これで、よかったんだよな
~そして現在~
「シュレイナ、城の外を見てみなさい」
おじいちゃんが手招きをして窓の外を見てみた。そこには大勢の天界人が城の前に集まっていた。
「改めてみるとこんなにも国民が居たなんて……どうしよう、緊張してきた」
「お前、何を言うのかはもう決めたのか?」
その言葉を聞いてあたしは更に落ち込んだ。
「おいおい、大丈夫かよ?もう時間も無いんだぞ」
一つはある、けどそれを国民の前で言っていいものかどうか……あたしにはわからない。
「シュレイナ様、お時間です。民が待っています」
「ふ~。よし決めた!」
あたしが城壁の外へ顔を出すとみんなは見上げて口々に言葉を発した。
『シュレイナ様、大きくなられましたね』
『すっかり大人っぽくなって…でもどこか昔の雰囲気が残ってるわ』
『シュレイナ様!おめでとうございます!』
あたしが咳払いをするとみんなが静まり返った。そしてゆっくりと深呼吸をして第一声を発した。
「皆様、あたしがこの度このファリッサの王となります。シュレイナ・ロベルトです。
今回あたしはついこの間まで毎年ファリッサで行われる魔法使いの闘いに参加していて悟という一人の少年と出会いました。
私はこの少年に大切な事を学ばされました。『困っている人がいたら助ける』、当たり前の事かもしれませんが実際に実行する人はそれほど多くはないと思います。彼はそれを自分の利害を関係なく平気でやってのけるそんな子でした。
皆様は地獄人という民を覚えていますか?今回の闘いでその民の生き残りが参加していました。あたしたちはその地獄人にことごとくやられてしまいました。
それでも悟は一人でもその地獄人に挑み続けました。そして地獄人との戦いにあたしたちを巻き込まないように地獄人と共に今も地獄界で戦っています」
あたしが淡々と語ると国民がざわめき始めた。無理もない、いきなり地獄人が居た事や地獄界で今も戦っていると聞けば誰もが動揺するだろう。
「あたしは!……この少年に何があっても諦めない事と、自分よりも他の人の事を考える『利他』の心を学びました。どうか皆様もそしてあたし自身もこの少年、悟のようにそんな優しい民になってほしいと思っています。あたしはまだまだ未熟な王ですこの国を支えていくには皆様の力も必要です。
どうかあたしに皆様の力を貸してください、そしてみなでこの国を良くしていきましょう!」
あたしが言い終えると歓声や拍手が沸き起こった。一礼してゆっくりと城の中へ戻った。
「はあぁぁぁ疲れた…」
あたしは一気に力が抜けた。そこへクロードが来た。
「いい話だったよ……さてと、俺たちも行って来るよ」
そうだあたしの式典が終わってからクロードたちは他の皆を連れて地獄界へ悟を助けに行こうとしていたんだ。
「ちょっとクロード、話があるの」
あたしは真剣な顔でクロードに向き直る。
「実は………」
あたしはこれから行うことを話した。
「お前、本気で言ってるのか?」
クロードは少し怒り気味であたしの肩を掴む。
「あたしは本気よ、もうみんなにも言ってあるし」
「グロッツ様には、言ったのか?」
「それは………」
まだおじいちゃんには言ってない、絶対に反対されるに決まっている。けど。
「……分かったよ、俺の負けだ、後のことは任せろ」
「本当!?じゃあ早速行って来るわ!よろしく」
あたしは一直線に走り出した。
「これで……良かったんだよな?」
~時は過ぎクロードの視点~
今更になって俺は後悔していた。
「どういうことじゃ!何故シュレイナが城におらんのじゃ!」
グロッツ様が騒いでいる、そりゃそうだ、子供たちばかりかシュレイナもこの城に居ないんだから。
「クロード!何か知っているじゃろう!?シュレイナはどこじゃ?」
「シュレイナはみんなと悟を助けに行きました」
「なんと!?」
あの時……
「あたし、やっぱりみんなと一緒に悟を助けに行く!」
「城のことはどうするんだよ!?」
王が居ない城なんて聞いたこと無いぞ。
「悪いけど、あんたに任せる。すぐに悟を連れて帰ってくるから!」
「お前、本気で言ってるのか?」
俺はシュレイナの肩を掴んだ。
「あたしは本気よ、もうみんなにも言ってあるし」
「グロッツ様には、言ったのか?」
言える訳がないよな。反対されるに決まってる。
「それは………言ってない、けど、仲間一人助けることが出来ない王なんて……そんな王ならあたしはならなくていい!」
シュレイナの目は本気だった。こうなったらもう聞かないか。
「……分かったよ、俺の負けだ、後のことは任せろ」
そのまま俺はシュレイナを行かせた。これで、よかったんだよな。
次回は場面変わり地獄界での悟君とゼノムの戦いの決着です。そして悟君を助けに行ったシュレイナは子供たちはどうなるのか?