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さん話

遅くなってすみません。漸くちょっと余裕ができました。

これは、聖龍修行をしている私に対するご褒美ですか?


「こんにちは。ルナマリア様。聖龍修行は順調ですか?」


「ルナ姉様!今日は龍人なのですね!肌に残る鱗もその銀にも見える長い白髪もとっても綺麗で素敵です」


「大勢詰めかけてすみません。天空の島へ視察に行くと言ったら皆着いてきてしまって…」


上から順にグレイル様、アピンス様、エリオット様です。

グレイル様の3の生誕祝いから一月後の本日、前回では私から行かない限り会う事のなかった王家のご子息、ご息女の方が揃っていらっしゃいました。グレイル様とアピンス様は龍形態ですが、エリオット様は私と同じく龍人形態です。頬に多少鱗が残っておりますが、口元さえ隠してしまえば人と見間違える程です。成龍前なので、ここまで人に近い形態を取れるのは気脈の扱いに長けてる証拠なので、ここまで神核の力を抑え込めるなら、神術も相当な腕前でしょう。


「僕は許嫁だし、アピンスもルナマリア様に懐いているから仕方ない。兄上こそ、視察なら僕でも問題ないのに、着いてくるのは、どうしてですか?」


「仲の良いお前達だけでは心配なので、保護者としての付き添いです」


「私は皆でお出掛けできてうれしいです」


皆様大変兄弟仲が良いようです。これは前回には見られなかった光景です。今回私がエリオット様に関わらない方が上手く行っているのは悲しいですが、私とも友好を深めて下さるので感慨深いです。グレイル様がエリオット様と普通に話してますからね。


「私は皆様が来てくださって大変嬉しいです。グレイル様、聖龍修行は滞りなくできてますし、アピンス様こそ変わらず可愛らしいです。 エリオット様、ご弟妹の心配をされるのは素晴らしいです。いくら友好のある白龍でも他種族龍の土地へお二方で来させるのは心配ですよね」


そう最初の質問に答えると、お二方は笑ってくれました。でも、あれ、エリオット様だけは目を細めて私を見て来ます。まさか、何か既に失敗して、嫌われてしまったのでしょうか!?

このご同行も、もしや私がお二方に何かすると思われてます?つまり監視目的ですか?そう言えば、グレイル様の生誕祝いの日から、様子が変でしたし…


「ルナマリア様は、弟妹の事をどの様に思ってますか?」


いきなり核心をつかれました。流石エリオット様、実は私がお二方をくっつけようと企てているのを気付いていらっしゃるのでしょうか?でしたらこれは、エリオット様を味方につける好機です。


「それは…お二方の目の前で語るのは、恥ずかしいので、後でエリオット様にだけお答えいたします」


この計画を今皆さんのいる前で言える訳がありませんのでここは敢えて伏せます。仮にも許嫁なので、表立って仲を取り持つと宣言は出来ませんからね。


「それは、言えない位ひどいのですか?」


「そんな、ルナ姉様に嫌がられる程くっついてました?」


すると、お二方揃って落ち込ませてしまいました。これは、いけません!


「そんな事ないです!アピンス様はその円らな瞳と、水龍ならではの清々しい気配、何よりその純真なまでの無邪気さについ抱き締めたくてたまらない位好きです。グレイル様は、警戒心が強いのに、物怖じしない屈強な態度が怖く感じますが、アピンス様の事では話しが合いますし、火の神核を持った方は情が深い温かい方なので、父様と同じです。是非ともお友達になりたいです」


私の思う精一杯のお二方の印象を伝えると、固まってしまわれました。


「ルナ姉様、あの、その、龍の私でよろしければ抱き締めて下さい」


「ふはっ、許嫁なのに、友達に?確かにそっちの方が僕達の関係としてはしっくりする。良いよ」


それから数秒して復活され、アピンス様はもじもじとして私に抱き付いて来ました。鱗がツルスベで肌触りが最高です。流石アピンス様。

グレイル様は珍しく爆笑されて、確かに変な関係ですが、お友達認定して下さいました。口調もだいぶ崩してくれました。


エリオット様を見ると、驚かれた表情をされてました。これで私の計画はお二方に危害を加えるものではないと分かって下さったでしょうか?


「エリオット様?」


「恥ずかしいとおっしゃった意味は良く分かりました。貴女はどうやら変わってるようです」


余りの反応のなさに声をかけるとエリオット様は納得したように頷かれ、最後に微笑んでくれました?どうやらエリオット様の中で私は変な龍だと認識されてしまったみたいです。


「あの、私は変でしょうか?」


だからと言って、好きな方にどう思われてるかは気になるので聞いてしまいました。気味悪いと思われてるなら傷付きます。


「ああ、今のは気にしないで下さい。不快だったのではなく、好ましい、と言う意味ですから」


「!」


何と言う事でしょう。エリオット様に好感を持って頂けました。前回のエリオット様はお世辞でも決して言わなかったので、これは素直に嬉しいです。この嬉しさは、言葉にすべきですね。


「ありがとうございます。私もエリオット様の芯は硬いのに、柔軟に物事を捕らえ、考えを改められる所、大変好ましく思ってます」


お礼を言うと、私はそのお返しとして、エリオット様の大好きな所を一つ言わせて頂きます。


「っ、そう、ですか」


それに対してエリオット様は、何故か目を背かれます。今度こそ不快にさせてしまったのでしょう。そう思って謝罪の言葉を口にしようとすると、アピンス様から笑い声が漏れます。


「ルナ姉様は、本当に口説くのが上手です」


別に口説いている訳ではないですが、エリオット様達にはそう見えてしまったのでしょうか?でしたら仮にもグレイル様の許嫁である私がエリオット様にそんな事をすれば、それは不敬となりそうです。

私はそう考えると、先ずは否定する事にします。


「私はグレイル様の許嫁ですので、お兄様とお慕いする気持ちからの言葉ですから、口説きたかったわけではないですよ?」


「ルナマリア様は天然でいらっしゃるようなので、兄上を誑かすと言う器用な事出来るとは思ってませんよ」


「そうなんですか?……お似合いですのに」


すると、グレイル様はわかっていると面白そうに笑われ、アピンス様は私の言葉にがっかりされた様に私に抱きついていた姿勢からしおしおと離れてしまいました。最後に何か小さく言われた内容は聞き取れませんでしたが、何かアピンス様を落ち込ませてしまう事を私が言ってしまったようです。ああ、どうしましょう。


「アピンス、そう落ち込むな。僕に出来る事なら協力するよ」


するとグレイル様が、落ち込むアピンス様に言葉を掛けてらっしゃいます。流石です。


「ルナマリア様、その、グレイルのアピンスへの態度は昔からだから、気にしないで下さい」


お二方のやり取りを見ていたら、エリオット様からグレイル様の態度に対するフォローを入れられました。


「ええ、とても思いやっていて素敵ですよね」


私もエリオット様とあんな関係を目指したのに、叶わなかった前回に、感傷的になってしまいます。


「……ルナマリア様、少しお話が」


するとそんな私を見ていたエリオット様が、私に話しかけて来て下さいました。


「でしたら、応接室へ参りましょう。グレイル様、アピンス様、応接室へご案内いたしますが、お二方はこの周囲を散策されますか?」


「そうですね。この島に来たのは初めてなので、暫く散策させて頂きます」


グレイル様は私達を見た後納得した様に頷いて、アピンス様を連れて散策される事にされました。アピンス様も元気が戻ったみたいで力強く頷かれました。


「では、一刻程しましたら迎えにあがります」


そうお二方に伝えると、エリオット様を伴って私の家へと向かいました。


「ルナマリア様は、あの二頭の仲を見て、冷静でいるようでしたが、いいのですか?」


応接室へ着いてそうそう、エリオット様は私にそう聞いてきました。つまりは私がグレイル様の許嫁だからと言うのでしょう。

確かに普通決まった相手を作っているのにも関わらず別の方と仲良くするのは、不実ですが、今回アピンス様は従妹ですし、おかしな事はありません。

それに、グレイル様の気持ちを私は知っています。なので、私は自分の思いをエリオット様にお伝え致します。グレイル様とは口頭とはいえ許嫁ではなく友達になったので、問題ありません。


「皆様との付き合いは浅いですが、私からしたらグレイル様はアピンス様に対して特別な想いがあるのは見て取れます。それに、アピンス様自身はまだ気付いていらっしゃらないですが、グレイル様への気持ちは大切な方を想う気持ちだと分かります。ですから、私はお二方が幸せになるなら応援も協力もさせて頂こうと思っているのです。もちろん、エリオット様がアピンス様を妹の様に思っていらっしゃるから出来るのですが、駄目ですか?」


エリオット様にも協力を仰ごうと思っての語りかけでしたが、如何でしょう。これでエリオット様がアピンス様とグレイル様をくっつけるつもりがなければここで終わりです。後はお二方が自覚されるまで待って、婚姻だけは先伸ばしにするしか出来ません。


「ルナマリア様は、本当にあの二頭が大事なんですね」


優しい口調でそう言ったエリオット様に、私はエリオット様こそ弟妹なのだから、私以上に大切な方達なのでしょうと感じます。


「はい。もちろんエリオット様もですから、もし大切な方が出来たなら、私でよろしければ協力は惜しみませんので、おっしゃって下さい」


本当はエリオット様が大好きな私としては心が痛いですけど、私の身勝手なわがままで前回王家の皆様に迷惑をかけていたので、私としては今回その罪滅ぼしをさせて頂きたいと思っております。

そして、このエリオット様への想いは、立派な聖龍になり、グレイル様との婚約を回避出来たら告げようと思います。例え届かない想いだと分かっていても、黙っていては私の前回の後悔が消化されないからです。何の為に時間を戻ったのか、それは、このエリオット様に対する想いを素直に伝えることが出来なかったのを伝える為だと私は考えているのですから。


「わかった。君がそこまで言うのなら、私は見守る事にしよう。協力するには難しい問題だしな。だが、君が苦しくなったら頼ってくれ。その時は協力をしよう」


私の熱意が伝わったのか、エリオット様をどうやら味方につけることが出来ました。ただ、私がする事に対して黙認して下さるというだけですが、十分です。

あのお二方をくっつけるなんて、そんなに難しい事ではなさそうですからね。


「ありがとうございます」


それから私達は協力関係になり、時々報告として手紙のやり取りをする様になりました。


***


あれから1の歳が過ぎ、アピンス様は3の歳になられましたが、今だに婚約の発表はされていません。アピンス様の3の歳生誕祝いに参加した時に、約束通りに発表されるかと身構えておりましたが、それが何故かしませんでした。どうやらエリオット様が延期を申し立てて下さったみたいです。エリオット様へ、先日手紙で未だに自覚していないアピンス様もそうですが、グレイル様の消極的な感じに、私はもういっそこのまま婚約発表して、アピンス様の前でグレイル様とイチャイチャして嫉妬させて見せるのはどうでしょうと提案したら、もの凄く反対される文を何枚にも綴って返信されたので間違いないでしょう。

もしかしてエリオット様は、最近見るからに可愛くなられるアピンス様を女性として意識してしまったのではないかと不安になりましたが、でしたら婚約発表を全て延期にしたりしませんから違うとは分かります。なので、私はその答えを導き出すのに、そう時間はかかりませんでした。なぜならエリオット様は最近直接お会いすると、一線引かれた態度を取られるし、グレイル様やアピンス様と親しくしていれば、何処か不機嫌な気配を取られるので、もしかしなくとも私、完全に嫌われてしまったのです。グレイル様の許嫁や、アピンス様の親しい姉龍としても、側にいてはいけないという意思表示ですね。


ああ、今回こそ上手く行っていると思っていただけに、この最近のエリオット様の態度には私は怯えるしかないです。何時お前など二度と顔を見せるなと言われるかと思うと怖くて仕方ありません。

それでも、手紙とアピンス様達に関わるのを止めないのは、やはりエリオット様が好きだから、どんなふうにでも関わりを持っていたいと言う私の前回から変わっていない性質の問題です。

なので、本日もアピンス様の天空の島への訪問を私は快く出迎えます。


「ルナ姉様、私最近もやもやするのです」


アピンス様は珍しく鱗に何時もの艶がないので理由を問えば、上の返答をされました。もやもやとは、一体なんでしょう。


「アピンス様、それはどう言った時になるのですか?」


私は優しく答えを出せるように声をかけます。


「その、グレイル様が……」


グレイル様?そう言えば、最近アピンス様が以前のように懐いてくれなくなったと先日一頭でいらっしゃった時に悲観されてましたね。取り合えず何かアピンス様に酷い事をした自覚が無いそうなので、先ずは少し距離をとって今まで通りアピンス様へは優しく接して下さいと助言はしておきました。

それから半月程していますが、また何かあったのでしょうか?


「グレイル様がどうかされました?先日いらした際グレイル様はアピンス様の様子がおかしいと心配されてましたけれど、何かグレイル様にされました?」


あの真面目なグレイル様が、アピンス様に何かをするとは思えませんが、本人に自覚はなくともアピンス様からしたら嫌だと思う事をされた可能性もあるので、直接聞きます。お二方をくっ付けようとしていたのが、ここで互いにすれ違いを起こしては大変です。


「いえ、嫌な事をされた訳では……ああ、でも嫌だなとは思うのです。それは、グレイル様が、龍人形態を良くとる様になってからなのですが、回りに女の方が良くいるようになって、それで、グレイル様が私に笑いかけるように皆様とも話されるのが嫌なんです」


アピンス様の語った内容に、私は目を見開いて驚きます。

遂に自覚する上での最終段階に行き着いたようです。それは、つまり嫉妬です。


「アピンス様は、その女性方がお嫌いですか?」


「いいえ、いえ、世話係りの者もいるし、関わらない者もいるのですが、全員に嫌な感じをその時は持ってしまうので、嫌いとは違う気がします」


「なら、私がグレイル様とお話をしている時はどうでしょう?」


「えっ、それは、あの……嫌、です。グレイル様には、ルナ姉様より私を見て欲しいって思ってしまいます。ごめんなさい」


とても言い辛そうにアピンス様は私に聞こえるギリギリの声で答えました。その答えに私はふふ、と笑ってアピンス様の鱗を撫でます。


「それは嫉妬ですね。アピンス様は、グレイル様を独占したいと思っていませんか?」


私がそう言うと、アピンス様は目を真ん丸にして瞬きをされました。


「あの、はい。今まで、こんなこと無かったのに、グレイル様が私以外と親しくしているのを見ると、私に構って欲しいですし、グレイル様に言い寄っている龍がいると、グレイル様に抱きついて邪魔して、私のだと主張してしまいたくなります。でも、そんな事をしてグレイル様に嫌われたくなくて、以前の様に近づく事が出来なくなってしまいました」


皆そうなのだと私はその時はっきりと思いました。あの純真なアピンス様でさえ、恋には嫉妬を持ってしまうのだと。前回の私程ではないにしろ、アピンス様は今、相当嫉妬心に苦しんでいらっしゃる。


「その想いは、グレイル様に告げるべきです。グレイル様なら受け止めて下さいますから。それで、グレイル様がアピンス様を軽蔑なんて絶対にあり得ませんから」


そう私が言うと、アピンス様は酷く驚いて固まってしまいました。ですが、直ぐに復活されて、でも、と戸惑われているようです。なら、もう一押しです。


「アピンス様、私とグレイル様の許嫁の話ですが、それが婚姻の話になるのも時間の問題です。後半期でエリオット様が成龍されます。その1の歳後には私も成龍いたします。そうなったらいつでも婚姻ができます。本来なら婚約者としてグレイル様と私は発表される所を先伸ばしにしているのは一重にエリオット様がアピンス様やグレイル様が本当に好きな相手と婚姻して欲しいと願って陛下を抑えていて下さっているからです。アピンス様が、グレイル様との生涯を共にと望むなら、私から奪わないといけません。それをされないなら、近い内に婚約いたします。そうすると、今までの様に例え従妹と言えど、簡単にお二方だけでお会いするのは出来なくなりますが良いのですか?」


「嫌です!グレイル様には、側にいて欲しいです!」


私の問いかけに、アピンス様は即答されました。その目にはもう、怯えはありません。強い決心を持った目でした。


「はい。では、グレイル様へとお気持ちを伝えて見て下さい。それでグレイル様が応えたなら、私は身を引きますからね」


「うう、ルナ姉様、ごめんなさい」


私の言葉に、アピンス様は涙目で謝罪の言葉を言われました。いくら発破をかける為とは言え少し苛め過ぎたでしょうか。ちょっと罪悪感が沸きます。


「気にしないで。グレイル様とは許嫁と言うよりお友達としか見ていませんでしたから、それに、お二方が幸せになるなら、私も嬉しいですから。頑張って下さいね、アピンス様」


グレイル様は真面目だからエリオット様の許嫁のアピンス様に遠慮するだろうし、本来グレイル様にも私という許嫁がいるので決してアピンス様へ告白する甲斐性なんてないでしょう。ですので、ここはアピンス様に頑張って貰うしかありません。さて、エリオット様へ最後の手紙でも書きますか。お二方がくっついてしまいましたら、この手紙での報告のやり取りも終了です。寂しいですが、アピンス様もグレイル様も私を気にかけて下さる友達ですので、エリオット様に嫌われていたとしても今後は城には招待して下さるでしょうから、グレイル様との許嫁が破棄されたら、それを利用してエリオット様へアプローチするのも悪くない筈です。もっとも、嫌われてしまったようなので、先ずはそれを以前のようにとまではいかなくても、お話をして頂ける仲になれれば十分です。


それから半期して、父様が陛下に城へ招待されました。用件はエリオット様の成龍の祝いへの招待となってますが、グレイル様との許嫁の破棄も含まれているでしょう。私とエリオット様は手紙のやり取りをこれで手紙は最後ですと私が綴って以降してませんので正確な情報ではありませんが、恐らくそうでしょう。それと、ここ半期グレイル様やアピンス様との接触も絶ちました。何度か訪問をして下さっていたのは知っていましたが会いませんでした。グレイル様との許嫁破棄に関しては父様に了解して下さいと言伝てしてましたので、直接会わずに破棄も可能でしたのに、どうやらまだその話はされていないようでした。なぜ絶ったかと言えば、聖龍修行の佳境に入り、食事と睡眠以外は雷雲島と言う季節問わず積乱雲となっている空島に籠り精神と神核の鍛練をする修行方法に切り替わってしまったからです。

ここまで辿り着く聖龍は滅多にいないのだとか言われたけれど、その時の私には暫く怒らせてしまったエリオット様と距離を置ける丁度良い機会だったので、恐れずにそこへ向かいました。命の危険すらありますが、神核さえ上手くコントロール出来るなら、雷に撃たれても上手く受け流し、怪我する事もありません。慣れてしまえば、薄闇で時々光る程度の雷の明るさと雲しか見えないそこは精神統一には持ってこいの何もなさでした。


でも母様、これって普通に龍騎士がやる訓練に思えてくるのは何故でしょう。言われるがままやってきた私が初めて疑問に思った修行方法でした。後で聖龍に関する文献を是非見せて欲しいものです。


それはさておき、漸くその修行も終わったので、最後に地上へ降りて人族として龍だとバレない様に1の歳程旅をする事になります。ですので、一度その旅支度をする名目で天空の島の家に一月ほどいたのですが、その際に父様へと城への招待状を持って来られた陛下の側近だと言う黒龍と対面しました。


「ルナマリア様!お久し振りです。もうすぐ5の年になられると思いましたが、以前より更に鱗の輝きが増したようですね。聖龍のなせる事でしょうか?今回オルビスへの招待状しか渡せないと思いましたが、これは僥倖。エリオット様からルナマリア様への招待状です。お受け取り下さい」


そう仰って龍人形態になった黒龍を見てそれが漸くウェルスさんだと気付いた。黒髪だからそうだと分かる筈なのに、まるで気配が人のようだったウェルスさんに、龍の姿であってもピンとこないのは仕方ないです。確か、父様から聞いた話しでは龍騎士最強が父様ですが、近衛騎士最強はウェルスさんだとか。何でも父様とウェルスさんは騎士訓練時代はライバルだったらしいです。なのでこれ程親しげなのです。


「おい、ウェルス、娘に余計なことは言うなよ」


すると父様が珍しく敵でない方に向かって龍のまま威嚇しています。普段は他の龍人が訪ねてくれば龍人になるのに、余程信頼してるのでしょう。本当の姿と言うのは成龍すれば家族以外に見せることは自然と減るのですが、やはりこれは親しい仲だと言う事なのでしょう。


「オルビスの失敗談の事ならもうとっくにお話済みですから、ご安心を。それでも貴方は立派な父だと仰いましたよ?ルナマリア様は」


「!」


しれっと父様を弄る辺り、流石あの陛下の側近頭だと思いました。良い度胸です。父様もこの方には勝てない様子です。誰にでも勝てない相手とはいるのですね。父様の失敗談だって若気のいたりと言うもので、それがあって成長されたと言う内容だったりなので特に気になりませんでしたし。そんな父様を心では認めてるのに、こうして素直にならないウェルスさんは父様がお気に入りらしいので、こう言う関係も男の方ならありでしょうと私こそ余計なことは言いません。


「ところで、私への招待状は、なぜエリオット様が?」


そろそろ口論も止めなければと思った私はウェルスさんへと問いかけます。


「エリオット様は貴女の事を気にかけてましたからね。ぜひご自分で招待したいと思われたのでしょう」


優しそうに笑ってエリオット様について語るウェルスさんは、さながらエリオット様を息子のように思っていらっしゃるようです。

それと、エリオット様が私を気にして下さっている、と言うのは恐らく許嫁を破棄される私に対する優しさでしょう。エリオット様に協力をお願いしたのだから、私はこの事についてはこれっぽっちも悲しんではいませんのに。お優しい方です。

でも折角のお誘いですが、これから出発しなければならないので私はこれを断ります。エリオット様へとアタックするにはまだ自信がないので、聖龍になって自信を着けてから告白すると決めたのですから、それまで我慢です。


「申し訳ありませんが、私はこれから1の年分地上にて旅に出ます。それまで龍の巣には戻りません。ですから伝言のみのお祝いとさせて頂けますか?」


そう私が宣言すると、父様は眼を見開いて驚き、ウェルスさんも驚きを隠せない様子でした。


「ルナ、殿下の成龍祝いを断れるわけないだろう」


いち早く冷静さを取り戻した父様が私にそう諭します。やはりそう簡単にはいきませんか。


「ルナ、貴女が行きたくない理由は聞いています。ですが、聖龍修行を理由に断るのはいけませんよ?そんなふうに育てた覚えはありませんからね」


尚も直ぐに行くと言えないでいると、母様がいつの間にかいらっしゃって、ピシャリと行かないのを反対されてしまいました。そうなると、もう行かないとは言えません。私は遂に諦めて了承しました。


「ウェルスさん、困らせてしまい申し訳ありませんでした。エリオット様の招待お受けさせて頂きます」


「いえ、最終的に行くとおっしゃって頂けたので私は気にしてませんよ。殿下も喜びます。では、三日前には迎えに使者を寄越しますので七日後ですね。お待ちしております」


「えと、使者は必要ないですよ?約束を反故にする程嫌なわけではないですし、お手を煩わせずともしっかり伺います」


まさかの迎えを寄越すというと言うのは、そこまで私に信用が無いのでしょうか?しっかり行くと宣言して迎えは辞退いたします。すると、ウェルスさんは困った様に笑って首を振られました。


「貴女を疑っているわけではありませんよ。ただ、殿下の婚約者になられる方を丁重に扱うように陛下から言われているだけですから」


とおっしゃいました。えと、それはまだグレイル様との許嫁が破棄されていないからですね。失念してました。


「私はまだそんな器ではないですよ」


「謙遜を。仮にもオルビスと言う伝説の龍騎士とアルマ様の娘が王族の婚約者として相応しくないとは誰も思いません。ですから、これは先行投資と思って下さって構いません。貴女はそれだけの器になり得る方だと陛下が分かっているのです。仮にそれとならなくとも、我々がそれを見抜けなかった落ち度ですから、気に病む必要はありません」


流石、陛下の側近さまです。言うことがしっかり理に適っています。私はそれ以上の反論を言えませんでした。

そうしてウェルスさんは城へと帰りました。


「結局ルナはレオナルドに気に入られているから逃げられないわけだな。まぁ、王族なら安心か……」


父様は何だか納得されていましたが、私はそれが何を意味しているか何てこの時は全く気付いていませんでした。

お読み頂きありがとうございます。誤字脱字ありましたら、ご報告頂けると幸いです。

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