第八機 ポンコツにも出来る事
遅れました ;
orz OTL
カァァァァアアァン……！！
『うぉリぁー！！』
ボスザルの手下が、腹の中からゴングを取り出して精一杯にぶっ叩く。それを合図に、ボスザルの隙だらけの右ストレートが飛んできた。
だがしかし。こんなもの、どこから来るかわからないような地球のあいつらのリンチに比べれば驚くほど単純だった。思わず、『九九の七の段って覚えにくいよね』とかいうどうでもいい事を考えちゃう位だった。
俺はストレートをしゃがみながら避けると、サルの腹めがけて右の膝蹴りを叩き込む。右脚はもちろんセンチネル。鉄より堅いと言われた焔……なんとか樹脂は、所詮鉄屑同然の体に容赦なくめり込む。
『うぐぉっ！ぐぅぅ、ぅ』
かなりめり込んだ。だが見かけに嘘つかないタフさだったらしく、うめきながらも距離をとるサル。恐らく体重の差もかなりあるだろう。
さてどうするかと考えていたとき、つい左手に腰のポーチが当たった。中にはストロングチップ、ディフェンドチップ、マルチチップが入っていたはず……よし！
俺はサルのパンチを軽くかわしながら、レナに向かって大声で叫んだ。
「レナー！ストロングチップの効果って何だー！？」
「えっ？えっとねぇ、たぶん力が1万倍くらい上がると思うけど……あとそのチップは脚にも使えるようにもしてあるよ……」
「1万！？予想以上だ！」
俺はポーチから『S』と書かれたチップを取り出すと、顔の前で交差させるようにかざした。ボスザルも何が何だかわからず呆然としている。
少し置いて、手の甲の幾何学模様が鈍く光り出す。手と脚両方に強く念じながら、俺は頭の中に流れる音声と共に盛大に叫んだ。
「『ストロングチップ、セット！&センチネル・アップ！』」
叫びながら手の甲のチップを膝の上へと移す。やがて膝の模様も光りを発し、手と脚両方が軽く変形をしだした。
腕が縦に三分割し、外側２つが浮き上がり肘の方へとずれる。その肘にはポッカリと穴が開き、小型のジェットエンジンのような物が出てきた。
膝も同じようにしてふくらはぎがかかとの方へと下がり、かかとには穴が開いている。
やがて変形が終わると、『準備完了』とだけ頭の中に音声が流れ、そのあとは何も起きなかった。
『な、なんだヨ。見かけだけじゃネーカ！』
サルが喚く。確かに力が増えた感覚はあまりない。そんな慌てる俺を見て、サルは調子に乗り出した。
『は、どうせお前なんか逃げ腰の『チキン』なんだよ！』
その言葉に、カチンッーーと。
何かが外れるような音がした。
そしてその刹那ーー
俺は爆発的な音とクレーターだけをその場に残し、奴の背後に回っていた。
「………なるほど、これが1万倍か」
『！！！』
さすがは喧嘩に慣れたサル。こちらに気付き振り向くまでに1秒となかった。
しかし、1秒あればこんな奴1匹潰すことは造作もない。サルが完全にこちらを向き俺を視界に捉えた時には、すでに準備は完了していた。
「くらえ！破滅の神撃！」
『うぎぇぁやぁあぇアアァエアアァァア！』
肘によるブーストの効果もあり、サルの腹に先程とは比べ物にならない位に腕はめり込んだ。メシャッという嫌な音と共に、サルの体は腹部を中心に砕け散る。上半身と下半身が分離し地面を這いつくばる様は、もはや「ボス」とは呼べない状態だ。
周りのエクストラが青ざめ、バラバラと散って行く。俺は「チップオフ」とだけ呟き、腕と脚を元に戻しながらレナとござるの方へと向かった。
「いや～1万倍ってすごいな！鉄が粉々だ！…って、どした？」
「………………ば」
なんだかレナの様子がおかしい。うつむきながらこらえるように震え、何かを言いたくても言葉に出来ない様子。ござるも何も言わずただ俺たち二人を見つめている。目があるかは知らないが。
とにかくレナが何か言いたそうなので話を聞くことに……
「バカ！！！」
「うわっ！？」
……したら、返ってきたのは怒声だった。
「どうしてあんな無謀なことするの！！凄い心配したんだよ！？ござるさんも、私も！！あいつらはここら辺で一番強いチンピラで、あんたはいつこの国に来たのかわからないようなただの人間で！！あんなに止めたのに一人で突っ込んで……私、私………どうしたらいいかわからないよ……！」
「っ！！………」
その時レナが流した数粒の涙を見て、頭を強く鈍器で殴られたような衝撃が走る。
俺はその時、レナに言われて、改めて気づかされた。
自分は、馬鹿野郎なのだと。
うざかったというだけで勝ち目のわからない勝負を挑み、試していないチップを勝手に使い、それで自分は勝てると思い込んで………とんだ大馬鹿野郎じゃないか。
「う、うわぁぁあん！バカ！バカバカバカバカバカバカぁ！！」
俺の服の袖を掴みながら、必死に叫び俺を叩くレナ。
こんな素直でか弱い少女を泣かせてしまった自分に、今更ながら吐き気がしてくる。
「……ごめん、俺が悪かった。許してくれ」
「ぐすっ……………じゃあ、責任」
「は？」
「………こんなに心配させたんだから……責任、とってよ」
「へ？へ！？」
そう言ってレナは顔を上げ、ゆっくりと目を瞑った。頬は少し桜色に染まり、じっと何かを待っているような感じ。
これは、あれなのだろうか……き、キス？いや、レナに限ってそんなことは……とも考えたが、ピンクに染まる頬を見る感じ嘘ではないようだ。これは本気なのだと悟り、俺は肩を掴んでレナと向き合う。肩を掴んだとき、レナの体がビクンと硬直する。俺はゆっくりと身を寄せ、唇と唇が重なる………直前で思った。
この子を泣かせた自分に、こんな事する権利はないと。
代わりに俺は、その片手でもポキリと折れそうなレナの華奢な体を、優しく、優しく抱いてやった。もちろん右手は機械なので、左を内側にして。
「え？ちょっ、リュウ？」
「ごめん。今の俺に、その権利はない。だから………お前の気がすむまで、こうしててやる。……すまない」
「………………うん」
俺たちはしばらく、二人だけの世界に落ちていった。
『ー気まずいでござる！いつまで抱き合ってるでござるー！？ー』
とござるさん内心思ってたりしてww
こんなもので皆さんが楽しめたのなら幸いです。
