俺達の願いは……
天界へと出るとそこにはシュレイナやみんながいた。出てきた瞬間は驚いていたけど、シュレイナが僕を見るといきなり泣き出した。
「さ~と~る~!あんた何やってんのよ!?いきなり飛び出して、もう少しで死ぬところだったのよ」
「ごめんごめん、僕らも、もう少しで危ないとこだったけど、こいつが助けてくれたんだ。…もう降ろしてよ、『オーフェル』」
そう、僕らはオーフェルに助けられた。彼の話によると、もともとは恨みや憎しみの邪悪なものの塊だったから、ゼノムの邪悪な心を吸収したおかげでまた生き返ったみたいだった。僕が助けを求めると勝手に出て来れたらしい。僕がシュレイナたちにそう説明していると、向こうの方からグロッツ様とクロードがやってきた。
「シュレイナー!!まったくお前は!心配したのじゃぞ!?」
「ごめんね、おじいちゃん。でも……」
初めは怒っていたグロッツ様も孫の安否を確認するととりあえず落ち着いた。
「まぁ戻って来たのであればよい。しかしお主が出て行ってから一週間ほど大変だったのじゃぞ」
え?僕らは向こうで二時間もいなかったのになんで…。僕が不思議な顔をしているとゼノムが教えてくれた。
「悟君、天界と地獄界には亀裂が出来たために100倍の時差があるんだ」
その声にやっと気付いたのかグロッツ様が反応した。
「お前!ゼノム、何故ここにおるのじゃ!?」
「グロッツ様、落ち着いてください。僕が説明します」
僕はゼノムがもう悪い奴ではないという事を説明した。ゼノムも深く反省している。
「本当に皆さんには大変なご迷惑をおかけしました、ごめんなさい」
もう一度頭を下げる。グロッツ様は微妙な表情になっている。
「まぁこやつのしてきた事は決して許される事ではないが…不幸中の幸いと言うべきかこやつは人を殺めてはおらんからの、よしとするか」
「ありがとうございます!僕、一生懸命ここで罪を償います」
「うむ、お主はクロードに任せるかの……ではみながそろった所で始めるか」
グロッツ様が一つ咳払いをしてから真面目な顔になる。
「何を始めるの?おじいちゃん」
「なんじゃ忘れたのか?まぁ無理もない、君たちシュレイナチームはこの魔法使いの闘いで優勝したのじゃ。よってその表彰式を執り行う」
『………あぁぁぁぁぁ!!』
みんなすっかり忘れていた、優勝したチームの中で一番成長した人が何でも願いが叶うんだ。
「君たちの中で一番成長したのは……」
みんなが息を飲む。
「まず崎野 葵そして神室 大介、クリス・アリシア、そして織田 陸斗。以上四名は四神の力をコントロールできるまで成長した。申し分ない、本来なら一名だけじゃが特例じゃ」
『やったぁぁぁ!』
みんなが喜んでる、僕も自分の事のように……あれ?僕だけ名前が……。
「おじいちゃん、悟には何もないの!?」
シュレイナが僕の名前を出してくれた。
「残念じゃが…彼は元々の魔力が高すぎる、何より天界人の血がごく僅かじゃが流れておるのじゃ。成長の過程だけを見ると他の四人には届かんかった、すまんのぉ」
「そう…ですか」
ちょっと残念だったけど最初から願いなんて無かったし、まぁいっか。
「ただし、悟君はこのファリッサを救ってくれた英雄じゃ。特別に天界を出ると記憶が消されるというのを免除してあげよう」
『え!?』
これまでの仲間達との記憶が消されてしまうのが免除になる。つまり人間界へ戻ってもシュレイナやクロード、みんなの事が記憶に残ってるって事か。けどみんなは…。
「そしてこれも突然じゃが…みなには明日にでも人間界へ帰ってもらわなくてはならんのじゃ」
明日!?なんでそんなにも早く。
「本来、人間がこのファリッサに留まることはこの魔法使いの闘いの期間のみ許されるの、それに本当なら今から人間界へ送らなくちゃならないんだけど今回は特例中の特例で一日だけ猶予が許すことになったわ、ごめんね。これもファリッサの掟だから…」
シュレイナにもクロードにもみんなにも、もう会えなくなっちゃうんだ。寂しいなぁ。
「今日はみなと居られるる最後の日じゃ。今のうちに楽しんでおくといい」
今日がみんなと居られる最後の日、こんなにいきなり来るなんて一体なにをすれば。
「とりあえず、城に戻って思いついた事をすればいいじゃない。地獄界にいたから時間の感覚が狂ってるけどまだ天界の時間は昼みたいだし」
僕たちは城へ戻り五人で集まり一つの部屋でいろんな話をした。初めて天界に来た時の感想や一回戦での出来事、僕を助けに行ってくれたその道のりでの事や人間界へ戻ったらどうするかなど、とにかくいろんな話をしたけど夜になっても話足りなかった。今更だけどいつの間にか僕にはこんなにも仲間が居たんだなぁ。
「みんなと出会えて本当によかった、短い間だったけどすっごく楽しかったよ」
「けど、明日にはバラバラになってるんですよねぇ」
その言葉にみんなの空気が重くなってしまった。けどそんな空気を一掃してしまうような言葉を葵さんが発した。
「ほんなら、ウチみんながバラバラにならんええ方法思いついたんやけど……ちょっとええか?」
みんなが葵さんに注目する。
「バラバラにならない方法?」
「それはやなぁ…………ってすればええんちゃうんかな?」
葵さんがみんなに自分の考えを説明する。
『えぇ!?』
「そんな無茶苦茶な」
「けどそれなら」
確かにこれならみんなが……。
「せやけどでもみんなの意見も聞きたいんや、ウチは別にええんやけど…」
暫くしてからみんなの意見がまとまった。そしてその後も話を続けた。
そしていよいよ最終日。僕がこの世界に来て初めて見た風景だった。
北の湖、シュレイナ、クロード、他にもみんなのパートナーとグロッツ様がいた。僕らは人間界での服を着ていた。帰ってから困らないようにだ。
「懐かしいわねぇここで悟に出会って、ここまで長いようで短い日々だったわ」
シュレイナが湖の風景を見ながら懐かしんでいた。
「では、みなの願いを聞こうか、何でも言いなさい」
「ホンマに……何でもいいですね?」
葵さんが念入りに確認を取る。
「なんじゃ、そんなに大それた願いなのか?言っておくが『ファリッサの神になりたい』などとは言うのでは無いじゃろうな」
「いや、そんな願いじゃないです」
陸斗が慌ててフォローする。
「では、聞こうか」
「はい、俺の…いや、俺達の願いは……」
悟たちの出した結論とは!?次回ついに最終話(予定)です。