全く…世話ねぇな
ゼノムが目覚めてみんなは後ずさりをしていたけど、僕は逆にゼノムに近づいた。そしてゼノムが第一声を発した。
「みなさん……すいませんでした!」
深々と頭を下げたのだった。それは以前の彼なら信じられない言動だった。みんなも唖然としているけど、僕は信じる。
「悟君、ありがとう。僕は君たちにとんでもない事をしてしまった。決して許されることじゃない。けど君はそんな僕を……許してくれるのかい?」
みんなはキョトンとしていた。
「みんな、城へ帰ろう。もちろん、ゼノムも連れてね。いいよね?シュレイナ」
「え?……あ、あ~別に悟がいいなら、いいわよ」
「そういう事だから、君も一緒に行こう。ゼノム」
「あ、ありがとうございます!」
これで全てが終わった。誰一人として欠けることなく、みんなで天界に帰れるんだ。と、思ったのも束の間いきなり大地震が起こった。
「みんな急ぐわよ!もうじきここも消滅するわ!大介とアリシアちゃんとあたしの風魔法で脱出するわよ」
大介さんが僕とゼノムを担ぎ上げた。
「しっかり捕まってろよ!飛ばすぞ」
アリシアさんは陸斗をシュレイナは葵さんを手にとって呪文を唱えた。
『大いなる風の下部よ『汝』我を目的の地へ導きたまえ!』
これってシュレイナが最初に僕に見せてくれた魔法だ。二人も使えるようになったんだ。
僕らは風に包まれ一直線に進んでいった。暫くすると空間に光の穴が見えた。
「あそこが出口だ!飛び込むぞ」
しかし、僕は異変に気付いた。いつの間にかゼノムが隣にいない。
「大介さん!ゼノムは?」
「え?いないのか?てっきり悟と一緒に掴まってると思ったが……すまん、魔法に集中してて気付かなかった」
僕は離れていく地獄界を見た。そこにはゼノムが一人こちらを見ていた。
「何やってるんだゼノム!?何で僕らと一緒に……」
(やっぱり君たちと一緒には行けないよ、僕は沢山の人たちを不幸にしてきた。僕は地獄界と共に消えた方がいいんだ)
ゼノムの声は聞えなかったけど、何故かそう聞えた。ダメだ、みんなで帰るって言ったじゃないか。
「悟!あんたの考えてる事は分かるわ、でもダメよ。今回ばかりは彼は救えない。戻ったら帰って来れなくなるわよ!」
シュレイナはそう言ってるけど…僕は。
「大介さん先に行っててください、すぐに戻りますから」
僕は大介さんの背中を飛び出した。
「悟!何やってんのよ!?」
僕はゼノムの前に降り立った、彼は驚いていて同時に僕を責めた。
「何で来たんだ!僕には、もう生きてる資格なんて無いんだ、ここにいたら君だって」
「僕は……誰一人失いたくないんだ、それが敵だった相手だとしても。君の方こそ、わざわざ自分から死にに行くなんてどうかしてる」
「君は……なんてバカなんだ…君のような人に会えて、僕は幸せだよ」
ゼノムの目から涙が零れた。そうだ、彼だってこうやって泣く事ができるんだ。もうあの時のゼノムじゃない。
「行こう、ゼノム」
「でも……どうやって」
「………どうしよう」
遠くでシュレイナの声がした。ずっと僕の名前を叫んでいる、しかしそのまま消えていってしまった。多分天界に着いたのかな。
「悟君、まさか、考えてなかったのかい?」
「そうだ!」
僕は目を閉じ意識を集中させた、出てきて……アシュロン。そして目を開けると目の前に随分と大きくなったアシュロンが現れた。
「ふ~やっとちゃんとした姿で召還されたと思ったら、ここかよ。まぁお前の考えてる事は分かる、そいつと一緒に俺の背中に乗りな」
そう、アシュロンに連れて行ってもらえば何とかなるかもしれない。僕はそう思った。
「ゼノム、アシュロンの背中に乗って、帰ろう」
「君って……ホントに面白い人間だったよ」
ゼノムと共にアシュロンの背中に乗り天界へ続く出口へ向かった、これで安心だ。
そして天界の出口までもう少しというところまで来た。気のせいかアシュロンがさっきよりも小さくなった気がする。
「悟君、この水龍……だんだんしぼんでいるような気がするんだけど……」
「悟……悪いが、お前の魔力……切れだ」
そして出口の数メートル手前でアシュロンが消えてしまった。
「えぇ!?」
(ダメだ、もう打つ手がない。こんなことになるなんて、誰か……助けて)
僕は目を瞑って祈った、けどこんな事をしても…。
「ったく、かっこ付けておいて、全く…世話ねぇな」
(この声って……まさか)
すると僕とゼノムは落下せずにそこに留まっていた。そして声の主は僕らを掴むと空を蹴り一気に天界へと続く穴へと飛び込んでいった。そして僕らは天界へたどり着いた。
声の主はもうお分かりでしょうか?残りもあと数話になってきました。次回はついにあれが決定します。