それだけでもう十分だ
暗闇で声が聞えた。
「………おい」
「……」
「…おい!」
誰かに話しかけられてる?
「おい、起きろよ!」
何か柔らかい物が顔に当たって僕は目が覚めた、しかしそこは真っ暗闇だった。
「ったく、やっと目を覚ましたか」
起き上がるとそこには大きな狼がいた。僕には分かる、あの金色の目は、何度も僕の夢に出てきた腕輪の化身だ。
「俺の事は覚えてるよなぁ、もう一度聞こう、俺の力が欲しいだろ?今のお前ではあいつには勝てないぞ」
何かが違う、こんな喋り方だったかな、何かこう慣れなれしいような。
「何度も言うけど、僕はお前の力なんか使わない!」
するとどこからかもう一つの声が聞えた。
『悟君、今はオーフェルの言葉を信じてはくれませんか?』
「……え!?誰?」
周りを見渡しても誰もいなかった。けどその声は聞き覚えのある声だった。僕が気を失ったときに語りかけて……。目の前の狼はそれが誰なのかを分かっていたようだ。
「やっぱりあんたか、悟の中で何度も力を貸していたのは」
すると僕の胸の辺りから小さな光の玉が出てきて暗闇を明るく照らした。
「うわっ!」
『オーフェル、あなたも素直じゃありませんね、もうとっくに気付いてたんじゃないですか?』
「大方はな、あんたも何ですぐに正体を明かさなかったんだ?まぁクロードは知っていてたようだが」
光の玉と狼が話していたけど僕には何がなんだかさっぱりわからなかった。
「えっと、あなたは一体……」
『あぁ、申し送れました、私の名はオルセス。天界の神です』
光の玉は姿を変え白いローブを着た女の人になった。その姿は女神のように美しかった。
「オ、オルセス様!?何故あなたが僕の中に……」
『私はずっと君を見守ってました、時には君に力を貸してあげたり、少しやりすぎだったかも知れませんが…私の子孫がどんな子供か気になってて、つい』
「………え?僕が……あなたの、子孫?そんな馬鹿な、僕はタダの人間だ!天界人のあなたの子孫だなんて」
僕は頭が混乱していた、僕のお母さんもお父さんも、お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも普通の人だった。そこへいきなり天界人だなんて、何かの間違いだ。
『すぐには受け入れられないかも知れませんが事実です、もう100年以上昔の話です。私はつい出来心で人間界へ遊びに行ってしまった事があり……そこで私はある男の人を好きになってしまいました。私たちは愛し合い天界人と人間との子を産んでしまいました。しかし私はその後すぐに私を創り出してくれた三界神様に連れ戻され、残ったのはその男と子供でした。私は何とか三界神様にお願いしてその子を見守る事を許されました。その末裔が悟君、君なんです』
僕が…オルセス様の…子孫?
「だからお前の魔力は常人よりも、天界人よりも高いんだ、理解できたか?」
狼が付け足した、僕の中には天界人の血が流れているのか。
『ちなみに、グロッツとクロードは知っていました。悟君が天界に来たことを知った私はグロッツとクロードに地獄人を調査すると共に悟君の様子も見ていて欲しいと、そして黒天の腕輪も私が君に見つけてもらうために置いたのです、地獄人と戦うために』
「え、でもクロードは僕たちを裏切ったんじゃ…」
『それは敵を欺くためです、シュレイナには悟君の事は知らせていませんがクロードが裏切ったふりをした事は全て計画のうちだと言うことは全て知っています』
よかった、クロードは僕たちを裏切ってなかったんだ、あれ、でもじゃあ何んでシュレイナ自分の部屋で泣いてたんだろう。
僕の気持ちを読み取ったのかオルセス様が応えてくれた。
『それは、君を欺くためですよ、君の性格なら必ずシュレイナの後を追う。扉の向こうで泣いていたら真実味が増すでしょう?彼女なりの配慮ですね』
僕はすっかりあの二人に騙されてたのか、けどよかった、クロードは僕らを裏切ってなかったんだ。
『しかし事態は深刻です、あなたのお友達もシュレイナもクロードも、みんなゼノムにやられてしましました。あとはあなただけなんです、どうかみんなを助けるためにオーフェルの力を使ってください』
さっきから言っているオーフェルってこの狼の名前かな、でもこいつは……。
『あなたは誤解をしています、それにオーフェルも、もっと人というものを信用したらどうですか?』
「誤解?」
「俺はこいつがどんな人間なのかはもう分かったさ、後はこいつが俺を信じてくれるかどうかだ」
『悟君、よく聞いてください。オーフェルは決して悪しきものではありません。本当に君の力になりたい、そう思っているのです』
「俺はな、悟、この人に創られたばかりの頃はそりゃも荒れてたさ、だが次第にこの人の優しさって言うものを俺は知った。だがそれ以降に会う天界人や地獄人どもは俺の力を利用しようと悪企みする奴らばかりだった、もともと邪悪な力を持っていた俺の力は悪しきものが触れるとたちまち心を悪に支配される」
狼は悲しそうに自分の過去を語った。そんな事があったなんて。狼は続けた。
「もう俺はこの方以外、信用できなくなった。だがお前は違う、俺の力をあてにせず自分の力で戦うと言った。それだけでもう十分だ」
「僕は、悪に心を支配されないって事?」
それは自分でも分かっていた、僕は強い人間ではないけど…悪い人間ではない。そう思っていた。
「あぁだから今はお前に力を貸してやれる、いや力にならせてくれ。俺もゼノムに利用されるなんてゴメンだからな」
『悟君、どうかオーフェルと共に戦いゼノムを倒してください。残念ながら今の私は君の本来の力を出すことで精一杯です。一緒に戦うことは出来ませんが、どうかオーフェルを信じてあげてください』
するとオルセス様はまた光の玉に戻り僕の中へ入っていった。僕はようやく理解した。今までの事もこれからすべきことも。
「さぁ俺がお前の目を覚まさせてやるからお前は目を覚ましたらこう唱えてくれ。『腕輪に眠りし魂よ、我との契約の下、今ここでお前を解放する、開け……黒天の腕輪』とな、それで俺はお前の力になれる。俺の事は『オーフェル』と呼んでくれ」
「わかったよ、オーフェル。ゼノムを倒すために君の力を貸してくれ」
「あぁ、そんじゃあ、また後でな」
オーフェルがそういい残すと僕の腕輪の中へ吸い込まれていき、その瞬間に僕は目を覚ました。
~そして時は現在へ戻り~
ある程度はわかっていたけど……ここまでひどいなんて。けどみんなまだ生きてる、少しだけどみんなの魔力を感じることができた、これもオルセス様のおかげかな。体から力が漲ってくる。
「そうか、話は大体分かったよ悟君。君も、その狼も僕の敵になるってことだね?じゃあ君たちもあんなふうに潰してあげるよ、この邪王でね」
「潰されるつもりは無いよ、お前は僕が倒す!」
オーフェルが屈みこんで僕はその背中に乗った。意外にも心地よかった。
「行くぜ!悟!」
オーフェルが邪王に向かって走り出した。
これで悟君の魔力の秘密、語りかける者、黒天の腕輪、クロードの不可解な発言の伏線が回収できました。次回はようやく水の第四魔法と雷の第五魔法が出ます。そして物語りも佳境へ!