お願いします、オルセス様
地獄界、悟とゼノムの激しい攻防も終わりを迎えていた。
「君もなかなかしぶといなぁ。もういい加減諦めてよ」
「そっちこそ、もう魔力もほとんど残ってないんでしょ?」
両者共に息が上がっていた。そして残す魔力もごく僅かなものだった。
「じゃあこれでお互いに最後だね」
そう言うとゼノムは黒い光に包まれた。
「君を倒して、僕はみんなの所へ帰るんだ」
悟も白い光に包まれる。そしてお互いがぶつかり合い、少しずつ光が小さくなっていく。
~時を同じくシュレイナの視点~
あたしたちが天界をでて2週間が経っていた。
「みんな着いたわ、ここが地獄界よ」
そこはただの薄暗い荒地だった。
「ここが地獄界?なんて寂しいところなんだ」
そのとき、向こうで二つの大きな光が衝突していた。
「あれって!悟とゼノムだ!」
「間違いないわ、行きましょう!」
あたしたちは走り出し、近くまで行くと光が消えて二人とも倒れていた。しかし片方が起き上がる。
「やっと……倒したか……」
悟ではなくゼノムだった。
「ゼノム、お前!」
陸斗が飛び出しそうになった。
「待ちなさい、悟はまだ生きてるわ、アリシアちゃんお願い」
「わかりました、悟さん、しっかりしてください」
アリシアちゃんが悟の体に両手を添えて呪文を唱えた。
「我が身に宿る水の精霊よ、この者の傷を汝の力で癒したまえ。『ホーリー・ウェルス』」
アリシアちゃんが唱えると悟は青い光に包まれ目を覚ました。
~悟の視点~
なんだろう、暖かい何かが体を楽にしていく。
「え、アリシアさん?」
目を覚ますとそこにはアリシアさんの顔があった。それにみんなも、何で地獄界に。
「もう大丈夫ですよ、悟さん。立てますか?」
「はい……でもアリシアさん、この魔法は」
「私たちはこの2週間、ただ悟さんを探していたわけじゃないんですよ?」
アリシアさんが微笑みながらみんなの所に向かった。
「悟、あんたはそこで見ていなさい。後はあたしたちがやるから」
ダメだシュレイナ、そいつには普通の魔法はほとんど効かないのに。
「君たちが僕を倒すんですか?確かに傷は負ってますがこのくらいのダメージではあなたたちに魔法を使うまでもない」
「みんな、やっぱり僕が…」
そう言おうとすると陸斗たちが振り返った。
「悟、俺たちだって少しは成長したんだぞ?」
「あんたはそこで見ときや、ウチらに巻き込まれやんように」
「ゼノム、確かに全快のあんたなら倒せないかもしれない、けど負荷のあんたならこれに勝てるかしらね?」
一体、何をしようとしてるんだ?みんなが軽く目を閉じ光に包まれた。
「悟、あんたにはまだ見せて無かったわね」
するとシュレイナの背中からは翼が生え、他のみんなは包んでいた光が動物へと姿を変えていきみんなの中へ吸い込まれていった。
「何だこれ!?」
『炎帝・朱雀』・『地帝・玄武』・『水帝・青龍』・『雷帝・白虎』・『風帝・黄流』
みんながそう呟きそれぞれ五色のオーラを放ちゼノムに近付く。ゼノムはたじろいていた。
「まさか、四神と風帝の力をコントロールしてるなんて……」
僕は何がなんだか分からなかったけど、みんなからの膨大な魔力が感じられた。そして五つの光が重なりゼノムを覆い尽くした。
「うわあぁぁぁ!」
辺りを光が埋め尽くし、目を開けるとゼノムが倒れていた。
「まだ、息があるみたいね。悟やあたし達が暴れたから地獄界ももうじき消滅するわ。悟を連れて行きましょう」
そうだ!僕はとっさに閃いてゼノムに駆け寄った。
「悟、何をする気なの?」
僕は腕輪をはめている手をゼノムの頭の上に置いた。この腕輪は邪悪なものを吸収することが出来る、もしかしたら…。
僕は念じてみた、どうかゼノムの邪悪な心をあなたの力で吸い取ってください。お願いします、オルセス様。
すると腕輪が黒く染まった。もしかして。するとシュレイナが訊ねる。
「悟、何をしたの?」
「アリシアさん、さっきの僕の傷を癒した魔法ってもう一度出来ますか?」
「え?はい、出来ますけど」
「ゼノムに、その魔法を掛けてあげてください」
『!?』
みんなが一斉に驚いた、それは当然だろう、さっきまで僕らで倒そうとしていた相手を今度は治すなんて。
「悟、何か考えがあって言ってるのね?」
「うん、確信は無いけど僕はこの腕輪でゼノムの邪悪な心を吸収することが出来たと思うんだ」
シュレイナに白かった腕輪が黒く染まったのを見せた。
「それでゼノムが改心したってのか?」
「多分、だからアリシアさん、さっきの魔法を」
みんなはまだ納得いかないような顔だったけどアリシアさんは了承してくれた。そしてゼノムが魔法を受け目を覚ました。
次回、目を覚ましたぜノムはどうなるのか?そして無事に悟たちは帰ることが出来るのでしょうか。