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異種恋愛  作者: 悠凪
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2

 仕事が終わり、あずみは同僚たちに食事に誘われた。

 次の日が休みと言うこともあり、あずみは少しくらいなら顔を出してもいいかと思って参加した。

 ほんの一時間ほど。

 そう思っていたのだが、思わず楽しくて、気づけば数時間。同じ年頃の女の子が集まれば、そりゃ楽しいに決まっている。話題は尽きることなく繰り広げられ、お腹の底から笑って、食べて…の結果。

 これは…まずい。

 あずみは携帯の画面が教えてくれる時間に大きく脱力した。

 それと、着信の数。

 勿論相手は、あずみ至上主義のアンドロイド。

 ケイの言ってた通り、雨が降る中、あずみは傘をさして帰宅する。

 何度も何度も大きなため息をつきながら。



「……」

 家に着き、そっと玄関のドアを開けた。

 音を最大限に出さないように、あずみは努力する。

 そんなことは無駄な努力なのに…ケイの聴覚をなめてはいけない。普段は人間と同レベルにしているが、今はきっとMAXに設定しているはずだ。

 靴を脱ぎ、廊下を進み、リビングに到達するまでのわずかな時間、あずみの脳は言い訳を考える。

 いや、別に食事会の内容自体は悪いことじゃない。世間一般の女の子ならよくしていることだ。やましくはない。

 そのことに関してはケイだって怒らない。あずみが家にいないことには少しすねたりもするが…。

 連絡をしなかった。これがいけない。仕事だろうが、遊びだろうが、遅くなることに対しては連絡を。これは常々言われていることだった。

 今までなら連絡していたし、それが当然だと思っていた。でも、最近あずみは遅く訪れた反抗期の中にいる。

 ケイの過保護ぶりに嬉しくて、イライラする。

 あの笑顔が、頭を撫でてくれる手が、抱き締めてくれる腕が、信じられないほどに神経を逆撫でするときがある。

 だから、同僚と過ごす時間の楽しさにかまけて連絡を怠った。

 でも………後悔している自分もいたりして、複雑だ。

 おとなしく、怒られよう。

 小さく息を吐き出して、ドアを開けた。ガチャリと開く音がやけに大きく聞こえた。

 リビングのソファーにケイが座っている。あずみの方からは背中しか見えないため、その顔は分からない。でも、背中がケイの心情を語っているとあずみは思った。

「あ、あの。………ケイ?」

「……………」

「ただいま…」

「……………」

 ケイは微動だにしない。シャットダウンしている時のように。

「……ごめんなさい」

 怒られてもいないのにあずみは思わず謝罪を口にする。

「あずみ」

「はい」

「こっちにおいで」

 ケイの声は静かで穏やかで、いつもと変わらない。でも、ケイが「あずみ」と呼ぶときは怒っているときの何よりの証拠。あずみはおずおずとケイの前に回り、そのまま床に座ってケイを見上げた。

 明るい茶色の前髪から見える緑色の瞳。引き締められた形の良い唇。ほれぼれするほどの整った顔立ちには、心配した疲労と怒りと、安堵が見える。

「心配したよ」

「うん」

「もう少ししたら探しに行こうと思ってた」

「…ん」

「心配させないでくれたらすごく嬉しいんだけど。…あずみに何かあったら晴香に合わせる顔がない」

 その言葉に、あずみはカチンときた。

「お母さんのために私といるの?」

「え…」

 ケイは虚を突かれた顔になる。それをあずみは思い切り睨みつけた。

「ケイが私と一緒にいるのはお母さんのため?」

「ちょっと…アズ?」

「お母さんが作ったプログラムだもんね、仕方ないか。お母さんの代わりに私と一緒にいるんだもんね」

「な、何言って…」

「私はもう大人だよ。いつまでも出会ったころと同じじゃない。ケイの思ってるあずみじゃないよ」

 逆ギレとはこのことだ。これ以上は言ってはいけない。

 あずみはスッと立ち上がって、ケイから顔を背けた。

「ごめんなさい…変なこと言って。今度からはちゃんと連絡するから」

 そう言って、足早にドアに向かう。

 ケイはそれを黙って見ていた。明らかに驚いている顔があずみの視界の端に入ったが、あずみは見えないふりをして、そのままリビングを出た。

 部屋に戻ったあずみは椅子に座り頭を抱えた。

「なんであんなこと言ったかなぁ…」

 ケイは悪くない。それは十分すぎるほど分かっている。

 でも、イラついた。自分と一緒にいることを義務のように言われたような気がして。

 今までも似たようなことを言われたことはあったけど、その時はそんな風に考えた事はなかった。

 母と同じくらい自分のことを愛してくれているケイの愛情が嬉しかった。

 なのに、最近自分はおかしい。

 それだけじゃ満足できなくなっている。ケイの愛情の種類が気に入らない。

 自分のケイを想う気持ちが変化している。あずみがケイを特別な好きだと感じているのに、ケイのあずみに対する好きの差にイライラする。答えは分かり切ったことだ。

 その想いは、少しずつあずみの中で育ち、いつの間にかあずみがコントロールできないほどに成長してしまっている。

「家族以上を求めても仕方ないのに…」

 あずみの唇がいびつな形で笑んだ。焦げ茶色の瞳が潤んでくる。

 ケイにあんなことを言ってしまった後悔と、くだらないことをした後悔と、こんな気持ちをケイに持ってしまったことの切なさ。

 お酒の入っているのあずみの脳はいつもより脆くなっているようだった。


 


 

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