これで本当に終わりよ
時は十三年前に遡る。グロッツ様は空間を断ち切られたはずの天界と地獄界をオルセスの神器で繋げる事に成功した。そしてそこから兵を送り込み地獄界の調査を密かにしていたんだ。地獄界には奇跡的に生き残っている者たちがいた、しかしそいつらは天界人を恨んでいる者たちの意志を受け継いだ奴らだった。
天界人であることを確認するとすぐに襲い掛かってきた、しかし兵たちの相手ではなかった。結局天界人たちは地獄人を一人残らず滅ぼさなければならない事になった、そんな時に一人の兵に拾われた幼い地獄人がいた、それが俺だ。そしてその時拾ってくれたのが兵隊長だったシュレイナの親父さんだ。
親父さんは俺を城に連れて行きグロッツ様に相談して俺の面倒を見てくれるようになった。最初は俺の中の地獄人の血がそれを許さなかった。何で天界人に育ててもらわなくちゃいけないんだって何度も襲い掛かった。それでもそんな俺を親父さんは見捨てなかった。
「すまなかったな、お前の種族はもうほとんどいないかもしれないが、俺にもお前と同じくらいの娘がいるんだ、お前を見てると放っては置けなくてな」
それから十年が過ぎ俺は地獄界の案内役、そして生き残っている地獄人と接触するために調査について行くようになった。最初は嫌々だったが親父さんに頼まれると何故か断れなかった。
それでもなかなか生き残っている地獄人は居なかったがそんなある日の調査に行ったときだった、そこは天界人には有害なガスが溢れている所で天界人の兵は近づけない場所だった。そこで久しぶりに生き残っている地獄人を発見したのは。その男は倒れていたが意識はあった。
「あんた、大丈夫か?」
「う、うぅ何だよお前は?また天界人の奴らか!?」
「俺は地獄人だ、今は天界で暮してるんだけど、あんたもどうだ?」
「お前、地獄人のくせに天界人と暮しているだと?それでもお前は地獄人か!?」
男は近くにあった剣を拾い上げて立ち上がった。
「い、いや、俺は天界人に救われたんだ。だからあんたも助けようと……」
俺は一瞬恐怖を感じた、同じ地獄人のはずなのに、この男は俺を殺そうとしている。
「クロード、もういい!そこから離れろ!」
「わ、わかった!」
俺は逃げるようにして男に背を向けたが俺は捕まってしまった。
「お前はもう地獄人の敵だ、俺らの種族を滅ぼしたあいつらと同じだ!」
「い、嫌だ、放してくれ!」
「俺達の恨みを死を持って償え」
「クロード!」
そんな時にまた俺を助けてくれたのが親父さんだった。親父さんは一瞬で俺の近くまで来て助けてくれた。天界人には有害なガスが出ているというのに親父さんはものともせずに、俺を助けてその地獄人を相手に戦った。しかしそいつは他の地獄人に比べて強かった。
「お前達はクロードをつれて先に帰れ!」
親父さんがそう言うと他の兵士はロベルト様なら大丈夫だと俺を連れてそこから離れた。俺は親父さんを信じていた。けど親父さんは帰っては来なかった。いや天界には帰ってきたけど近くの森で発見され城に着いた時には帰らぬ人となっていた。どうやら兵たちはすでに覚悟を決めていたらしい。地獄界の調査に死者が出ることは稀ではなかったらしい。俺の知らないところで何人かの兵は地獄人や有毒ガスにやられていたんだ。
俺はその日ずっと泣いていた。けどそんな俺を蹴っ飛ばしたのが。
「いつまで泣いてんのよ!」
シュレイナだった。何かと俺に突っかかってくる奴だったけどここまでとは。
「お前、親父さんが死んだんだぞ!何とも思わないのか!?」
「地獄界を調査する兵士なんだからいつ死んでもおかしくはないのは分かってたわよ。それでも…受け入れるしかないじゃない」
そう言うとシュレイナは自分の部屋に閉じこもって誰にも気付かれないように一人で泣いていた。その時俺は決めた。今までの親父さんへの恩を返すために、そしてシュレイナを泣かせないために、もっと強くなるってな。
~そして現在~
それから数年が過ぎて今回の戦いに地獄人が紛れ込んでいる事を聞いて自分からスパイになる事をグロッツ様に提案した。最初は渋っていたが俺の決意は変わらなくグロッツ様も認めてくれた。
「そして現在に至るってわけだ。まんまとお前は俺達に騙されたって事だよ」
「くそっ、なめやがって!もうお前らは絶対に許さねえ!全員葬り去ってやる!」
「いや、葬り去られるのは…お前の方だ…ゼノム」
「なんだと?」
「もう準備はいいか?シュレイナ!」
いつの間にか遠くにいたシュレイナにクロードが声をかける。
「いいわよ!みんなもカルマとあんたの長い話のおかげで回復できたしもう詠唱も終わるわ!」
ゼノムが周りを見渡すとそこにはさっき獣化した子供たちにやられたパートナー達が囲んでいた。
「悪いなゼノム、この最上級魔法は五属性全ての魔力混合とそれぞれの属性のやたら長い詠唱と大量の魔力がいるんだ、シュレイナとカルマでみんなを回復させたし、後はカネアの詠唱を待つだけだ」
「何!?」
ゼノムがカネアの方を見る。カネアは最後の詠唱に入っていた。
「我らに力を宿し全ての闇に裁きを与えよ!」
「コミル、マレーサ、ネルザ、カネア!行くわよぉ!」
シュレイナがそれを確認するとみんなに合図をし五人同時に魔法を唱えた。
『五属性大混合魔法!魔法使いの裁き』
その瞬間にゼノムの立っている場所を中心に丸の中に五角形とペンタグラムの魔方陣が浮かび上がりそこから天高く五角形の光る柱が立った。その中にいるゼノムは。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「これで本当に終わりよ、ゼノム!」
「う……うぅ、こんな所で……俺は……負けるのか?……そんな事が……あってたまるかぁ!!」
ゼノムが叫ぶと柱はゼノムの体から黒いオーラで消し去られゼノムはそこに倒れていた。
「そんな、最上級魔法が負けるなんて!」
黒いオーラを身に纏いながらゼノムはゆっくりと立ち上がりシュレイナに近づく。
「もうここからは全力だ、魔力の続く限り暴れまわってやる、そしてシュレイナ、あんたもじいさんと同じ所に送ってやるよ」
「同じところって何よ、おじいちゃんは地獄界にいるんでしょ?」
「あぁ確かに地獄界にはいるが、もうこの世にはいないかもなぁ」
ゼノムの言葉にシュレイナが硬直した。
「何よそれ、何でそんなことが言えるのよ!?」
「さっきのクロードの話を聞いてなかったのか?地獄界には天界人には有害なガスが出てるところがあるんだぞ?そこに長時間縛られてたらどうなるかな?」
「まさか……」
シュレイナの手が震えていた。
「そうだな、親子三代そろってあの場所で死ぬのもいいかもな。俺がつれってってやるよ、それとも自分で行くか?」
「いや……おじいちゃん、お父さん……イヤアァァァァ!!」
シュレイナが叫ぶと足元から葵たちと同じように柱が現れその色は白色だった。
シュレイナの父親はもともと登場させないつもりでしたがクロードの回送を書くのを決めた時にクロードが何かのきっかけを掴むために登場させることにしました。そして次回はシュレイナがついに覚醒します。あの時使っていた魔法の真実が明らかに。