僕は君を全力で倒すよ
白い柱から出てきたのは動物ではなく背中から大きな翼のはえたシュレイナだった。そしてシュレイナもまた無意識に呪文のように呟いた。
『我の中に眠る神聖なる風の守護神を我に力を与えたまえ。風帝・黄流』
その翼は純白で神々しく光輝いていた。
「これはまさかあの時の魔法か!まさか自分から呼び出すなんて」
クロードの言うあの時とは一回戦で悟の魔力を吸収し一時的に使うことが出来た魔法のことである。
「怒りで魔力が増幅したのか、けどこれならゼノムに勝てるかもしれない」
そんなクロードの思いとは裏腹にシュレイナはグロッツの死を嘆き怒りと憎しみが増幅していた。
「憎い……おじいちゃんを殺したあいつが憎い……殺してやる!」
シュレイナの憎しみで純白の翼はどんどん穢れて黒く染まっていく、そして緑色だった眼は赤くなり瞳は黒く、血の涙を流していた。その姿はまるで……悪魔のように。それを見ていたゼノムは。
「っち、勢いで風帝を出しやがったか、だがそれも完全に制御はできてないようだな、怒りで我を忘れている、そうだ、最後に俺もおもしろい物を見せてやろう」
セノムはそう言うと手からあの黒い塊を出した。
『我の中に眠りし地獄の民よ、今こそ憎き天界の民を滅ぼすために姿を現せ。黒帝・邪王』
手から出た黒い塊は中で何かが暴れているように不気味にうごめいていた。
「この邪王に本当の姿はない。俺の思うがままに形を変える」
やがて邪王は巨大な鬼に姿を変えた。
「そんなもの関係ない!おじいちゃんの仇をあたしがとるんだ!」
シュレイナは攻撃態勢に入っていた。
「よせシュレイナ!その邪王でグロッツ様は…」
「うるさい!!」
クロードの言葉を遮りシュレイナは一直線にゼノムへと突っ込んでいった。
「馬鹿め…やれ邪王」
「グォ……グロロオォォォ!」
邪王の咆哮に耐え切れずにシュレイナに一瞬の隙ができた。邪王はそのままシュレイナを掴み地面へ叩きつけた。シュレイナは防ぐことも出来ず翼も消えた。
「シュレイナ!」
「ったく、手間かけさせやがって、お前もだよ裏切り者」
「っくそ!」
邪王の足にクロードも踏みつけられ瀕死の状態だった。
「お前らもだよ、鬱陶しい奴らめ」
最上級呪文を使い立ち上がることも出来なかったカネアたちも成すすべなく邪王の餌食となりそこに立っているのはゼノムだけとなった。
「ふ~やっと終わったか、さてと、悟君を連れて行くかな」
~悟の視点~
僕が眼を覚ますとそこは惨状だった。みんなが倒れたまま動かない状態で、そして立っているのはゼノムのみだった。
「何だ、悟君、眼を覚ましたのか、どうだい?この状況は…素晴らしいだろ?」
「みんなを…こんな風にしたのは……君なの?」
「まぁ全員がそうじゃないけど……大体は僕の仕業だよ、これで君は完全に一人だ。さぁ僕と一緒に地獄界へ来てくれるかな?」
ゼノムが僕のそばへ来て手を差し伸べる。僕はこんなにも激しい怒りを感じたのは初めてだった。ポケットに手を入れて、あの鍵を取り出す。
「君と地獄界に行くなら……僕はあなたを信じます、オルセス様」
「悟君?一体何を?」
そのまま僕は腕輪の鍵穴へ差し込み鍵を回し呪文を唱えた。
「腕輪に眠りし魂よ、我との契約の下、今ここでお前を解放する、開け……黒天の腕輪!」
次の瞬間腕輪は僕を中心に黒い光はあたりを埋め尽くした。やがて光が収まるとそこには……。
「な、なんだこいつは!?」
ゼノムは目の前には巨大な黒い狼がいた。その目は全てを凍てつかせるよな冷たい金色の目をしていた。初めは驚いていたがすぐに冷静さを取り戻した。
「なんだ、僕に協力してくれるんだね、それならそうと言ってくれれば良かったのに、いきなり腕輪の力を解放するから驚いたじゃないか」
僕は何も応えない、何も口にする必要が無いからだ。ただ一言……。
「やって、オーフェル」
僕がそう言うと狼は前足で軽くゼノムを吹っ飛ばした。
「うわっ!な、何だ!?どういうつもりだい?悟君」
「さっきからうるせえ奴だな、地獄人ってのはこんなにお喋りな奴だったか?」
代わりに応えたのは狼だった。ゼノムはその言動に驚きを隠せなかった。
「いいよ、オーフェル、僕が説明するからさ、それに僕はまだ君を信用したわけじゃ無いからね」
「っは、分かってえよ。それじゃあお前の口から説明してやれ」
「言われなくも分かってるよ……ゼノム、初めに言っておくけど今から話すことを信じるも信じないも君の自由だけど……この話が終わったら、僕は君を全力で倒すよ」
ついに悟君の登場です!!新たに得た力の真実とは、そして突然出てきたオーフェルは、オルセスを信じるとは一体どういうことなのか?次回は悟君がゼノムに眠らされる所から始まります。