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よん話

大変お待たせしました。久しぶり故に設定が…。広い心で見て下さい。

「初めまして、ルナマリア様。私は龍騎士のハヴィスと申します。本日は城への同行の警護にあたりますので宜しくお願いいたします」


城へと向かう当日、天空の島へ本当に城から使いの方がいらっしゃいました。龍人形態に何故か黒の翼を生やした騎士スタイルの黒髪金眼に既視感を覚えます。ハヴィスと名乗った彼はつり目気味ですが、にこやかな笑顔を浮かべているので悪い印象はなく、爽やかな青年です。


「初めまして、白龍のルナマリアです。本日はお迎えありがとうございます」


龍人となって私も挨拶を交わします。その際社交の場ではないので種族と名前だけを名乗ります。


「ルナ、ハヴィスはウェルスの息子で1の年前に騎士になったが腕は確かだ。安心すると良い」


ハヴィスさんの姿を見て父様は驚いた様子をしましたが、特に何かを言うでもなく、その後直ぐに彼を褒めました。何かあるのでしょうか?それにしても、ウェルスさんの子息でしたか。それなら一目見た既視感にも納得です。


「はい。神核の輝きもお強いので、信頼できますね」


「聖龍様になる方にお褒め頂けるとは光栄です。ご期待に添えるよう頑張らせて頂きます」


「本日は宜しくお願い致します」


私も父様にならってハヴィスさんへの第一印象を言えば、ハヴィスさんは一瞬眼を見開いた後に笑って頷かれました。


「アルマに声を掛けて来る。お前達は待っていなさい」


「分かりました」


迎えが来たので出発しますが、今回母様はお留守番です。なので父様は挨拶をしに行かれました。私とハヴィスさんはこの場でそれを待つ事になりました。

それにしても、城の騎士なら私はこの方を知ってる筈なのに思い出せないです。とは言っても前回の私はエリオット様以外の雄龍はほぼ喧嘩を吹っ掛けてきたグレイル様以外関わりがなかったので記憶に留めてなくても仕方ありません。どちらかと言うとエリオット様に言い寄る雌龍ばかり記憶してます。負けじとエリオット様に言い寄っていましたからね。でも、これからはそう言った事も気を付けなければいけませんね。聖龍を目指し、エリオット様と友好を深めるなら、親しくするべきですから。


「城へ向かいますが、龍形態でいつもいらっしゃってますか?」


「はい。龍人では上手く気脈コントロールしても飛べませんから。それにしても、そのハヴィスさんの翼のある形態は初めて見かけましたが、龍騎士の間では主流なのですか?」


出発する上でハヴィスさんから移動方法を聞かれたので何時も龍形態でそのまま飛んで行っているのを伝えると、普通はやはりそうですね。と頷かれ、なら自分も形態を龍に致しますとおっしゃいました。


「ああ、この形態は私独自です。父は皆と同種族ですが、母が異国の龍なんです。なので母に似た私は龍形態時翼があるので龍人でも 翼があるのです。消すことも可能ですが、やはり空を飛行するには翼が気流を操る上で重要ですし、小回り出来るこちらの方が戦闘や伝達係りでは役に立つのです」


「とても努力されたのですね。私も負けられませんわ」


成る程、それなら納得いきます。完全な人形態に成れていながら一部を戻すやり方は、そうとう修練が必要でしょうと思い、そんな努力家な方を見ると、私も頑張らなければと奮い起たされます。


「…余り驚かれてないようですが、私の事は父から?」


「いいえ?初めて伺いました」


話しを聞いて思い出しました。彼は混血龍で、確か前回エリオット様の側近だった方です。それと彼は、前回私を捕らえて、義賊へ突き出した密偵です。私が成龍した半期後に起こったので、エリオット様の側近になっていない今は違う気もします。

何より私の質問に優しく丁寧に答えて下さったハヴィスさんは、とてもそんな風に見えません。ですが、やはり注意は必要ですね。


「その、驚かれないからてっきりご存知かと思ったのですが、違いましたか」


言いにくそうなハヴィスさん。話しながら龍へと姿を変えられたハヴィスさんはウェルスさんと同じ黒龍で、ですがその姿は胴体が太く、翼がありました。間違いなく異国龍の姿です。隣に父様が龍の姿で並んだらさぞ綺麗でしょう。白と黒の龍は対称的な色を持つからこそ互いの姿が映えます。父様はまだ戻りませんのであくまで想像ですが。


「確かに珍しいですが、異国では普通にいる種族ですし、此方では珍しいだけで特別ではないのでは?」


空で暮らす白龍からしたら、何でも珍しいので、これから旅をしようと思ってる私からしたら、驚く事しかないので別段気にしてませんでした。


「オルビス様もですが、やはりルナマリア様も特別にお心か広いのですね」


嬉しそうに微笑むハヴィスさんは、前回とは全くの別龍に見えました。私が心を改めたせいもあるのでしょうが、エリオット様の側近の時にこんな風に笑ってるのは見たことがありません。


「そんな事ありませんよ。私は以前狭量でした。でも、きっかけがあり、今回聖龍修行をきちんとしてこうなれたのです。ですから、特別なのではありません」


「そうなのですか?では、私はオルビス様や今のルナマリア様の様な方にお会い出来て幸運です」


「っありがとうございます」


本当に嬉しそうに笑うハヴィスさんに、今回は特にお世辞で舞い上がらない様になっていたとは言え、ここまでの表情を付けて言われれば素直に受け取るしかなくて、何だかむず痒いです。ついつい照れてしまいます。


「それにしても、龍人形態でも空を飛べたら便利ですね!翼が気流の操りをしているのでしょうか?なら、それを気脈を利用して作れば飛べるきがします」


何とかこの流れから脱しようと私は龍人形態で空を飛ぶのに役立つヒントを得たのでそちらへ話しを逸らしました。


「確かにそれは有効かもしれないですが、一朝一夕で出来ることではないと思います」


「大丈夫です。父が来るまでの挑戦ですから」


そう言うと、私は気脈を背中へ収束させて体外へと放出します。けれどそれでは直ぐに力尽きてしまうので一定の量が出たのを感じると、それを今度は逃げない様に留めます。後は気脈の形を気流を受け流しやすい翼へと変えるだけ。

うん。良い感じです。

何となく形が出来上がったのを感じ、どうやら成功しました。姿見がないのでわかりませんが、確かに翼は出来たようです。


「…驚きました。気脈に実体を持たせるなんて素晴らしい技術です。相当な修練か、素質がなければ出来ませんよ」


凄く感動した様に言葉を漏らすハヴィスさんに、私は努力が認められたようで嬉しくなって微笑む。


「気脈の修行なら毎日欠かさずしておりますし、近々旅をする予定でしたから完璧な龍人形態を保てる程には自信がありました。確かにこれでしたら龍人形態でも不備なく飛行できますね」


もともと気脈を利用すれば龍人形態でも浮く事は出来たのです。問題は移動時の方向転換や速度でした。なので翼を動かして実際に試しに飛行して見ると、龍の時と変わらない位にスムーズに移動できます。私は他に空中で円を描く様に一周し、体を横反転しクルクルと回り、前を向きながら後ろへ飛び、最後に四肢を体の内側へ曲げて前回転しながら着地の瞬間足を戻してすとんと軽く降り立ちました。


パチパチパチ


「お見事です。初めてにしてそこまで動けるとはお見逸れしました。聖龍様でなければ是非騎士として引き入れしたい所です」


私の行動を静かに見ていたハヴィスさんは、私が降りて来た時に再度龍人になり、拍手を下さった。少々浮かれてやり過ぎてしまいました。それを咎めずに、私の子供見たいな行動に呆れも、お怒りになるでもなく、世辞をおっしゃって下さるとは……流石王家に仕える騎士様です。


「浮かれているお恥ずかしい所を見せて失礼しました」


笑顔のハヴィスさんに気恥ずかしくなってしまい、私は耐えられず謝っていました。


「いえいえ、これは素晴らしい技術ですよ」


「あ、ありがとうございます!」


私の謝罪に、ハヴィスさんはこれは本当に誉めているのだとおっしゃいました。その直球さに、私は照れてしまって頬に熱が集まるのを感じつつ、ハヴィスさんの言葉が本当だと分かったので、素直にお礼を言いました。世辞じゃない等と普通は言わないけれど、ハヴィスさんは頼れるお兄さんの雰囲気がして不思議とその言葉が信じられました。このような方を私は前回一体どう無視をしていたのか不思議です。


「なるほど。エリオット様が言っている意味が漸く理解できました。確かに来ました」


「えっ、何でしょう?」


ハヴィスさんが何かをおっしゃったのですが、上手く聞き取れませんでした。


「いえ、何でもありません。それよりオルビス様が戻って参りましたので、出発をいたしましょう」


聞き返したのですが、どうやら重要な事でもないのか聞かれたくなかった言葉なのかはわかりませんが、はぐらかされてしまいましたので、私は特にもう一度聞くことはしない方が良いのだと思い、そうですかとだけ返しました。


「父様、見て下さい。私もこの姿で空を飛べる様になりました。これで地上へ向かってもいいですか?」


それよりも、戻って来た父様に、私は龍人形態での翼を父様に見せてふわりと少しだけ浮いて見せました。すると、父様は驚いた様子で私を見て来ました。


「ルナ!まさか聖龍になったら、近衛騎士にでも入るつもりなのか!?」


どうしてそう言う発想になったのでしょう?いくら父様に戦闘技術を教えられたとは言え、護身術程度の戦闘しか出来ない私と、戦闘訓練をしっかり積んでいる騎士の方と同じ様になれる程、自惚れてはおりません。


「そんなこと思ってませんよ?ただ、便利そうだったので、ハヴィスさんに教えて頂いただけです。龍形態と違い、手足の自由も、小回りも利くので思った以上に優れものですよ」


「そ、そうか。なら良い。これ以上レオナルドに気に入られる要素を作らなくとも、ルナをいずれ連れてかれるのだから、頼むから予想以上に早く優秀にはならないでくれ」


途中から声が小さくて聞き取れませんでしたが、どうやら落ち着いてくれたので、ほっとしました。


「では、出発いたしましょう。その前に、ルナマリア様、その形態で行くのは構いませんが、飛行するならその服装は寒いので、私のコートを着用して下さい。体調を崩されないようお気をつけ下さい」


「お気遣いありがとうございます。ですが、ご心配せずとも平気ですよ?白龍は空に棲むだけあって、寒さには強いのです。それに、気脈コントロールで体表に空気膜を纏えば飛行中の風も直接触れませんから、問題ないです」


私の今の格好は膝上キュロットの下にレギンスとヒールのないブーツを履いていて、上半身はブラウスとその上にベスト。最後に天空の島にある樹皮の繊維と白龍の尾から作ったローブは樹皮に保温性があり、白龍の尾には気脈回復の加護があるのでこれだけでかなり暖かいのです。城へ向かったその後で旅に出る予定なので、確かに城へは不向きかもしれないですが、着いたら母様に持たされたドレスに着替える予定ですし、以前も同じような感じでしたから問題ないはずです。ウェルスさんにも問題ないと言われてます。


「そうのようですね。ですが、見ていて寒そうなので、どうかお受け取り下さい。城へ着いた際に、エリオット様に叱られてしまいます」


ハヴィスさんは納得してくれたものの、そしたらエリオット様の名前を出して私へコート着用を促して来ました。流石にそれを言われてしまっては断れず、差し出されたコートを羽織りました。流石に成龍されてる方のだけあって大きくて腕の所は余ってしまいました。


「これではハヴィスさんが寒いのではないですか?」


ふとハヴィスさんを見れば騎士の制服だけです。流石に寒いと思うので、それを指摘すれば、ハヴィスさんは笑って首を振りました。


「鍛えてますから平気です」


そう言う訳には参りません。癒しをする聖龍が風邪をひかせては意味ないです。私は聖術の一つ保温(ウォーム)をハヴィスさんに掛けた。


「!」


体感で暖かいと直ぐに分かるのでハヴィスさんは驚いた顔をされた。


「これなら気脈による風避け程優れてはないですが、コート着用と同じ位の効果はある筈です」


にこりと笑みを浮かべてハヴィスさんに言えば、困った顔をされた。


「これでは私の立場がないですね」


「体調を崩させる方が私の立場がないのでこれはおあいこです」


おっしゃる意味は分かるので、私は笑ってその抗議を受け付けませんでした。ハヴィスさんもその意図が分かったので大人しく頷いて下さいました。


「お互い納得した所でそろそろ本当に出発するか。今の時期の天空の島の位置は城から一番離れた所だから、いくら急いでも1日はかかるからな」


漸く私達の話しも区切り良くなったので、父様がそれを見計らったように声を掛けてきました。それにはいと返事して父様を見ると、父様も龍人の形態でした。けれど翼はありません。


「父様も龍人の形態で行かれるのですか?」


不思議に思って問えば、父様はにやりと笑って頷きました。ハヴィスさんも驚いた顔をされてます。


「お前達、これでも俺は龍騎士隊長だぞ?それに、白龍の長なんだから、空に対してはそんな子供騙しを使わずに自在に飛べる。ルナ、お前は聖龍としては立派だが、白龍としてはまだまだ修行が足りないな」


と自信満々に返されました。確かに白龍の属性なら行けるのでしょうけど、私はそれをまだ出来ません。父様の言う通りなので私はもっと頑張らないとと決心しました。


「流石父上が認める方。規格外だ」


ハヴィスさんは父様の言葉に関心している様子でした。

そんな様子でのんびりと出発し、途中で休憩を挟みはしましたが、特に何の障害もなく龍の巣と言われる森の中へと到着しました。


「お久し振りです。ルナマリア様」


城門を通されて直ぐに会ったのは成長したグレイル様でした。1の年前に会った時は目線が同じ位でしたが、どうやらグレイル様の方が体長が大きくなったみたいで、見上げる高さでした。騎士訓練でもしていたのか装飾の少ない簡素なズボンに戦闘用ブーツに上はジャケットを着ていました。


「お久し振りですね。殿下」


「今さら敬称で呼ばなくとも良い。殿下は二人いるわけだし。以前の様に名前を呼んでくれ」


そう言って苦笑されるグレイル様は、文句なしにかっこよく、強い雄であると実感しました。これは他の雌龍が放っておきませんね。それに、前回の様に刺々しい雰囲気がなく、笑顔です。それもこれも前回は私が嫌われていたのが原因ですから仕方ないです。


「殿下は私にお怒りはないのですか?何度も訪ねて下さっていたのに、一方的にお会いするのを避けていたのですよ?」


この1の年が経つ間に、一体どれ程グレイル様やアピンス様が訪問して下さっていたかは母様や父様に聞いていました。会おうと思えば会うことは許された筈なのを無視したのは私です。なので、いくら何でも怒っていらっしゃると思っていましたが、1の年前と同じように接してくださろうとするグレイル様に、思わず聞いてしまいました。


「聖龍修行に精神統一は重要だとアルマ様には聞いていました。それでルナマリア様は家族以外はどの者にも会ってないのが分かっていましたから、咎めるなんて出来ないですよ。何度も通わせて頂いたのは、貴女の様子をオルビス様やアルマ様に直接お訊きしたかったからです。元気なのか、落ち込んでいるのか、それとも僕達のことなどもうどうでも良いと思われているかを知るためにね」


グレイル様の言葉に私は慌てて弁解します。


「どうでも良いとはこの1の年の間これっぽっちも思ったことなどありません!」


「知っている。でなければ態々出迎えない。だから、前の様に名前を呼んでくれ。僕達は友なのだろう?」


私の言葉に嬉しそうに笑ったグレイル様に、私は必死に頷きました。そんな心配をされていたなら、一度位顔を出せば良かったと後悔しました。


「ルナ、グレイル様はお前を咎めた事は一度だってないぞ。だから、笑いなさい。聖龍は笑顔が基本だとアルマが言っていただろう」


隣で私達の会話を見ていた父様が、私に言い聞かせてきました。それに対して私は素直に頷いた。


「はい。これからも良い友としてお願いします」


「宜しく。長い付き合いになるから、困ったことがあったら言ってくれ。アピンスも心配していた。後で挨拶に行ってくれ」


笑って握手を交わした私達は、グレイル様とハヴィスさんは陛下に私達の到着を報告をするからとここで別れて案内係りの侍女の緑龍のポプリさんに部屋へと案内して頂いた。侍女と言っても、年は私の一つ上で、その龍人形態になった容姿はとても美しく、前回の時に憧れた覚えがあります。それ故に、嫉妬してしまって我が儘をこの方にはしてばかりいたので、今回は敬意を持って接したいと思います。


「あの、部屋に着いたら、アピンス様へご挨拶へ伺いたいのですが、案内して頂けないでしょうか?」


本来なら陛下や招待して下さったエリオット様へと謁見するのが先ですが、どうやら執務が丁度忙しいそうなので、後にするようにグレイル様がおっしゃっていました。

なので、先にアピンス様に挨拶をと思いました。


「ええ、問題ありません。アピンス様なら只今のお時間なら湖にて休憩中でしょうから」


「ありがとうございます」


微笑むポプリさんは、本当に美少女です。この年でやや鱗が残る位ですが、龍人の姿を長時間保てているので、優秀なのが伝わります。これは流石城にいる侍女だと思わされます。

そして、彼女は前回何度私が嫌がらせをしても健気に命令を受けて下さっていた、芯のしっかりした方でした。修行中前回の私の行動を思い返していましたが、本当に酷い事ばかりしていたと反省と後悔をしていたので、実際前回の私の行動がなかった事になってしまっていますが、その償いとして、今回は彼女達には精一杯の労りをするように致しましょう。


「ルナ姉様!お久しぶりです!!」


湖に着くと、直ぐにアピンス様を見つけました。私へ向けて嬉しそうに飛んで来る姿が相変わらず可愛らしい反応で、内心悶えながらアピンス様と同じ目線になるように龍形態になります。すると、アピンス様は急に止まりました。


「アピンス様?」


「…っ、ルナ姉様、すごくきらきらで、何て言うか、キレイです」


「そんな、アピンス様の方が、つやつやのキラキラですよ?お美しいです」


どうやら久しぶりに会ったお蔭か、私の龍形態を忘れてしまっていたのでしょう。大仰に褒めて下さったアピンス様に、恥ずかしくなってつい、お礼を言いそびれてしまいます。


「ルナ姉様は、謙虚すぎます」


ふくれるアピンス様も可愛らしいなと思い、それを口に出して言えば、動揺されて尾をふりふりされて否定されました。もう、その姿、何度でも思ってしまいます愛らし過ぎです。


「私はお母様から言わせれば、まだまだなのだそうです。それに、聖龍として、私は修行を完了させていないので、正式に聖龍は名乗れませんし、実際私はまだ学び足りていません」


アピンス様に認められているのが凄く嬉しいのですが、過去の私がそれを受け入れるのを止めます。今の所前回より順調なのは、わかっているのですが、どうしても甘く、優しい言葉を掛けられてしまうと、逆にまだまだ出来る事があるのだと考えさせられます。もっとずっと、皆様に、認めて貰える努力をして、それで漸く私は、エリオット様に見ていただけるのだと。


「ルナ姉様、私、難しい事はよくわかりませんが、ルナ姉様のそう言った所を認めて下さる方はいらっしゃいます。ですから、その、そういった方には頼って下さい。出来れば、早い内に」


何やらアピンス様が困った様に私へ懇願されました。急にどうされたのでしょう?

ああ、きっと私からグレイル様と言う婚約者を奪ってしまった事を申し訳なく思われているからでしょう。アピンス様には、グレイル様の様に献身的に支えて下さる方が必要でした。ですが私には、グレイル様ではなく、もっと、焦がれる方がいるので、気にして欲しくないのです。


「アピンス様、ありがとうございます。私も、生涯を共にしたいと思う方には是非そうさせていただきます。先ずはその方に見初めて貰える様に私は頑張らせて頂きますね」


「!ルナ姉様、もしかして、既に心に決めた方がいらっしゃるのですか!?」


私のこの言葉に、アピンス様はもの凄い勢いで反応されました。ええ、つい今の言葉を言うにあたり思い描いたのはエリオット様です。ですが、今の私にはエリオット様に見初めて欲しいと訴えるのは厚かましいのです。ですから、この事はまだ胸にしまっておかなければいけません。それでもじっと私を純粋な瞳で見つめてくるアピンス様を見ると、アピンス様だけには言うべきなのだと思います。散々アピンス様については首を突っ込んでいたのです。私だけ話さないのは、不公平ですからね。私は少し目を閉じて覚悟を決めると声にしました。


「厚かましくもお慕いしている方がおります。ですが、それはグレイル様ではありませんから、アピンス様は遠慮なく、グレイル様との婚姻を望まれて下さい」


「どなたですか!?」


その瞬間アピンス様は物凄い勢いで食い気味に質問してこられました。

困りました。今はまだ流石に名前を言えません。


「ダメですよ、アピンス様。いくら正式な発表がないにせよ、私とグレイル様の婚約話が流れたわけではないのです。これを口にしてしまえば、グレイル様は勿論陛下への迷惑にもなってしまいますから。この事はアピンス様、グレイル様を望まれる貴女だからお教えしたのですから、内に秘めておいて下さい。申し訳ありません。何より彼の方を私が困らせて、今より嫌われたくないのです」


「ル、ルナ姉様…」


陛下との約束では他に好きな相手が出来たらこの許嫁の話しは無しとして良いと言う事により、実は正しくは名前を言えないのではないのですが、だからこそ言いたくないのです。

私は、幼い頃より好きだと言うこの気持ちを知って欲しいのはエリオット様だけで十分なのです。

あの約束をして下さった陛下の子を思う気持ちを疑うのも変ですが、前回の事がある以上、陛下に私の気持ちが知られて、利用する事をお考えになり、強制的な婚姻では、エリオット様を夫に出来ても、心は手に入らない。

エリオット様には前回の様に冷めた眼で見られたくないです。ここで、聖龍である私が望んだことでエリオット様の望まない婚約の契約で縛る。それでは前回と変わらないのです。こんな事、アピンス様に教える訳にはまいりませんので、嘘を吐かせて頂きます。

だからと言って、私を慕ってくれているアピンス様の前で落ち込んで困らせるなんて、最低ですよね。


「ルナマリア様」


どうしようかと逡巡していたら、私を呼ぶ声に、現実へ戻されました。


「アピンス様、お話し中失礼いたします。ルナマリア様を陛下がお呼びですので、お借りいたします。ルナマリア様、お越し頂けますか?」


声を掛けてきたのはハヴィスさんでした。てっきり騎士訓練に戻られたかと思ったのですが、そのまま陛下の伝言を伝えに来て下さったみたいでした。

アピンス様を困らせてしまっていたので、流れを変える為にアピンス様より先に返答させて頂きます。


「ハヴィスさん!はい。陛下を待たせる訳には参りませんから。父は一緒ですか?」


「迎えに別の者が行っています」


「ありがとうございます。アピンス様、申し訳ありませんんが、ここで失礼いたします」


「あっ、待って下さいルナ姉様。その龍はハヴィスですか?」


反応が無いようで、まだ私の言葉を考えてしまってるのかと思っていたら、違いました。どうやら見ない龍にアピンス様の他見知りが出てしまい、慌てている様です。ですが、ハヴィスさんの名前は知っているので、説明すれば大丈夫ですね。


「そうです。龍騎士をされているハヴィスさんで間違いありませんよ。天空の島まで私達を迎えにいらっしゃったので、間違いありませんから、警戒しなくて大丈夫です」


「ルナ姉様、ハヴィスは、普段龍人形態しかとらないんです。だから、私も見たのは初めてで…まさか、異国龍だったからなんですね」


そう言えば、異国龍は私達の種と違い、気性が荒い種と言われているので、アピンス様はそれで警戒された様でした。ですが、異国龍のそれはまだ若い龍だけで、年を重ねた龍は理性により落ち着きを持っているので問題ないのです。これは異国の龍の住処と安全性が私達より格段に危険だからです。ハヴィスさんは混血で、昔から訓練をされているうえ、その気性は私達に寄るので全く問題なく、陛下も龍騎士にしているのですが、そうも行かないのが他の龍ですね。恐らく遠巻きに接せられるのが殆どだったでしょう。


「驚かせてしまい、申し訳ありません。殿下よりルナマリア様に合わせるよう仰せつかっていたので、龍形態をとられていたルナマリア様へ声をかけるのでこの形態になりましたが、アピンス様がご不快になる事に至りませんでした。直ぐに龍人へとなります」


ハヴィスさんが気にされてしまいました。これは、放置出来ません。アピンス様の他見知りもですが、ハヴィスさんの劣等感と言うのでしょうか?分かりづらいですが落ち込まれたこの様子も改善させなければ、きっと前回と同じく義賊に成り兼ねません!


「ハヴィスさん、少しそのままお待ちになって下さい。アピンス様、警戒心も必要ですが、むやみやたらに引いては御自身は守れますが、視野が狭まります。良い機会ですから、交流しておきましょう?」


私は龍人形態になると、まだ龍形態のまま待機していたハヴィスさんに声を掛けます。


「ハヴィスさん、その形態のまま私と目線を一緒になるようにして頂けますか?」


すると、ハヴィスさんの気配は困った様に、グルル、と唸りをされました。


「ひっ…」


その唸りにアピンス様が僅かに怯えてしまいました。でも、逃げないので、以前に比べれば改善されている様で安心します。昔は天空の島へ来た際に出迎えた父様に会うのさえグレイル様の後ろからしか対面出来ませんでしたからね。


「どういった意図がおありか図りかねますがこれで宜しいですか?」


どうやら思案は終わった様で、ハヴィスさんはその大きな巨体を倒して頭を完全に地へ着けて下さいました。お陰で見上げていた首が楽になりました。


「はい。十分以上です。お陰でアピンス様の警戒は和らいだみたいです」


「は?」


にこりと笑ってアピンス様へと私は向き、ハヴィスさんもそのまま首だけをアピンス様へと動かされました。

見た先にいたアピンス様は先程までの怯えた様子はなく、ぽかんとしたまま動きが止まってました。それはそうです。気性の荒いと言われる龍が、頭を下げる行為なんてするとは思わないでしょう。けれど、ハヴィスさんは龍騎士で、王に使えるべく訓練された龍です。そんな彼が荒ぶる筈がないのです。でもまさか王族ではない私に頭を無防備に晒すものですから、内心驚きました。てっきり私を手に乗せて同じにすると思ってたのですから。これは、随分気を許されてるのか、私に何かされても対処可能だと自信があるのか等と考えられますが、この際気にしません。実際私はどうこうするつもりはありませんし、ハヴィスさんに敵うとも思えませんから。


「アピンス様、ハヴィスさんは恐くありませんでしょう?寧ろ、王族を護られる頼れる騎士様です。全ての同族を信用しろとは言いません。ですが、ハヴィスさんは陛下や殿下、私の父も信頼される龍騎士様。私自身ハヴィスさんと接して信用出来ると感じました。ですから、ハヴィスさんが異国龍の血を持つと言うだけで遠巻きにせず、先ずは接してそれからお考え下さい」


「はいっ、ルナ姉様!ハヴィス、すみませんでした。私、本の知識だけで、偏った見方をしてしまいました。これからは貴方自身を見て、話していきたいです。許してくれる?」


こてりと首を傾げながら不安気に言うアピンス様、可愛らしいこんな純粋な目で見られながら謝られたら、怒るなんて出来ません!

一方謝られたハヴィスさんは上体を起こして慌てて返答していた。


「大丈夫ですから。その、普通にして頂けるだけで私は十分です」


その言葉に、やはりハヴィスさんは普段からああ言った態度をとられる事は多いのだと分かります。これはもう、ハヴィスさんの道を踏み外させない事も今後の目標に入れなければいけませんね。


「あっ、ルナ姉様、そう言えば、おじ様から呼び出されてましたよね」


今後の課題が増えたので、気合いを入れなければと思っていたら、アピンス様から指摘を受けました。ああ、そうです。陛下を待たせてしまってます!急いで向かわないと、お父様の説教が追加されてしまいます。


「それでは、アピンス様、またお時間ある時にお話しさせて下さい。失礼しますね」


私は外す事をアピンス様に告げると、龍形態になって城内へ向かいます。

ハヴィスさんはそんな私を先導しようと前を飛行してくれます。城内に入るとハヴィスさんは龍人形態になりましたので、私も同じ様に龍人形態になりました。狭い所は確かにこの方が安全です。


「ルナマリア様、ありがとうございました」


城内を歩行しながら前を歩くハヴィスさんから、お礼を言われました。


「アピンス様の事でしたら、私も気にしていましたから、お礼を言われる程の事ではありませんよ?」


「ですが、それは同時に私の困っていたアピンス様の問題も解いて下さったのです」


アピンス様の為にした事で、エリオット様達以外のハヴィスさんに感謝されて少し戸惑います。

それと、少しずつ前回の記憶から、ハヴィスさんの事について考えていたのですが、先程漸く思い出し、何とも言い難い気持ちです。


「ハヴィスさん、誤解を解かれたい方がいらっしゃるのなら、これからは私で宜しければご助力させて頂けませんか?ただ私は、他の方々の誤解は、ハヴィスさんが信頼される方のみ伝われば良いのだと思ってます。それは、龍騎士として王族に使えるのなら、貴方のその姿形は護りに適していらっしゃるわけですし、ハヴィスさんと直接接してそれでもその血が異国龍だと知った途端に差別する様な輩はその程度の者なので、信頼できるとは思えませんし」


そう伝えると、ハヴィスさんは驚かれて、立ち止まりました。


「それは、そうかもしれませんね。今までその様に考えた事がありませんでした。ですが、何故助力を申し出て下さるのですか?」


見解の違いにどうやら驚かれたみたいです。ですが、これは前回のハヴィスさんを見ていて思いついた訳です。

前回の時、エリオット様に信頼されていたハヴィスさんは、勿論他種族との面会の際にも側近として着いていました。そんな中で、龍族と違い、龍形態がなく、神術を使うことを捨て、気脈を体術のみに特化させた人龍(じんりゅう)族との面会、彼等は異国龍を恐れていましたから、龍族に神術の恩恵を借りに来た礼儀を知らない無法者は、それだけで態度を改めてました。龍族は基本的に温厚なので、侮られる事もありましたが、ハヴィスさんの本性を知らない彼等には、護衛として持ってこいの素晴らしい龍材でした。

ただ、私はそんなエリオット様の信頼を持つハヴィスさんに激しく嫉妬してしまい、彼の唯一の願いを無下にしたのです。それは、決して許される物ではありません。ですから、責めて今回は、その罪滅ぼしとして、私に出来る事なら、助けて差し上げたいと思います。けれど、身に覚えのない私の謝罪を受けるのはハヴィスさんとて不本意でしょうから、ここは、良い友龍関係になりたいと伝えましょう。実際にハヴィスさんはとても優れた気脈使いですので、教わりたい事もありますし。


「それは、ハヴィスさんにはこれから親しくして頂きたいと思ったからですが、ご迷惑でしたらでしゃばる事は致しませんので、仰って下さい」


「そんな、迷惑だなどと、思う筈がありません。寧ろ、勿体ないお言葉です!」


私の言葉に慌てて否定されるハヴィスさんに、ホッとして、私は笑顔になります。


「ふふ、では、これから私達は友龍、と言う事でも宜しいですか?」


「はい!ルナマリア様が宜しいのでしたら、是非に」


これでハヴィスさんが起こす未来の事件を防げると私は安心しました。しかし、油断は禁物です。何かの拍子に事件を起こされては大変ですからね。良い友好関係を保ち危ない考えを持たない様にしなければなりません。

とは言え、私のしてしまった事が何より一番の引き金でしょう。ですが、実はあの時の私ではどうにか出来る事ではありませんでした。プライドの高い私は素直にそれを認められず、更に頼って来られた事に優越感があり、出し惜しみをして結果手を貸しませんでした。しかしながら、今回こそは聖龍修行もこなして来た私でしたら、あの時不可能だった事も成せますので、より高度で安心な技術提供を致しましょう。その為にも、やはり1の年分の旅修行は欠かせませんので、私は更にやる気を沸き上がらせました。

エリオット殿下不在…

次回こそ、出せる筈です。今回ほど開かないと思いますが、頑張ります。


以下忘れそうなのでただのメモです。

簡易年齢確認

龍は産まれた時で1の歳と数えてます。

右は人族としての見た目年齢です。

1の歳0~4歳

2の歳4~8歳

3の歳8~12歳

4の歳12~16歳

5の歳16~20歳

6の歳20~24歳

以降見た目的成長が止まります。

よん話現在…

ルナマリア:5の歳。

エリオット:6の歳。

グレイル:4の歳と半期。

アピンス:3の歳と半期。

ハヴィス:6の歳と半期。

正確さには欠けますがだいたいこんな感じですね。


最後までお読み頂きありがとうございました!

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