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いち話

話しを書くにつれ矛盾が生じるかもしれません。その時は修正いたします。

ゴプリ

ブシッ


液体が噴出する音が脳内でやけに大きく聞こえた。

ああ、私は死ぬのか。

本当に死ぬ程の怪我は感覚すら麻痺させるのだと言う事を初めて知った。

こんな状態だと言うのに、誰もが私のこの死に様を喜んでいる。そんなに嫌われていたのか、と私を睨み付ける元婚約者に、ずきずきと最近ではお馴染みの胸の痛みに、身体は痛みなんて無いのに、心は最期まで解放されないのかと悲しみが溢れて止まない。


ごめん、なさい…きらわれたく、なかっただけ、なの


事切れる前に何とか正直な胸の内を伝えたかった。なのに、口から溢れる血液のせいで言葉にならなかった。

そして崩れた私の前で彼と、その彼の唯一の彼女は口付けを交わして抱き合っていた。

彼女の蔑む様に私を見る笑みを、彼は好きなの?

そんな最期に疑問を持って私は死んだ。


***


「ルナマリア様?どうかされましたか」


はっと気付いたら目の前には綺麗な鱗を光で反射させた幼い青龍が私を覗き込んでいた。懐かしい、と思った。

それは紛れもなく幼小期のエリオット様だった。これは走馬灯と言うものなのかとぼんやりした頭で考えていたら、


「エリオット様が素敵で見とれてしまいました」


とつい、本音を口にしていた。


「えっ!」


すると大変驚かれたエリオット様の声と気配に、動揺し過ぎたのか尾をユラユラと揺らしていた。そんな反応のエリオット様を見るのが初めてで、私はクスリと笑ってしまう。ああ、最初からこうしてれば良かったと。

私は自他共に認める意地っ張りでプライドが高い龍だ。

故に素直に他龍を誉めるとか出来ず、他龍に厳しいクセに、自分は傷付けられるのを嫌う為つい傲慢な態度になってしまう。

だからこそ死ぬ間際に思った素直に伝えたかったと言う事だけが今の夢を見せてくれてるのだと思った。


「その、ルナマリア様もとても素敵ですよ?鱗の純白がとても美しい」


すると、エリオット様が逆に私を褒めてくれた。天敵のいない空に棲む私達一族は産まれながらにして鱗が白い。だけど白さは個体によって違っているから、神子の私が美しいなんて昔から同じ種族の者には言われ慣れていた。だけどエリオット様から言われるのは初めてだった。実はもう死んでいて、ここはまさか天国だったの?

でも不思議と動悸がする。こんなに嬉しくてでも恥ずかしくなる気持ちは産まれて初めてだ。


「あ、有り難うございます。そんな言葉を聞いて死ねるなんて嬉しいです」


「そんなにですか?貴女なら皆が思っている事ですよ。でも、まるで貴女が死ぬような物言いはダメですよ?悲しくなります」


「えっ、」


エリオット様の言葉に、私は耳を疑う。それは私が生きてるような物言いだ。


「今日はルナマリア様の3の生誕祝いだと言うので、お祝いの言葉を申し上げに父と来たのですよ。それを逆に捉えてしまう言い回しは禁止です」


にこりと微笑まれてしまえば、私はとにかく頷くしか出来なかった。だって、私を嫌っていたエリオット様がとても優しいのだ。否定なんて出来ない。

そして今更気付いたけど、ここは私達白龍の棲処がある天空の泉だった。でも最近私は龍王家に嫁ぐ為に地上に降りて森で過ごしていたし、最期に死んだのは狩人の檻の中だったはずだ。ですが、今の言葉に引っ掛かります。


「私は3の年になったのですか?」


「ええ、おめでとうございます。成龍まで後半分です。ぜひこれからも健やかに成長なさって下さい」


「有り難うございます」


つい口に出した疑問にエリオット様は嫌な顔一つせずに祝いの言葉を嬉しそうに仰ってくれた。そこで漸く私は死んだのではなく、時を遡ってしまったのだと思い至った。

確かにエリオット様と初めて出会ったのは3の生誕日だった。

その日にエリオット様に一目惚れした私は生誕祝いに何か希望はあるかと問われて父と龍王様に、成龍したら、嫁ぐのを前提に付き合わせて欲しいと強請ったのだ。神核の高い白龍だったのと、長の娘だったので、成龍しても私の気持ちが変わらなければ良いとされた。

エリオット様はあの時他に許嫁がいた。それを私の我が儘で引き離してしまった。その為エリオット様が私に対して持つ印象が最悪になってしまったのだ。

だけど、私は自分に力と美貌があるのは確信していたので、そんな許嫁よりもずっと私の方が良いと気付いて愛してくれると思っていた。

その自信を持ってエリオット様と接していたせいで何の努力もしなかった私は、遂にあの人族の娘にエリオット様を取られたのだ。

幸運の女神の様な人。と娘の仲間は言っていた。

気付いたら、私はエリオット様から大変嫌われていて、娘ばかりに気をとられるエリオット様や龍王家の方々。私は嫉妬の余り娘に手を上げた。勿論いくら憎くても戦でない限り殺人は白龍族には御法度なのでそこは抑えたけど、どうしても暴力だけは抑え切れなかった。

羨ましかったんだと、今なら分かる。

エリオット様に向けられる視線に。

素直に言葉を紡げる可愛いらしさに。

加護欲を掻き立てられるその華奢さに。

どれも私が持ってなかったのだ。

素直じゃない私。食べてばかりで丸くなった私。

分かっていたのに、そこからどう汚名返上したら良いのか分からなかったし、その時に急に努力を始めるなんて、今までやらなかった私がするには娘との差が大きすぎた。だから、それならとエリオット様の気を引くことばかりに精一杯で、結果私は邪龍認定され、娘の仲間の狩人に始末されたのだ。


白龍の神核は龍玉で出来ていて、それはとても大きな力を持ってると聞いた事がある。きっと死した際に私の願いを受けてこうして魂を過去へ戻してくれたのだ。

なら、やるべき事は一つ。


「こうしてはいられません。父様に早速宣言しなければ」


そう決心すると、私は身体を起こして父の元へと空を掛けた。


「…何か、噂とは違って素直じゃないか」


私の百面相をしっかり見ていたエリオット様が、飛び出した私を見送りながらそんな事を呟いていたのを私が聞く事は無かった。


***


「父様!」


生誕祝いで集まってくれた大人達が談笑している所に私は父の姿を見掛けると、直ぐ様声を出して父へ飛び付いた。


「ルナか!?お前いつの間に龍人になれるようになったんだ?」


「そんな事より大事なお話があります!私に、聖龍の修行を受けさせて下さい!」


龍は人族の役3倍の成長速度で、成龍になればその成長は緩慢になる。そして神核の気脈を利用して龍の姿から人族に近い形、龍人の姿に変化出来る。前回の私では龍人になれたのは成龍した時だった。それだけ気脈は扱いづらいけど、訓練すれば子供でも出来る。

それに、子供でいる時間にどれだけ気脈を研磨するかによって成龍になった時の神術のレパートリーに差が出る。

前回私はそれを怠り、結果不様な龍人になり、折角ある神核も力の半分すら使いこなす事が出来ずに力の奔流が貯まってぶくぶくとした龍になってしまった。


「ルナ!勿論だよ。お前は白龍の神子だ。3の年になった以上はその責務を全うするのに修行はしてもらうよ。だが今は先ず、龍王様にご挨拶をしなさい」


もの凄く感動している父様。当たり前か。この年まで無茶苦茶我が儘に育った記憶はあるもの。それが突然修行宣言すれば驚くし、嬉しくなるのだろう。

それはそうと、確かに父様にばかり気をとられてしまったが、父様の所には龍王様がいたのだ。エリオット様を連れていらっしゃったのだから当たり前だ。ここは確かに挨拶せねばならない。

確か龍王家への挨拶は左膝を地に着けて、右膝を曲げる。えっと、左手は掌を開いて右膝の頭に。それで、右手は握って左胸、心臓の上で固定だった筈。

そう頭の中で呟きながら過去と言うより未来で見た龍王様の部下がとっていた行動をする。


「大変失礼しました。龍王様、私白龍オルビスが娘のルナマリアです。この度は私めの生誕祝いにご出席くださり誠に有り難うございます」


「これはこれは、逞しいお嬢さんだ。この年で龍騎士の最敬礼とは恐れ入る。面を上げよ。私は龍王家が現当主のレオナルドだ。お嬢さんは将来龍騎士にでもなるのかな?」


どうやら私が行った礼は、龍騎士の行う物だったらしい。知らなかった。後から知った事だけど、一般的には胸の前で左掌を右に開いて右拳をその左掌にくっ付けるのがそうらしい。騎士は王家に心臓を捧げる意味を取って例の動作らしい。

うあー。やらかした。

だけど今更間違えましたなんて恥ずかしくて言い出せず、ここは話しでも合わせておこう。


「龍族は皆、龍王家の臣下。この方が箔がつくと思ったまでです」


龍騎士になるなんて明言しません!私にそれが勤まるなんて思えない。だけど、父様はこの挨拶の仕方だから、その娘である私が真似ても仕方ないと言う事にしてもらう。


「はは。オルビスの真似か。気に入った。どうだオルビス、ルナマリアが成龍したら、エリオットの嫁にくれないか?」


「何バカな事を。ルナはオレの天使だぞ。誰が嫁に出すか。それにお前の所の息子には許嫁がいただろう」


「アピンスの事なら問題ない。あれはまだまだ幼いし、神核もルナマリアに比べれば小さい」


「ま、待って下さい!」


何故か私が何も言ってないのに婚約者の話しが出てしまった。しかも今度は成龍したら婚約者ではなく、結婚な流れに恐ろしくなる。これは、まさか未来を変えようとする軌道修正ですか!?

これではエリオット様にやはり嫌われてしまう道に進むんじゃないだろうか。

そこで私は思い切りストップを叫んでしまった。


「なんだいルナマリア?」


龍王様が私の声に驚く様子はなくエリオット様と同じ金色の眼を向けて来た。


「その、話しを遮ってしまい申し訳ありません。ですが、龍王様、それは当事者の気持ちが優先ではないでしょうか?エリオット様はアピンス様を好いていらっしゃるでしょうし…」


言っていて悲しくなるけど、これは仕方ない。エリオット様にもうあんな眼で見られるのは嫌だった。ならいっそお友達として好感のもてる仲で側にいたい。


「うむ。それもそうだなぁ。エリオットもアピンスの事は溺愛してるからな。済まないルナマリア。今の話は聞かなかった事にしてくれ」


「い、いえ、私は平気です」


本当はエリオット様がアピンス様を溺愛していると聞いた時点で平気ではない。だけど、それは詮無いこと。私は身を引くしかない。


「良かった。まだまだルナマリアを嫁には出さないからな!」


そんな私の心情を知らない父様は、凄く喜んでいるから恨みがましくなってしまうけど、何の取り柄も今の所ない私は大人しくしておく。


「いやしかし、この年で龍人になれるのは素晴らしい素質だ。エリオットでさえ4の年になって漸くなれたと言うのにこれは成龍するのが楽しみだな」


「お褒め頂き光栄です。若輩者で、神術はまだ何一つ満足に出来ませんが、ご期待に添えるよう努力致します」


「成る程。しっかりしたお嬢さんだ。そうだな。ルナマリアが実際に神術を使える龍になったらまた誘う事にしよう。それまで精進せよ」


「はい。では失礼します」


途中から龍王様の眼はギラギラとした光を宿し始めてしまい、私はすっかり畏縮してしまったので早々に立ち去る事にした。

良く以前の私は平気だったものだと思ったけど、良く考えたら龍王様は私を只の高神核者としか見てなかっただけなのだ。無感情の眼は、私を拒絶も受け入れもしてはなかった。


こうなったら、後悔しない様に今度は生きて行く。

悔やんだ事を折角やり直しが出来るのだから。


***


「遂にルナが聖龍修行にやる気になったですって!?」


「そうだ。レオナルドの奴に気に入られたのは厄介だが、今は気にせず心行くままに修行だ。アルマ、ルナの事、頼んだ」


あれから直ぐに父様は母様に私のやる気を話して修行の準備に入りました。

それから私は本当に前回甘やかされた修行だったのを知ります。


「次は人4割、龍6割よ!その状態での風起こしからの鎌鼬」


一重に龍人と言っても覚醒割合があるらしく、神術を使用するのにもどの辺りが効率的か、また何処までの覚醒状態なら力の暴走無しに操れるかがあり、龍の状態で完全に力を操り切れれば合格らしいです。

神核は強力で、制御するには人形を用いれば暴走しないとのこと。

神術を使えば意識を持ってかれそうになる事もあって何度か母様に殺されかけたのも記憶に新しい。

母様は神術のエキスパートだと言うのも今回初めて知ります。なんでもほぼ龍の完全覚醒での神術使用が可能で、人族には龍神様と崇められてるらしいとのこと。そもそも龍は天候を操るのが得意な種族で、地上が干ばつしていたら雨を降らせ、また冬国には雪で家々が埋まってしまいそうな時に日照りを与える。そんな役割で、勿論助けた代わりに食物を分けて貰ってるので持ちつ持たれつなので一方通行ではない。

通常地上で人に混じりその偉業をするところを母様は空から其れを行うので別格何だそうです。


けれど、それは只の種族の話で、今回私が行う聖龍修行とは何か。


癒し(キュア)


回復(ヒール)


復活(リボーン)


自然の摂理には存在しない回復術で、神子だけが使える術を私は使える。

以前の私は癒ししか使えない聖龍だった。それでも回復の速くなるそれは重宝されたから、龍王家から排斥されはしなかった。だけど、今回はそうはしたくない。エリオット様に好かれ、あの娘に向けていた笑顔を私にも向けて欲しいと思うし、あんな憎悪の宿った瞳で睨まれたくない。勿論、王家に仕える者としても役に立ちたい。その一心で私は辛い修行に耐える事ができた。


そうして修行を続ける事、人族で言う一年後にエリオット様との再会を果たした。

前回の時には私が耐えられず父様に頼んで龍王家に遊びに行ったのだけど、今回はまさかのエリオット様からの訪問に私は驚きつつ、これも修行を頑張っているお陰なのだとエリオット様と会って分かった。


「お久しぶりです。ルナマリア様。聖龍修行を頑張られていると聞きまして、ご迷惑でなければその術を拝見したく窺わせて頂いたのですが、いかがでしょうか?」


「ごきげんよう殿下。修行は龍王家の臣下として、父の様に頑張らねばと日々思っております。それと術に関しては、申し訳ありませんが、まだまだ修行中の身の私では、母様の許可がなければ殿下にお見せできないのです。代わりにと言ってはなんですが、白龍では幼龍に見せる『光花の雨』でしたら母様の許可無くとも御覧頂けますが、いかがでしょう?」


エリオット様は私の聖龍術を見に来たと言うことらしい。以前の私であれば間違いなく調子に乗ってお披露目していた。ですが、今回は母様に厳しく言われているので、非常に残念ながら、お断りせざる終えません。本当に申し訳ありません、エリオット様。

私の術の完成度は母様曰くまだまだ、見習いにも満たないのだそうです。「そんな未完成不恰好な術を選りによって殿下に魅せるなんて恥晒しもおやめなさい」と前回叱られたのは、幼かった私の記憶にしっかり残っています。なので、母様から許可と言うよりは、完璧の言葉が出るまでは他龍の前で行う訳にはいきません。それこそ前回よりパワーアップしていらっしゃる母様にどれ程のお叱りを受けるか冷や汗ものです。

折角のエリオット様のご期待なのに私は応えられないだなんて悔しくて仕方ありません。

そんな私にも、前回からの唯一の賞賛を受けた術が、幼龍に見せる『光花の雨』の幻術です。これは前回のエリオット様にもお褒め頂いたので、今回もそれを見て頂こうと考えた。


「そうですか…アルマ様の言いつけでは仕方ありませんね。『光花の雨』ですか?それはどういった術なのでしょう?」


残念そうにして納得して下さったエリオット様は、本当に良くできた方です。もう、本当、前回の私はこの方をどうしてあんなに失望させる事ができたのか不思議です。

それはそうと、『光花の雨』にご興味を持って下さったみたいです。


「はい。私の唯一の得意術ですが、これはその名称の通りで、光の反射を利用してその形を花の様にして、それを雨の如く見せるのです」


「それは見てみたいな。今頼んでも?」


「はい。では、やってみせますね」


早速エリオット様の前で実践してみる。

前回も今回も、この術は失敗しない。よく私より小さい龍をあやすのにやっていたのでもう詠唱すら必要ない。

両手を空中に突き出して念を籠めれば辺り一面がキラキラとした花で埋め尽くされる。時折光の加減では虹色に輝くそれは、私の心を穏やかにしてくれる。ふっとこれを見て私は口元を緩ませる。ああ、今度こそは、失敗しない。この光花のように純真でキラキラした心でいたいと切に思った。


「…キレイだ」


「ふふっ。気に入って頂けましたか?」


「ああ。素晴らしい眺めだ」


そう言って下さったエリオット様の顔は私を目を細めて微笑みながら見ていて、私はドキリとその笑みに心を奪われる。


「エリオット様の笑顔の方が何倍もキレイですわ…」


「!!?きっ…ルナマリア様、私は、私よりも貴女の鱗に光花が反射している姿の方がキレイだと思いますよ」


ん?とそこでエリオット様の社交辞令に私ははたと気付く。もしかしなくとも、またしても私は思わず心の声を呟いていたらしい。


「ありがとうございます。身内よりも殿下に言われると、私なんかでも、他龍を不快にさせる程の容姿ではないのだと自信が持てそうですわ。ですが、殿下、私におっしゃるよりも、アピンス様にこそその賛辞はおっしゃって下さいませ。ご婚約者様でしょう?」


エリオット様の賛辞は素直に嬉しい。ですが、それも今はただ私が聖龍の神子だからだ。

前回は婚約した後にはその容姿は見るに耐えないとエリオット様に言われたのを忘れてはいけない。そして決まって最後にアピンスはあんなにキレイなのに、貴女は全く見習わないのだな。と付け加えられる。

なので、当時エリオット様に慈愛されるアピンス様を私は嫌いで、その姿を拝見しには一切行かなかった。なので、その姿を知らないが、他龍に聞いた限りではとても可愛らしい方だとそれだけは知っている。女心は、例え社交辞令でも、他龍に二人きりの時に褒めの言葉を言って欲しくはないのです。なので、私はしっかり今回はエリオット様の心が得られるまでは、その賛辞を受け取ってはいけないと思った。


「…ルナマリア様、私は嘘はついてませんよ?それに、なぜここでアピンスが出てくるのです?確かに父上の先走りで婚約だと言ってはいるが、正式なものではないですよ。なにせ、アピンスは私の従妹で、まだ一つになったばかりの幼龍です。キレイも何もまだ幼子に言っても変なことになりますよ」


と、苦笑気味におっしゃられた。


「そう、なのですか?」


まさかのアピンス様幼子です発言に、私は驚きを隠せない。

成る程です。それなら皆さんが口を揃えて可愛がるのも頷けます。私も幼少期は父様も母様も私を可愛がって下さいましたから。ただ、成龍してからは途端に可哀想な目で見ていましたし、どこか世辞を言うにも嘘臭かったのです。

それでもきっと王族の血を継ぐアピンス様はきっと成龍してもお綺麗なのは確実ですが…


「ああ。私もアピンスを可愛がってはいるが、流石に将来の伴侶だ何て思えないですよ。言わばあの子は可愛い妹です」


「そうなのですか。是非一度お会いしてみたいですわね」


それでも愛しいと言う事には変わりはありませんので、アピンス様を語るエリオット様は優しい表情をしていました。今生こそアピンス様を見習って、エリオット様に好かれたいと言う想いで、私はアピンス様に会ってみたいと口にしていた。


「ええ、是非一度城にお越し下さい。先程の術を見せて頂ければアピンスもさぞ喜びましょう」


そんな私の我が儘にエリオット様は聞き入れて下さる事をおっしゃいました。本当に、今回はエリオット様とも友好を築けていて私は凄く幸せだ。

これならこの恋が例え実らなくとも、この先きっと私は龍王となったエリオット様の役に立てると思いました。


「では、父に訊ねてみますね。直ぐにとはいかなくも、近いうちに伺わせて頂きますわ」


「ああ。楽しみに待っています」


微笑むエリオット様に、私はドキドキしながらも何とか以前の様に見境なく抱き付くような事はせずに微笑み返すだけで留められました。失敗は自身を強くするとは正にこの事ですわ。

そうして帰って行くエリオット様をお見送りしてから私は父様に先程の件を伝える。


「エリオット様からのお誘いでは断ることはできないだろう?いいぞ。お前もこの半期を頑張っていたようだし、息抜きとして城へ遊びに行ってこい。ただ、くれぐれも陛下やエリオット様に失礼のないようにな」


「ありがとうございます!父様」


あっさりと許可を下さった父様に、私は嬉しくなりお礼を言う。


「アルマもそろそろお前に休息を取らせると言っていたし、問題ないだろうからな」


なんて一番心配だった修行の件でも問題は無いとのことで、私は地上へと降りる許可を得ることに成功しました。


***


「白龍族のルナマリアです。この度はエリオット殿下のご招待に預かり至極光栄でございます。この機会に是非ともアピンス様とも仲良くさせて頂きたく思います」


「良くぞ参ったな。ルナマリアよ。聖龍修行を頑張っているとオルビスから聞いている。将来が楽しみな娘であると私も注目しているのだ。アピンスもそなたの来訪を心待にしておったし、是非仲良くしてくれ」


「もったいないお言葉。有り難うございます。ご期待に添えられるよう頑張らせて頂きます」


陛下の前での形式的な挨拶をするのは、前回では余り緊張していなかったのに、今回の陛下の周りには他の有力龍が多く、視線が痛かったので、相当な緊張感でありました。ああ、前回は余程期待の無い自分であったのだと、こうも違いが顕著だと凄く落ち込みます。けど、それは私の今回が良い方向へと未来が向かっていると思えば耐えられます。なんせあの龍王家に認められるのは、通常の努力では中々認められる事はないのだから。そして今回の訪問は私の我が儘ではなく、エリオット様からのお誘いなのだから、もう天にも上る想いです。


「では父上、ルナマリア様をお借りしても良いでしょうか?」


「なんだもうか?オルビスの娘だからもう少し話しをしていたいのだが…」


「心配されなくとも、私がお呼びしたお方ですので、自身でもてなさせて頂きますから大丈夫ですよ。それに、父上は政務がまだ滞っていらしゃるでしょう」


「むむ、そうであったが、ルナマリアと話す機会などそう取れないではないか」


一人悦に入っていたら、何やら親子での会話が始まってしまっていました。そしてどうやら陛下とエリオット様とで私の時間の順序を話し合われている様子です。

でも、エリオット様がおっしゃるには陛下は政務があるようです。これは今私に割く時間はないと言うことでしょう。でしたら、エリオット様のおっしゃる通りになされるのが一番でしょう。ですが、陛下も父様のお話をお聞きしたい様子ですし、ここは私が進言してもよろしいですかね?


「あの、陛下ご提案ですが、私は本日エリオット様にアピンス様を紹介して頂く為にご招待をうけました。ですので、この後はアピンス様を待たせても申し訳ありませんので、エリオット様のご指示を優先させてもよろしいですか?ただ、陛下のお時間が空くのであれば、その後にでも陛下とのご面会の機会を作らせて頂ければ私は何時でもお伺いいたします。その分の日数でしたら、私も父より頂いておりますので」


「おお!そうかでは、今日は仕方あるまいその通りだしな。では、私も時間が出来次第招くとしよう。では、エリオットよ、ルナマリアをよろしく頼むぞ」


「はい。もちろんです」


「ではルナマリア様、アピンスの所までご案内致します」


漸く陛下の気が収まった時を見計らい、エリオット様は直ぐに私の手を引いて下さった。心なし嬉しそうな笑顔を見せて下さっているのはそんなに私をアピンス様に会わせたいのかと思うと同時に僅かに嫉妬してしまった。ですが、今回はそれを全面に出して我が儘を言う積もりはありません。だって、嫌われたくありませんからね。それに、もう、死にたくありません。あの絶望と悲しみと痛みを味わうのはもう御免でした。

それなら私は例えこの恋心が実らずとも、友龍としてエリオット様の側で信頼される龍として居ようと決めました。


「アピンス様はどのような方ですか?」


「そうだね、一言で言うなら可愛い子です。ですが、その幼さの割りに最近では警戒心が強いんです。父上や私にはそんなことはないのですが、初対面の方にはかなり怯えます。ですので、龍人ではなく、龍の姿で会いに行くのが良いでしょう」


「そうなのですか。畏まりました。とても賢い方でいらっしゃるのですね」


初対面の者には警戒する。それは何の野心の無い善人からすれば不快に思われ勝ちですが、王族に近いアピンス様の地位なら当然下心有りの輩が居ますでしょう。なので、笑顔で接してくる輩を全て信用されるようでは、利用されるのが落ちです。

嘗て私がそうでした。なので、その結果が、王族どころか、龍族を危険に晒してしまい兼ねない事態まで行ってしまったのです。その結果エリオット様からの処刑が下ったのです。重々今回は気を付けて過ごす所存です。


「…そんなことを仰った方は貴女が初めてです」


その理由を僅かにエリオット様に伝えれば目を見開いて私を見て驚かれました。


「ふふ、伊達に父にもしごかれている訳ではありませんよ」


と返せば感心されました。

どうやらエリオット様の信頼を少し得られたようで何よりです。本当に、前回の私は何を根拠にエリオット様に好かれているなんて思っていたのかしら。


「成る程。父上が気に入ってしまったのも頷ける」


ぼそりとエリオット様にしては珍しく発されなかった言葉に、私は首を傾けたけれど、もう一度仰っては下さらなくて、何を言われたのかは結局分からずに終わってしまいました。

そうしてアピンス様のいらっしゃる祠まで来ると、私達は龍になり中へと入りました。


「アピンス、私だ。今日はお客様をお連れした。悪い方ではないから出ておいで」


気配だけはしますので、いるのは確かなのですが、私の視界にはアピンス様らしき影は見えませんでした。すると、エリオット様が、その奥に向かって声を掛けていらっしゃいます。そして、その声に応えるかの様に気配が動きました。

そして影が現れ、その姿が影から龍へと見えた時には、私は驚きました。そこに現れたのは私よりも確かにかなり幼い幼龍。それは確かに良いのです。私より幼いとは半期前に陛下が仰っていましたから。ですが、その鱗が、エリオット様の様な青ではなく、空色で、美しいと思いました。


「エリオット様、こんにちは。えと、そちらの方は?」


「お初にお目にかかりますわ。アピンス様。私は白龍のルナマリアと申します。聖龍の神子見習いをしております。この度はエリオット殿下のお招きで、地上にまいりました。暫く滞在させて頂きますので、本日は殿下の従妹であらせられるアピンス様にもご挨拶をと思い伺わせて頂きました。どうぞ、宜しくお願いいたします」


婚約者の話しはまだ正式な物ではないので、アピンス様自身は知らないとのこと。ですので、そこは伏せて挨拶の口上を言わせて頂きます。それでも、アピンス様が3のお歳になられたら伝えられるそうなので、そう遠くないうちに知る事になるとは思います。最も前回はそうなる前に私が無理矢理その地位を奪ってしまったのだけれど、それは今回しない積もりですので、この方こそが、将来の王妃様になるのです。前回の事もあり、私は少なからずこの方に罪悪感を持っていますので、今回こそちゃんと仲良くなれたらと思います。


読みづらいと思った方、すみません。

精進します。


11/28 指摘頂いた箇所や文面におかしな点があった箇所を修正いたしました。

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