あたしは何を言えばいいのかな
~シュレイナの視点~
あの戦いから二日が経っていた。悟はまだ…戻って来ない。
「あれから二日か……悟は今もゼノムと戦ってるんだよな」
悟はあたしたちを守るためにゼノムと共に自分の身を犠牲にして地獄界の穴へ飛び込んでいった。あの時の悟の言葉がまた脳裏に蘇ってくる。
(ごめんねシュレイナ、みんなも……今までありがとう)
どうしようもなかった。あたしにはどうすることも出来なかった。ただ、穴の中へ消えていく悟を涙を流しながら見届けるしかなかった。
「クロードとカルマが調べたんだけど……今の地獄界ゼノムが作った天界との亀裂のせいですごい時差が発生してるらしいわ」
「それは俺も聞いたんだけど、時差ってどれくらいあるんですか?」
「天界と地獄界の時差は100倍くらいなってるわ、つまりこっちが100日経っても向こうでは1日しか経たないってこと」
陸斗が指折りで計算を始めた。
「あれから二日が経ってるから……向こうじゃまだ30分も経ってないって事!?」
ここで読者の皆様に分かりやすく説明すると天界での一日は向こうでは約14分、一週間は一時間半、一ヶ月は七時間になります。
「そうなるわね」
「今からでも遅くない、俺たちで悟を助けに行こう!」
「あたしもそれを考えてたの、早速みんなを集めて出発しましょう」
シュレイナと陸斗が話し合っているとそこへクロードが現れた。
「お前はダメだ、シュレイナ」
「何でよクロード、あたしはもう戦えるわ」
「クロードのいう通りじゃシュレイナ、お前は行ってはならん」
「おじいちゃんまで……起きちゃだめよ、まだ完全に治ってないんだから」
あたしの言うとおりおじいちゃんは松葉杖を付きながら歩いていた。おじいちゃんは死んではいなかった。地獄界から自力で脱出したらしい。けど相当な重症だった。
「もうずんぶんと楽になったわい、それよりもシュレイナ、お前はダメじゃ」
「でもあたしは……」
内心では分かっていた自分が行くことが出来ない理由を。
「昨日言ったじゃろう、そろそろ頃合だと思っていたのじゃ。これからはお前がこの国の王となり民を支えてやってほしい」
悟が地獄界に行ってからいろんなことがあった。先ずあの戦いのすぐ後のこと。ゼノムと悟を吸い込んだ穴は閉じ辺りは静かになった。
「悟のアホ……なんで一人で全部背負い込むんや」
「俺たちじゃ力になれなかった、あいつが守ってくれなかったら、俺たちも今頃地獄界に閉じ込められてたんだ」
みんなが仲間を失ったことに嘆き悲しんでいた。
「何でおじいちゃんも悟も勝手に居なくなっちゃうの?」
「俺はグロッツ様がゼノムにやられているときも近くに居たのに何も出来なかった、俺も…無力だ」
クロードも自分の無力さに落胆していた。
「二人とも……帰ってきてよー!!」
そこへ突然おじいちゃんが現れた。
「どうしたのじゃ、シュレイナ」
「え?」
「グロッツ様……なんですか?」
「おじちゃ~ん!」
あたしはおじいちゃん飛び込んだ。
「お~よしよし、心配掛けてしまったな」
「グロッツ様、地獄界で捕らわれてそのまま……」
「人を勝手に殺すんじゃない、確かに重症ではおったが自力で脱出してやったわい」
「そうですか、良かった」
おじいちゃんはあたしを離すと辺りを見渡した。
「ところで、地獄人の奴は……それに悟君の姿も見えんが」
その言葉にみんなが俯く、クロードが説明した。
「そういう事じゃったか、しかしじっとしていては何も始まらん、皆も傷を負っておるのじゃろう?わしの城で治療をしよう」
そしてあたしたちは、城へ戻り傷を癒した。そして次の日。みんなが大部屋で寝ている頃あたしとクロードは別の部屋に居た。
「100倍!?天界と地獄界にそんなに時差があるなんて」
「とりあえず一から説明するぞ、地獄界の調査を終えたグロッツ様が地獄界の有毒なガスが徐々に天界に漏れていることが分かった。だからグロッツ様は天界と地獄界の入り口を閉ざしたんだ。そのせいもあってかそこから時差が生まれてしまった。実際、ゼノムと俺が地獄界にいたのは時間はほんの僅かだった。グロッツ様も俺たちが地獄界を出てからすぐに脱出できたらしいが……」
確かに、おじいちゃんが現れたのは戦いが始まってずいぶんと経ってからだった。
「だとしたら、あたしたちがこうしている間にも悟は地獄界で戦っているのね。でも地獄界には悟にも有害なガスが!」
「その点は大丈夫だ、今のあいつにはオルセス様の加護がある。あの方が守ってくれるだろう」
「そのことなんだけど……まだ信じられないわ、悟がオルセス様の末裔だったなんて」
あの膨大な魔力もオルセス様の力、それなら納得がいくけど。そこへおじいちゃんの部下が現れた。
「シュレイナ様、グロッツ様がお呼びです。すぐにこちらへ来てください」
部下に案内された部屋に入るとおじいちゃんがベッドで横になっていた。
「おじいちゃん、話って何?」
おじいちゃんが体だけ起こしてこちらに向き直る。
「おぉ、来たか。実は話というのはお前に王の継承の話じゃ」
何を話すかと思えば、それはあたしが小さい頃から言われていたことだ、父さんが死んでまだ幼かったあたしはすでに次の王の継承者であることをその頃から言われていた。
「言われなくても、いずれはあたしが王になるって言ってたじゃない」
「いずれではない、今まではわしが死んでからと言ったがお前には明日からにでもこの国の王になってもらうのじゃ」
一瞬何を言われたのか分からなかった、あたしが明日から……王?そんなことをいきなり言われても。
「もう、この国の殆んどの民に知れ渡っているじゃろう、明日には正式に決まる。お前も民の前で何を言うか決めておくのじゃな」
そんな、いくらなんでもいきなり過ぎる。
「ちょっと待ってよ、何で明日なの!?おじいちゃんはまだ生きてるし、あたしもまだ心の準備が」
「今回の戦いでわしは自分の限界を知った。もうわしの時代は終わったのじゃ、これからはお前が新しい時代を築き上げていってくれ」
「本当に……明日なの?」
明日にはあたしがこの国の王。
「明日には全ての民を城の前に集める、頼んだぞ、シュレイナ」
「…分かったわ」
あたしは部屋を後にした。胸に手を当てて考えてた。
(みんなの前で、あたしは何を言えばいいのかな)
いきなり場面変わってその後の話です。ずっと先頭描写をしてても仕方ないので書きませんでした(汗)次回はシュレイナがあるひとつの決断をします。王となるシュレイナは一体何を話すのか?