に話
思ったより更新遅くなってしまいすいません。
そしてキャラが安定しない回。
「ルナ姉様!今日は泉へ行きましょう!」
「素敵ですね。泉の周りには森とは違った花が咲くと聞いていたので是非お供いたします」
あれからアピンス様とは仲良くなり、むしろ懐かれた?毎日の様に私のもとへ寄って来るのでもう可愛くて仕方ありません。
今回の訪問はアピンス様との交友だったので、十分な収穫です。もう毎日愛でてしまいます。エリオット様や他の皆様が大事にされる理由が分かります。
初日にかなり警戒されてましたが、エリオット様お墨付きの『光花の雨』を見せて、それから鼻唄を唄うとアピンス様の警戒は和らいだ。龍のブレスには力が宿ってるそうで、音調や速さを変えれば様々な効果をもたらします。昔は母様がよく子守唄として使ってくれました。私はそれを最初は眠りから目覚めるような朝の小鳥を想像しながら唄い、次第に楽しくなる陽気なテンポに変えて外へ出たくて堪らないと言う感じに光花を回転させ雨から風の様な形へ変えて、アピンス様を外の明るい庭へと先導いたしました。庭へ到着しましたら今度は光花を盛大に拡散。雨よりも強いシャワーの状態に、アピンス様のお顔はキラキラと輝いていました。とても喜ばれたのを期に、私にも懐いて下さりとても嬉しい限りです。
「アピンス様は庭がとてもお好きなんですね」
「はいっ。ルナ姉様の鱗とキラキラが一番ステキに見えるから好き」
あれから毎日庭の散歩へと誘われて、既に四日目。余程庭が好きなのだと思いそう言葉にするとどうやら私の鱗が珍しいらしく、それにはしゃいでいたみたいです。そんなに純粋なアピンス様に褒められると、妙に恥ずかしくなってしまいます。
だって、私からすればアピンス様の空色の鱗の方がキレイだと私は思ったのです。
「アピンス様の鱗もとてもステキですよ。エリオット様とお似合いです」
「水龍の一族は皆鱗が水色ですからね。私は龍王家と血が繋がってても、鱗は母様似だから水色なの。でも良く似てるって言われるので、エリオット様はもう私の兄様だと思ってます」
何れ婚約されるから、二人を今から祝福出来る様に言葉にすると、アピンス様からは意外にもエリオット様と同じ様な答えが返ってきます。兄妹だと言う二人を見ていると、それが本気なんだと分かる。けれど、それも歳を重ねれば変わる事もあるので、複雑です。
「アピンス?」
泉の傍で鼻唄をアピンス様に唄っていると、後ろから声が掛かりました。振り返るとそこにはエリオット様より濃い青の鱗に深緑の瞳の雄龍。体長からして私と同じ位の歳かと思った。
「グレイル様!」
アピンス様が明るい声でその龍を呼ぶ。それで私はその龍が誰かを思い出す。
龍王家第二王子のグレイル様だ。彼はアピンス様の事となると容赦がないそうで、私はアピンス様から許嫁を奪った女として心底嫌われてました。対面する度睨み合い、又はいがみ合いで、それに勝てた試しがない。だから正直、グレイル様は苦手です。
「珍しいな。アピンスが庭へ来るのは」
「はい!ルナ姉様のお陰です」
優しい表情でアピンス様へ声を掛けるグレイル様は、エリオット様と似ているけれど、幼い割に口調はやや堅め。けれど将来龍騎士なのを知っている私はそれで違和感を感じません。いつかのグレイル様程ではないですが、あれはアピンス様だから優しいのだと思うと話すのが怖いです。
「貴女は?」
アピンス様の言葉に漸く私の存在へ視線を向けて聞いて来ました。一瞬その瞳を向けられる事にぎくりとしましたが、思いの外柔らかい目元に、あれ?と思うものの、そう言えばこれが今回の初対面だと気付くと慌てて挨拶をする。
「お初にお目にかかります。私白龍オルビスが娘のルナマリアと申します。現在エリオット殿下お招きに預かり七日間滞在予定で訪問させて頂いております。貴殿は第二王子のグレイル様とお見受けいたします。ご挨拶に伺わず申し訳ございませんでした」
龍の状態なので、頭を下げるだけの挨拶すると、頭を上げて良いと許可が出され顔をグレイル様へ向ける。
「いえ、謝罪は必要ないです。僕は先程訓練から戻ったばかりで不在でしたから。それよりも、アピンスの籠りクセを治して頂けた見たいでありがとうございます」
嫌われる事をしてないから、あの視線を受ける事は無いと思っていたけれど、想像以上に優しい表情と口調で、そればかりかアピンス様の事でお礼まで言われて私は驚きのあまり固まってしまいました。けれど直ぐに返事をしなくてはと思い慌ててします。
「い、いえ、今回の訪問はアピンス様との交友目的でしたから、お言葉を頂ける事ではありませんよ。寧ろこんな可愛らしい方と仲良くさせて頂けてこちらがお礼を言いたい位です」
「成る程、父上が噂とは違うとおっしゃっていた通りですね」
私の言葉にグレイル様は一瞬驚いた顔をされた後に、納得した様に笑われました。私の噂とはまさか我が儘していた頃のでしょうか?
「ご歓談中失礼致します。ルナマリア様、陛下がお会いしたいと申しております」
首を傾けた私が疑問を口に出す前に、陛下の側近の方が来ました。陛下との約束では話すのは何時でもと言ってましたので、突然お時間を空けるのには驚きましたが、直ぐに了承しないとですね。
「かしこまりました。直ぐに伺います。グレイル様、アピンス様、またお時間ありましたらお話させて下さいね。では失礼いたします」
「はい!またお誘いしますね、ルナ姉様」
アピンス様の言葉に安心して微笑み頷くと、私は陛下の側近の方と一緒に謁見の間へと向かいました。入室する前に陛下に対面する為、龍人になって入るとそこには王妃様もいらっしゃって、思わず緊張しました。前回この方には迷惑を掛けていました。私を狙って来た人族の盗賊に、私は騙されて賊を城へ侵入させてしまい、王妃様が拐われ酷い目に遭いました。何とかエリオット様率いる王龍騎士隊で救出されたものの、王妃様の心身は疲弊し、部屋に籠り勝ちになってしまいました。なので、今回こそご迷惑を掛けない為に警戒を怠らない様にしなければなりません。
「おお、呼び立ててすまないな、ルナマリア」
「いえ、お約束もそうですが、陛下の頼みでしたら出来る範囲務めるのが臣下ですもの」
「流石オルビスの娘だ、話しが早い。ルナマリアに頼みがあるのだが聞いてくれるか」
「ええ、私でお役に立てるなら」
考えを改めていると、陛下から話しを振られたので答えます。気を良くされた陛下は笑顔になり、私に何かを依頼されるようです。そこは先程の言葉もあるので頷きます。すると、王妃様も笑顔になられました。
それにしても、エリオット様はどうやら王妃様似ですね。鱗の色合いはもとより、柔和な雰囲気を持っていらっしゃいます。美人で、前回もそうでしたが、私の憧れそのものです。因みにグレイル様はアピンス様に対しては穏和だけれど、グレイル様はどちらかと言うと陛下に似た鋭い気配で、戦闘タイプと言えば分かるでしょうか。騎士訓練を受けているせいか威圧されるのです。
そう言えば、今現在エリオット様も昨日より訓練に出ていて、本日は不在です。確か昨日の昼前にお会いして、客を放ってしまうのが申し訳ないと謝罪されました。
龍家の騎士修行は自衛の意味があるのでやらなければならない決まりですので、穴をあけるのはいけません。エリオット様との交流が無くなってしまうのは非常に残念でしたが、前回の様に我が儘を言ってはいけませんので、私は何とか笑顔で気にせずいってらっしゃいませとお見送りだけしました。
「うむ。では、早速ではあるが、明日我が息子グレイルの3の生誕祝いを行うので、ルナマリアにも参加願いたい」
すると、なんて事はない先程お会いしたグレイル様の生誕祝いの招待です。
「まぁ、おめでとうございます、喜んで出席させて頂きます」
私の時もエリオット様や陛下が出席して下さったので、お断りする理由はありません。二つ返事で了承致します。先程のグレイル様との接触からして前回とはかなり違う印象なので、苦手意識は薄らぎましたから、大丈夫です。
「オルビスにも招待状は送っているから来るであろう。そこで本題だ。実はルナマリアとグレイルの婚約を申し込みたいのだが、どうだ?あれとは先程会ったかと思うがなかなか悪くない話しだと思う。エリオットにはもうアピンスを宛がったからグレイルも3の歳に婚約者を作るのは丁度いいだろう」
「うふふ、歳も半期違いで近いですし、少々グレイルは警戒心が強いですが、アピンスを外へ連れ出せる程仲良くなったルナマリアなら問題ないと思いますよ」
ええぇ!?まさか、グレイル様との婚約の申し込みをされるとは夢にも思っていませんでしたので、驚くしかありません。
半期とは人族で言う1年です。1期で龍は歳をとります。なので、グレイル様とは今同じ歳です。
陛下も王妃様も乗り気で、お断りできる雰囲気ではありません。私がお慕いしているのはエリオット様なのに、半期前アピンス様との婚約より私にしようとしたのを止めたらこうなるとは…それに、グレイル様とは本日初めてお会いしたばかりです。あれ、でしたら、グレイル様はご存じ?
「あの、陛下、それは何でも早急過ぎではございませんか?グレイル様はその事を知っていらっしゃいますか?」
「誰と、とは伝えてないが、明日の祝いの場で婚約者を選ぶとは言ってある。一応心得ている筈だ」
では、そう言う場になるのはグレイル様はご存じなのですか。そこで一つ問題があるのに気付きます。父様です。
「では、私の父は了承したのですか?」
「大量の縁談の申し込みを断るのと、王家の婚約者として虫除けがあるのどちらが良いだろうと脅し・・・いや、話し合いして許可されている」
今明らかに脅したと仰いました。あの親バカな父様を、利害目的で納得させるとは、流石陛下です。しかし、王族との婚約等適齢期つまり成龍になれば破棄するのは至難。成龍するには後三歳です。それまでにエリオット様を諦めて、グレイル様をお慕いするようになっているとは想像出来ません。
あのアピンス様大好きなグレイル様ですよ?
ふと、そこで思い出す。確か、前回の時グレイル様はアピンス様と婚約していた事に。確か深窓の令嬢となったアピンス様を私に凄く自慢すると共に、アピンス様ではなく私を婚約者にしたエリオット様を軽く恨んでいらした筈です。
確か使用人達のその頃の噂話しでは、アピンス様はエリオット様を愛していたのですが私が横取りして、アピンス様は王家の為身を引いた。そして、グレイル様はアピンス様を愛していて、その本当に好きな相手と結ばれなかったアピンス様を憂いていた。結果アピンス様を傷付けた私とエリオット様をグレイル様は恨んでいた。と言う内容です。なのであのグレイル様の態度は逆恨みだと毎回思った記憶があります。
えと、つまりです、グレイル様は将来的に、アピンス様を愛しているわけです。先程お会いした限りではその片鱗は確かにありました。
それに思ったのですが、先程アピンス様はエリオット様を兄の様だと思っていると仰っておりましたが、グレイル様に対しては言われてません。
それは、あのアピンス様がグレイル様を見た時の嬉しそうな表情をみると、もしかしたらエリオット様とは違う感情なのではと思えます。
噂は事実ではないです。私の勘が合っていれば、前回は兎も角、今回のお二人は恋仲になる可能性があるのではないでしょうか?
はっ、でもそうするとエリオット様の婚約の話はどうなるのでしょう。いえ、エリオット様は前回人族の娘を将来愛されていらしたので、むしろ都合が良くなるのでしょうか?それに、もしかしたら、私もまたエリオット様へお近づきになれるチャンスではないでしょうか?こうなったら、お慕いするエリオット様と、可愛いアピンス様の為、陛下を説得する他ないです。
「陛下、提案なのですが、それを発表するのは、アピンス様が3の歳になられる時まで延期にできませんか?」
そう言うと、陛下は目を見開いてほう、と息を漏らした。
「それは何故だ?」
私を見定めている様な視線に、居心地が悪くなりますが、ここで間違えたら将来が前回の二の舞に成りかねないです。なので、慎重に言葉を選んで答えます。
「先程、陛下はエリオット様の婚約者は決まっていると仰いましたが、正式にまだ発表をしている訳ではありません。それはアピンス様が幼いからですよね?でしたら、グレイル様の婚約発表をしてしまっては、第一王子より先に婚約発表をしてしまう事となってしまいます。でしたら、アピンス様が3の歳に、一緒にする位で良いのではないでしょうか?それまでは私とグレイル様もエリオット様とアピンス様の様な関係で良いと思うのです。私もグレイル様もまだ出会って間も無さ過ぎます。良くお互いを知ってからでも遅くないのではないですか?」
「むう、そう言われるとそうだが」
流石に無理矢理過ぎたのか、陛下の返事は色よくありません。
「まぁ、陛下、ルナマリア様の考えは素晴らしいわよ?私にも過去に好きな方がいましたが、貴方との婚約があり、諦めましたの。陛下にだって、好んだ女性はいらしたのではなくて?例えば・・・」
「し、シルヴィ!その話しはもう終わった事だろう!」
私がこうなったら父様に、この縁談は考える様にとお願いしに行く時間を貰おうと進言しようとした所で、思わぬ援護が頂けました。
何と、王妃様です。そして、何故か夫婦の過去の出来事に触れ始めて驚きます。そのような話は前回も聞いたことがなかったので初耳です。
「あら、陛下の中ではまだ終わっていらっしゃらないでしょう?だから、その女性の娘のアピンスをエリオットの婚約者にと生まれる前から弟のアスラン様に頼んでいらっしゃった。違いますか?」
「それを言うなら、そなたもあいつの娘ならと喜んでいたではないか」
「まぁ!息子しか生まれていない私が娘を欲しがっても当然ですわ」
つまり、アピンス様の早すぎる婚約は、陛下が王弟殿下の奥様が昔好きで、けれどその当時の奥様は弟殿下が好きでしたと。陛下も婚約者がいたので、仲の良い二頭を離す訳にもいかず、今の王妃様と結婚されたようです。その初恋の龍の子供だから、自身の息子と婚姻させたいとの事です。それはもう王弟殿下妃が懐妊されて直ぐに申し立てしたらしいです。
一方で、王妃様の好きな方とは王弟殿下だった訳ですね。でも、それは水龍族長の娘だった王妃様にとって皇太子との婚約を破棄できるものではないので、お互い失恋した痛みを分かち合う内に愛し合う様になったみたいです。
目の前でそんな口喧嘩をされている夫婦を見ている私は陛下の幼馴染みだと言う側近のウェルスさんに、詳細をお聞きして納得しました。
「確かに君の言う通りな所もあるが、私の陽花は唯一シルヴィなんだよ」
「…仕方ないですわね、それで絆されますわ。私の月花様」
「あの、私の提案は受け入れられるのでしょうか?」
結局仲の良い夫婦、しまいには龍族で使う唯一愛する番に使う呼び合いまで始めてしまうお二方に、素敵だと思いますが、放置状態はそろそろ私も限界です。ウェルスさんは馴れていらっしゃるみたいで呆れたように見ていましたが、私の限界を察したのか、陛下、と声を大きくして注意を惹いて下さった。ありがたいです。
「ああ、話しがそれてすまん。わかった。婚約するのは延期しよう。しかし、グレイルにそなたを許嫁として紹介はさせて頂くぞ」
漸く自身の失態に気付いて狼狽える陛下は珍しいですが、コホンと咳払いをして、了承して下さいました。許嫁とされる事を無しには出来ませんが、そこは仕方ないです。そして、今度こそ間違った愛情表現はいたしません。例え私の恋は実らなくても、前回の様に好きな相手に嫌われるのは嫌ですから。それは陛下達の喧嘩を見たからこそそう思えました。
「はい。陛下のご意向のままに」
そうして翌日私とグレイル様の公式の対面が成立いたしました。
***
「本日はお日柄も良く、グレイル殿下には良い歳の開始になることをお祈りいたします」
「ありがとうございます。ルナマリア様も、聖龍となれる日が早く訪れますよう、お祈りいたします」
翌日、森の泉で行われた生誕祝いに、私はグレイル様へと龍の状態で挨拶をいたしました。流石王子、鱗の輝きはキラキラです。
「グレイル様は神核訓練を始められたそうですね。確かに鍛えられた、神核の輝きです。私の父と色は同じですね」
流石、騎士団で週の半分を神核訓練されてるグレイル様は同じ歳の龍に比べ神核の練度が発達していて、龍人にはもうすぐでなれるそうです。そうなればこの歳でそうなのだから、成龍すればモテるでしょう。
「ははっ、伝説の龍騎士殿のオルビス様と同じ核属性とは光栄ですが、本気でそう仰ってるなら、ルナマリア様は相当な天然タラシですね」
「意味が理解しかねます。私は感じた通りを言っただけですが?」
聖龍修行をしていて分かるようになったのが、相手の神核の大きさと神核から発せられる輝きです。神核には属性があって、私の神核の輝きは無色透明です。これは聖術に特化している属性で、他の属性神術は初級までのみしか扱えません。グレイル様は赤の属性で、火の神術に特化してます。青龍種族属性とは異なりますが、相対する属性同士なので、鍛えれば油断のならない強さを持てる筈です。
こういった情報を前回は分からなかったのですが、今回読み取れるのは、やはり修行の賜物でしょう。癒しを与える側として見えてなくてはならないですし。
それにしても何故グレイル様は、私に対しそんな面白そうに笑うのでしょう。
「そんな所が貴女の魅力なのでしょう。兄上が興味を持つのも分かります」
一応お誉め頂けてるらしいので、恐れ入りますとだけ言っておいた。雄々しい中に気品の様なものが見れるのはやはり戦闘タイプとはいえ王族です。私の方が精神的に大人の筈ですが、少し負けてる気がします。どうやら前回の時の敵対心がちょっとだけ残っているようです。うっかり口に出さないように気を引き締めましょう。
「ルナ姉様!グレイル様とばかり話してズルいです。私も混ぜてください!」
「アピンス様、本日も可愛らしいですね。ええ、一緒にお話しましょう。本当にアピンス様はグレイル様がお好きですね」
グレイル様と話していると、突然上空から降ってきたアピンス様。私とグレイル様の間にふわりと着地されます。随分活発になったアピンス様登場の言葉に僅かな嫉妬が見えて、やっぱりグレイル様が特別好きなのだろうなと思って口に出せば、尾を揺らしてアピンス様は慌てた。
「わぁ!そんな!グレイル様は、えと、格好良くて、引き籠る私にも呆れず着いててくれる優しい方で、大好きです!あれ、間違ってないです。で、でも、ルナ姉様もキレイで、外の楽しさを教えて下さって優しくて、お姉様の様で好きなのです!だから、二人が話してるのは良いんですけど、私もお話してないと楽しくないと言うか」
素直に慌てるアピンス様は、本当に可愛らしいですね。これは確定ですかね。ですが、まだ自覚がないようなのでそれまではこの状態のアピンス様を愛でる事にいたします。3の歳まではまだ日があるので、ゆっくり自覚して頂きましょう。何だか別の方の恋を応援するのも楽しいです。
「ふふ。本当に可愛らしい。グレイル様がご心配されるのも分かりますわ。こんなに愛らしくては、拐われてしまいそうですものね」
「確かにアピンス程の可愛らしさは心配だ。今までこの子は警戒心が強く、滅多に外出しなかったから安心していたのに、最近では貴女のお陰で益々愛らしくなってしまった見たいで、本当に悩む」
グレイル様へと話しを振れば、直球的な言葉が返って参りました。もうこの頃からグレイル様のアピンス様自慢は始まっていらしたのですか。
「ではお守り出来る様に強く成れば良いのです。私も出来る限り協力いたしますわ」
「ルナマリア様が?聖龍の神子とは癒しの神術使いでは?」
「危険な場所でも必要であれば癒しを行いに行きます。だからこそ神子には癒し以外に実は特別な護神術も存在するのです。それと、これでも龍騎士オルビスの娘ですので、龍人になった時には剣の稽古を聖龍修行の合間に付けて貰ってます。これから賊には負けない強さは身に付ける予定ですよ!」
全て母様が今回立てた修行計画です。それはもう、前回の経験が役に立たない程の内容ですので、心身共に鍛えられてます。性格も矯正された気がするのは間違いではない筈です。
「賊とはまた物騒な話しをされているな」
グレイル様と話しをしていると、先程まで姿のなかったエリオット様が私の後ろから現れました。まだ訓練から帰られないと思っていたので嬉しく、笑顔でその顔を見ると、何故か前回の私を見るエリオット様と表情が被ります。
これは、不機嫌エリオット様です。どうされたのです?
「兄上、今までどちらへ」
「エリオット様!私ルナ姉様と凄く仲良くなりました!ルナ姉様を連れてきてくれてありがとうございます!」
グレイル様も気配の無かったエリオット様に驚きを隠せないようで、声に出ていました。
一方アピンス様は全く気配に関して頓着してないので、普通に会話を始めてらっしゃいます。
「陛下の命令で騎士訓練に出向いていた。ルナマリア様がいらっしゃってる間は行かないと伝えていたはずなのに、グレイルを呼び戻す代わりに向かわされたみたいでな。
アピンス、あちらでご両親が探していたよ?話しは後で聞くから、先ずは両親へ挨拶してきなさい」
「ふえ?父さまと母さまが?分かりました行ってきます」
口調が柔らかくないエリオット様は誰がどう見ても不機嫌な様子です。アピンス様も珍しいその態度に戸惑われていらっしゃるみたいでした。
「わざわざ私が城を離れる理由はないはずだが、グレイル、何か知っているか?」
「さあ、陛下が何を考えているかは僕には…」
「あの、それは私とグレイル様の許嫁の件のせいでしょうか?」
不穏な気配に、私は耐えきれず口を挟んでしまいます。せっかくの生誕祝いの場で兄弟喧嘩は良くないです。
「ルナマリア様とグレイルが…?」
「ああ、やはり父上が紹介する龍は貴女でしたか」
エリオット様は驚きを顕にされ、グレイル様は何となく気付いてらしたみたいで、納得されていた。
「本当は婚約者となるようでしたが、エリオット様とアピンス様の正式発表なしに、私達を婚約させるのはおかしいので、延期して頂きましたが、許嫁とはすると仰ってました」
「どうしてルナマリア様を招待した俺が知らない?」
何やらエリオット様の様子が変です。目を細めて私達を睨み付けております。一人称、私から俺になってますよ?
いえ、これはこれで前回の私なら何度となく見ていたエリオット様なだけに動じませんが、その他の方は驚いていらっしゃいます。えっ、不機嫌は私のせいですか?
大事な弟と、アピンス様とちょっと親しくなっただけの龍が婚約なんてするな的なあれですか?
「それは、良く知りませんが、兄上がいると反対されるからでは」
「グレイルと婚約させる為に招待した訳ではないから当たり前だ」
予感的中です!?
何だか治まるかと思った事態が思わぬ悪化をさせてしまいました。陛下、ご子息方の喧嘩、止めて下さい。そう思って姿を探しましたが、近くにおりません。
「えと、あくまで口約束ですから、アピンス様が3の歳になられる時に皆様が他に大切な方がいれば破棄出来る様に、それほど硬い約束ではありませんから!そこまでお怒りにならないで下さい!」
遂には神核の気が漏れ出したエリオット様に、私は慌てて術の発動を止める為に龍人になると、癒しを展開して抱き付きました。いつの間にか角と尾を残した半龍人になっていたエリオット様は格好いいのですが、出来ればこんなお怒りの状態では会いたくなかったです。
グレイル様は本気のエリオット様に驚き過ぎて退いておられます。
咄嗟に抱き付いてしまいましたが、エリオット様はそれを拒絶することなく、どうやら落ち着いてくれた、と言うより驚かれて止まったみたいです。
「あの、驚かせてすみません。私はまた父上が、勝手に暴走して当事者の気持ちを考えずに婚約決定してしまったのかと…それを止めない弟に八つ当たりしてしまいました。グレイルも、すまなかった」
「いえ、驚きましたが、何もなかったので平気です」
「もう、落ち着かれましたか?本当に押さえてなくても術は使いませんか?」
そっと顔を離してエリオット様を見上げれば、戸惑った顔をされたエリオット様と目が合った。
「貴女は、本当にルナマリア様ですよね?」
「そうですよ?一日お会いしなかったので忘れてしまわれましたか?」
力が安定したのを感じたので、私は安心して冗談めかして笑うと、エリオット様から離れた。
「すみません、訓練中に頭を強く打った見たいで混乱していて」
「えっ、それは大変です!なら手当てを…」
何て事でしょう。様子がおかしいのは訓練でお怪我されたせいですか!私は慌てて神術を展開しようとしますが、それをエリオット様はやんわり手で制しました。
「いえ、少々揺さぶられた程度なので、怪我はありませんでしたから、平気です」
「そうですか、でも何か有ればおっしゃって下さい。『癒し』なら何とか使用許可は頂いてますから。それと、先程のように驚かせるのは無しですよ。本当に怖かったです」
「ええ。訓練から戻ったばかりで、少々気が立っていたのでしょう。今後は気を付けます」
何時ものエリオット様に戻ったみたいで普通に会話すれば、エリオット様も普通に接して下さいます。良かったです。
「グレイル様、ルナマリア様、陛下がお呼びです」
漸く事態が治まった時に、ウェルスさんが登場しました。私としてはもうちょっと早く声を掛けて欲しかったのですが、騎士ではないウェルスさんにんは先程のエリオット様を抑えるのは無理なのでしょう。
「わかった。今行く。ルナマリア様、龍化して下さいますか?僕はまだ龍人化できないので」
「はい。直ぐに。ではエリオット様、また後で」
私はグレイル様の方へ駆け寄ると龍化して一緒に陛下のいる所へ向かいます。
その後ろ姿をエリオット様が困った顔をしながら見つめていたのを知っているのはウェルスさんだけでした。
「まったく王家は複雑な恋愛ばかりですね」
そんなウェルスさんのため息を聞いていた者は誰もいませんでした。
読んで下さった皆様ありがとうございます!
続き書きたいのですが、明日より仕事が忙しくなるので次回はまた一週間後になりそうです。すみません。