一人じゃ何も出来ない弱い人間です
グロッツ様がそのまま僕を観察していると、僕の手元を見て目を見開いた。
「き、君!その腕輪をどこで見つけた!?早くはずしなさい!」
血相を変えて僕の腕を掴んでくる。
「落ち着いておじいちゃん、あたしが説明するから」
シュレイナがグロッツ様を抑えて再び座らせ、腕輪の経緯を話した。そしてグロッツ様も落ち着きを取り戻して……。
「う~む……して悟君とやら、本当に何とも無いのか?」
「はい、ただ……」
「ただ……なんじゃ?」
僕は夢で起こったことを言おうか迷っていた。
「悟、何かあったの?」
シュレイナが心配そうな顔で僕を見た。
「実は………」
僕は夢で起こったことを話した。そしてポケットからあの鍵を取り出し、机の上に置いた。
「これがその鍵です」
グロッツ様が手にとって観察する。
「ふむ、見たところ普通の鍵と変わらんが……」
「何で言ってくれなかったのよ!そんな大事なこと」
シュレイナが僕の肩を掴んで詰め寄った。
「そ、それは…」
「シュレイナたちに心配かけたくなかった……だろ?悟の性格から考えてそう考えるのが普通だろう」
さっきまで黙って話を聞いていたカルマさんが代弁してくれた。
「………はい」
「そうだったの…ごめん、悟」
「いいよ、僕の方こそごめん」
僕らが互いに謝っているところにグロッツ様が提案を持ち出した。
「悟君、その獣というのはおそらく腕輪の意思が具現化した物じゃろう、悟君、もし不安ならばわしがその鍵を預かろう」
グロッツ様が手を差し出した、しかし僕は断った。
「いえ、大丈夫です。自分のことは自分で何とかします」
グロッツ様は出していた手を引っ込めると。
「そうか、それならよいが…いや、その方がいいかもしれんな、理由は分からんが腕輪は悟君の前に現れそれを着けた悟君は今もなお正気で居られる、必然だったかもしれんな」
グロッツ様が言い終えるとシュレイナが話を切り出した。
「おじいちゃん、それで、もう一つの話なんだけど多分あたしと考えてる事は一緒だと思う」
「そうか、なら話が早い、他でもない地獄人のことじゃ」
やっぱり、グロッツ様も地獄人に気付いていたんだ。
「奴の力は並じゃない、さっきの戦いも…おそらく人間の子供たち全員に幻覚を見せたんだろうそれ強力な」
「カルマじゃったな、お主には感謝しておる。よくぞあそこで出て行ってくれた」
「俺も奴には警戒してたからな、何かやってくるだろうって」
強い幻覚を見せて見方同士で戦わせる……そんな相手に僕らは勝てるんだろうか。僕の不安な表情を見て察したのかシュレイナが僕の肩にポンと手を置いた。
「大丈夫よ悟、あたし達のチームにはそんな幻覚なんて通用しないくらいみんな強いんだから」
「左様、あの幻覚は心に弱みがある者に掛かりやすいのじゃ、少なくとも悟君と先ほど戦っていたもう一人の娘はそれが無い、実に見事な戦いじゃった」
心に弱みのある者……。
「僕は…強くなんかありません。僕は…一人じゃ何も出来ない弱い人間です」
現に僕はその地獄人が恐ろしく思えた、できれば戦いたくは無かった。
「では聞くが…君は何故その鍵をわしに預けなかったのじゃ?」
「そ、それは」
「わしには分かる、君は自分の事なのに他人に迷惑はかけられない、そう思ったんじゃろう?」
「…はい」
「それだけで充分じゃ…そうじゃ、今日はみなでわしの城に来なさい。ここでゆっくり休めばよい」
グロッツ様の城へ?
「そ、そんな、いいですよ僕達はっ」
僕が慌てながら断ると。
「いいじゃない別に、ここはあたしの城でもあるんだから、お言葉に甘えましょ」
「そうかな、じゃあ」
僕らは全員グロッツ様の城に泊まることになった。
本日は2話連続UPです。次回は少し過去の話をしようと思います。クロードも久しぶりに登場します。感想待ってます!!