把握ですね」


口を挟む余地もない素晴らしいスケジュール管理です。


「あの、出席者の名簿でしたら、昨晩の内に全て把握してます。ですので、そのお時間に、ポプリさんに人里での注意事項の講義をして頂きたいのですが…」


「流石です、ルナマリア様。そうですね、それなら先に知っておいて損は無いでしょうし、そう致しましょう」


「ありがどうございます」


流石ポプリさんです。

それから朝食から、メイクまで準備出来、ではポプリさんから講義を受けようとした所で、来客があり、ポプリさんが出迎えて下さいました。


「あの、騎士のハヴィスがルナマリア様にお会いしたいと来ておりますが、いかが致しますか?」


本日はエリオット様の生誕祝いが、(ここ)で行われるからと伺ってました。だから、態々騎士の方に案内頂かなくとも、場所は既に把握していました。流石に客だけで城内を動くのは差し支えると思うので、侍女のポプリさんが案内して下さるので間違いないと思っていました。だからこそ、ハヴィスさんが来られてるのが気になります。


「時間に余裕はあります。急用かもしれませんし、先ずはお話を伺いましょう。応接間に通して下さい」


城の部屋なので、客室と言えどもベッドルームだけではなく、応接間もあるのが贅沢ですね。流石に寝ていた部屋を雄に見られるのは障るので、移動しましょう。


「突然の訪問申し訳ありません」


お会いして直ぐに頭を下げて謝られたハヴィスさんに、普段なら先ずしない行動を取られているので、構いません。とだけ返します。


「それより、その訪問しなければならなくなった事についてお話下さい」


「実は、ルナマリア様に折り入ってお願いがございます。私事になるのですが、昨日城を出ていた母が、戻ったのですが、病の様なものにかかっている様で、聖龍となるルナマリア様に、診て頂きたいのです」


「まぁ…」


話を聞いて、前回で私が無碍にしたハヴィスさんの依頼だと察します。ハヴィスさんがエリオット様の側近になっていらっしゃらなかったので時期が分かりませんでした。私が城にて暮らしていないのでこういった齟齬があってもおかしくないです。

依頼された時は、何とか龍人形態になるのに必死で、神術を使う余裕もなく、怪我は治した事があっても病を治す聖術は知りませんでした。よって私は、その話しだけで出来ませんと答え、何時もエリオット様に近い彼の苦しそうな顔に優越感がありました。今思うと最低な態度でした。


「城の治療士は原因不明だと。症状に対する薬を使ったりはしましたが、改善はせず、知らない症状もあり、打つ手が無いそうです」


治療士が出来るのは精々が外傷の手当と、薬物治療だけです。実際に回復させると言うのが聖術、つまり聖龍の持つ特殊な神術なのです。

聖術にも治せる限界がありますが、頑張ると決めた私の返事は決まってます。


「分かりました。伺います」


「本当ですか!?」


私の返答に、喜びの表情をするハヴィスさんには申し訳ないのですが、それでも知っておいて欲しいので、伝えます。


「はい。ですが、一つご注意が。聖術にも限界があります。必ず助かると約束出来ません。それは、私の知識や、経験が大きいのです。内での修行ではその経験は出来ません。その為の見聞の旅なのですから」


これは同時に、ハヴィスさんのお母様を診たとして、やはり無理であっても、今後の私の旅での経験次第では治せる様になる可能性もあると言う事です。ですが、あくまで現在の私の力でどうにかしなければなりません。


「それでも、今は一刻を争います。父にも了承頂いてますので、お願いします」


ハヴィスさんの同意に私は頷くと直ぐに行きましょう、と立ちます。


「ルナマリア様、」


「ポプリさん、父に伝言を頼めますか?少し、遅れるかもしれませんと。伝えたら、ハヴィスさんのお母様の場所へ。終わったら会場までの案内、お願いしますね」


「はい、直ぐにオルビス様に伝えたら迎えに行きます!」


心配そうな、咎める様な表情をされるポプリさんに、安心して頂ける様に微笑んでお願いします。優秀なポプリさんは、それだけで直ぐに与えられた指示を遂行する為に頷いて動かれました。


「申し訳ありません、大事な日に。エリオット殿下には、私から謝罪をしますので」


「私は聖龍です。苦しむ龍がいるのに、無碍には出来ません。大事な友のご家族です、診ないなんて選択できません。それに、臣下の家族の治療をして遅れた位でお怒りになる程、エリオット殿下は狭量ではありませんよ」


申し訳なさそうに謝るハヴィスさんに、気にされない様に返します。エリオット様の心は前回の私の行動を咎めなかった位です。こんな事で信用性があるのも変ですが、そうでしたから間違いないでしょう。



「ここです。それと、何を見ても驚かれないで下さい。私がルナマリア様は護りますので」


「ええ、分かりました」


ハヴィスさんの注意に、私は何か危険がある事を察して咄嗟に防御術を施します。


ガツン


入った瞬間壁を打ち付ける音。部屋は何かの焼ける臭いが広がってます。

そして、赤い鱗の異国龍を、黒龍が抑えてる光景でした。


「があぁあっ」


苦し気に呻く赤龍こそ、ハヴィスさんのお母様でしょう。

気脈が乱れ、龍人形態をとろうとしても保てず変に鱗が剥がれた龍形態になっています。


「始めは熱と、胸の痛みから始まったのですが、今では会話も出来ない程苦しんでます。暴れるばかりで、このままでは、病で死ぬより先に処刑を言い渡されてしまいます」


苦しそうに応えるハヴィスさんに、私は何とかしなければと改めて思いました。


「先ずは近付かないとですね」


「ですが、あの状態では…」


「大丈夫です」


私はにこりと笑うと、聖術の一つ、鎮静の祝詞を気脈に乗せて対象者へ手を(かざ)します。


「かの者に触れ、和らぐ事を願う。“鎮静”(セデーション)


本来なら鎮静と唱えるだけですが、今回直接触れられない相手には、気脈を直接飛ばすので、始めの文言が必要になります。そして、それが効いた様で、赤龍は暴れるのを止め、落ち着き、横になりました。


「凄い…」


「カルア?…今の、ルナマリア様が?」


ハヴィスさんの呟きと、ウェルスさんの戸惑う声が聞こえました。


「急に失礼しました。今行ったのは、一時的に痛みや苦しみを和らげただけです。根本的な治療はこれから行いますので、まだ気は抜けません」


いくらハヴィスさんの許可があっても、急に術を掛けた事にウェルスさんを驚かせてしまったので、謝罪と説明を致します。


「いえ、助かりました。しかし、本当に来て下さるとは思いませんでした」


「母から聖術の使用制限は旅立つ事を告げられた時に解除されましたから、出来る限り助力出来ます。なので、来ました。もし、私が駄目でも父へ話して母に来て貰える様に計らいます」


ウェルスさんの困惑された気配に、私は答えました。聖龍は、許可が出るまで聖術に制限が掛かるので無理もありません。


「では早急に診療いたします」


先ずは龍形態での状況確認です。気脈が乱れてます。異国龍ならではの翼ですが、特に不自然さはありません。あら?左脚に新しい傷がありますね。傷口は塞がりつつあります。

他には外傷は無しです。

続いて頭部方面へ、牙に変形変色なし。口内は、ブレスの影響か僅かに爛れています。火炎ブレスをされる龍は口内に耐性はあるのでこんなものでしょう。ですが、この状態では治りも良くないので、一先ず治癒させて頂きます。

さて、瞳孔は…これはっ!

なら、最初の胸の痛みと無縁では無い筈です。


「ウェルスさん、これは、病と言うより呪術だと思われます。感染源はこの脚の傷を作った物からでしょう。龍の命、神核が蝕まれてます」


「!?」


瞳に僅かに黒い点が幾つか見られたので間違いないでしょう。聖龍は確かに治療や癒しの専門ですが、呪術が流行し始めた昨今では、病の一種として考え、母様から呪解も修行に取り入れる様に促されました。それに、前回の死から戻れた私は興味を持ち、色々調べていました。原因が分かり確認すれば、確かに神核が正常な色ではなく、濁りを帯びています。


「困った。呪解出来る者は城にいない」


「あの、私でよろしければ、このまま呪解も致します」


「えっ!本当ですか!?」


悩まれるお二方に、私は申し出ました。母様もまだ呪術については勉強中なので、驚くのも無理ないです。聖龍は呪術に耐性があるので害と思っていなかったのも原因でしょう。


「はい。まだ勉強中ですが、呪い系統の初期段階ですから、可能です」


「是非お願いします!」


頭を下げる黒龍のウェルスさんと、龍人のハヴィスさんに、感謝するのはまだ早いですと伝えてから、呪解に取り掛かります。


先ずは私自身の神核に癒しの聖術、そこから流れる気脈が全て聖術に変わり、効果も上がります。


「この方の名は?」


「カルアです」


呼びかける為に名前を確認します。では、先ずは呼吸からです。


「カルアさん、私は白龍のルナマリアです。聞こえたら、私の指示に従って呼吸して下さい」


僅かに開けられた眼と視線が合った気がします。よし、意識はあるので何とかいけます。大きく吸って下さい、続けてゆっくりと吐いて。呼吸に従って私の気脈をカルアさんに流して滞った気脈を流れる様にします。ある程度回復された様子を見て、呪の元を引き出します。狙いは脚の傷です。


「かの者の核を阻む呪の元よ、直ちに去りなさい“呪解”(エクサイス)


最後に一気に神核に回復系聖術と防御系神術の二重掛けをします。すると、例の傷口から黒いモヤが排出されたので、それを私は逃げない様に圧縮させて固めました。

カラン、と落ちた球体に、呪を閉じこめたので、術者に還る事も取り敢えずは無いでしょう。


「成功ですか?」


先程までの赤黒い鱗から、綺麗な真紅の鱗になったカルアさんを見て、ハヴィスさんは私に問い掛けます。


「はい。そこにある球体には直接触れないで下さいね。術者に還ると解いたのがバレてしまうので封じました。無闇に触れると、今度は自身が呪われるかもしれません」


「承知しました。専門家を捜して保管して頂きます」


私の伝えた注意事項に答えたのは、ウェルスさんでした。不安が無くなり何時もの冷静な彼に戻った様でした。


コンコン

終わった時機に叩かれた扉。それに気配で誰か分かったのかハヴィスさんは特に警戒もせずに扉へ向かって開けます。そこにはポプリさんと、もう一方龍人の雌龍がいらっしゃいました。


「ルナマリア様にお怪我はありませんか!?念の為に治療士も連れて来ました」


開けた途端に勢い良くハヴィスさんに詰め寄るポプリさん。


「あの、カルアさんに試す薬を用意してみました」


一緒に入って来た治療士の方は、後ろから、声を必死に伝えてます。


「ポプリさん、私は大丈夫です。治療士の方ですね、丁度良い所へ来て頂けました。原因は呪術によるものでした。祓いは済んでますが、体調の回復経過を診て下さいますか?」


焦るポプリさんに、私が無事であると伝えると、気を利かせて連れて来て下さったのが治療士の方なので、後は任せても問題無いでしょう。

球体の存在の注意を伝えて、入室して頂きます。


「ルナマリア様、ご無事で良かったです。カルアさんの現状を治療士の方に聞いて、気が気でありませんでしたよ」


「ご心配頂きありがとうございます。ハヴィスさんも護って下さってましたし、問題ありませんでした。では申し訳ないのですが、後は治療士の方に任せて私達は会場へ参りますね。今ならまだ開始に間に合いますよね」


ポプリさんにお礼を言いながら、私は予定より早く終わった事に安堵します。本来なら経過も診て行くのですが、時間も迫ってますし、治療士の方がいるので何とかなりましょう。


「後でまた様子を診に来ますね。ただ、何か異変がありましたら、直ぐに教えて下さい」


「あの、ルナマリア様…」

「ああ、ルナマリア様、髪が乱れてます。少し整えますから、一度私の部屋へ寄って下さい。ルナマリア様の所より近いですから」


何かウェルスさんが言いかけてましたが、ポプリさんの世話焼きに、引っ張られ、挨拶もそこそこに私は部屋を退室しました。



「鱗も綺麗になりましたし、呼吸も安定。意識も正常。流石聖龍様です。特に私のする事も無いですね」


治療士の見立てで特に問題無しとなった。その結果に、ウェルスもハヴィスも安堵した。


「二方とも、心配かけたわね。私はもう大丈夫」


気脈が安定し、龍人形態をとったカルアは心配させた二頭に声を掛け、治療士にも色々調べて手を尽くしてくれていた事に感謝した。


「父上、母上、こんな時に申し訳ないのだが、お願いがあります」


ハヴィスの真剣な声に、ウェルスもカルアも分かっていると自慢の息子を優しい眼で見て頷く。


「それで良いと思う。寧ろ、そうしなさい」


「はい。行って参ります」


ハヴィスの言葉に、両親は快く見送る。

親子の絆が深まった黒龍一家に、治療士は微笑ましくそれを見守った。



「あれが、今代の聖龍様?」


「暫く見掛けなかったが、成長されていて、確かもう間もなく成龍される筈だ」


会場へ着き、父様に先ずは来れた事を伝えようと探していると、遠目に噂されているのが僅かに聞こえます。批判的な言葉なら前回で慣れましたから、聞かないふりです。これから前回とは違う私を見せて行くので問題ありません。


「ルナマリア様、良かった。遅いので心配しました」


「グレイル様、こんにちは。少し急用が入り済ませておりました。なので、父とは別に来てしまったのてすが、見かけませんでしたか?」


会場内を回っていたら、グレイル様が他龍との挨拶に切りをつけて声を掛けて下さいました。そんなグレイル様だから父様にはもう会っただろうと考え尋ねます。


「ああ、騎士団長なら、緑龍の長とあちらで話しているのを見掛けたかな」


「ありがとうございます」


「グレイル様!ルナ姉様!」


一度グレイル様とはここで別れようとした時、後ろより声を掛けられました。振り返れば、そこには可愛らしいショートにウェーブがかった青髪に、たれ眼、黄色のドレスを着た少女の龍人がいらっしゃいました。声と私を呼んだそれで当たりをつけます。


「アピンス様ですか?」


「はいっ。成龍祝いは龍人形態でないと出席出来ないと言われたので、頑張って練習したのです。まだ完全ではないのですが、これ位なら良いとやっと本日お父様にも許可頂けたのです」


確かに僅かに露出した腕等に鱗は見られ、青龍独特の水かきが残ったりしてますが、そんな所もアピンス様らしく愛らしいですね。


「ふふ、アピンス様は龍人形態になっても愛らしいですね」


「これでグレイル様の隣に立てます」


そう言って、アピンス様は、グレイル様の隣に立ちグレイル様を見上げて微笑みます。


「なっ、僕はそんなの気にしないと言っただろうに」


僅かに頬を赤らめてアピンス様の頭をぽんと優しく撫でるグレイル様の姿は、すっかり恋龍同士の行為です。この雰囲気では、昨日の婚約申込みは上手く行ったのですね。


「ルナ、間に合ったか」


お二方を見ていたら、父様の方から声を掛けて来ました。すっかり時間が経っていた様ですね。


「はい。我儘言ってごめんなさい。その後上手く行って、予定通り来れたので、これから父様の所へ行くつもりでしたよ」


過保護な父様に、簡単に経緯を説明すると、安心した顔をされたので、どうやらお咎めは無さそうで良かったです。


ざわ

会場の気配が一気に揺らぎます。一様に皆様が向ける視線の方向、それは、今回の主役の登場です。

すっかり凛々しくなったそのお姿に、胸を高鳴らせる女性は多い事でしょう。私も漏れずその姿にどきりとします。

ですがその隣を見た瞬間、胸がざわりと騒ぎました。エリオット様は妙齢の美女の手を取りエスコートしてましたが、それは、まだ良いのです。問題は更にその反対側を着いて歩く人で、それを認識した瞬間私は固まりました。


エレノア・シフキアート…


前回最期に見た彼女、その人でした。

予定外に長くなって、殿下の登場がどんどん遅れてしまいました。無理矢理入れたら、微妙なとこで終わってしまった回。

次回こそ、エリオット殿下、ルナマリアと対面です!

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