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第149話:圧倒する光(ハッキング・ゴッド)

【舞台:オリジンの中枢 ―― 神域の崩壊】


 黄金の光を纏ったアスカが空を歩むたび、オリジンの氷壁に刻まれた銀色の数式が、まるで古い皮膚が剥がれ落ちるように崩壊していく。

 神ステラは、かつてない狼狽を隠せなかった。彼女の手から放たれるあらゆる「絶対命令」の術式は、アスカの周囲に展開された黄金のフィールドに触れた瞬間、意味を失い、霧散していく。


「馬鹿な……。私はこの世界の法。私の演算は、存在することと同義であるはず! なぜ書き換えられない……なぜ、貴女というエラーを排除できない!?」


 ステラが叫ぶ。


 彼女は全リソースを注ぎ込み、アスカの「存在定義」そのものを消去しようと、巨大な光の槍を無数に生成した。


「ステラ、あんたの言う『法』は、もう古いバージョンなのよ」


 アスカは優しく微笑み、右手をそっと宙に掲げた。


「これより、管理者権限の委譲を開始する。……第1階層:環境制御。第2階層:因果律維持。第3階層:魂の輪廻。……すべて、私の『黄金の論理』でオーバーライド(上書き)させてもらうわ」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【舞台:ハッキング・ゴッド ―― 権限剥奪】


 アスカが指を弾く。 パチン、という乾いた音がオリジンに響いた瞬間、ステラの背後にあった銀色の翼が一本、また一本と黄金色に変色し、そのまま砂のように崩れ去った。


「な……っ!? 私のアクセス権が……拒絶されている……?」


「当然よ。今の私は、あんたが切り捨てた『無駄』な感情のすべてを演算の燃料にしている。あんたが独りで積み上げた数千年分なんて、みんなと過ごしたたった一日の熱量に勝てないわ。……さあ、次は『時間軸の固定権』、もらうわよ」


 アスカの瞳には、膨大なデータストリームが流れていた。だが、以前の無機質なそれとは違う。それはエルムの街の喧騒、ゼノスの笑い声、シュシュの鳴き声、そしてリサの小言……それらすべてがコードとなって、ステラのシステムを内側からハッキングしていた。


「レイ、今よ! あんたの『不服従』で、この堅苦しいシステムの壁を全部ぶち抜いて!」


「はい、アスカ! 全力で行きます!!」


 レイがアスカの隣に並び、ロイヤルブルーの輝きを爆発させる。 アスカが理論で壁を溶かし、レイが意志でその中へ踏み込む。二人の完璧な連携により、ステラが守ってきた「神の牙城」は、砂上の楼閣のように脆く崩れ去っていった。


「管理権限、80パーセントを移譲。……ステラ、あんたはもう、誰も縛れない」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【舞台:自由への解放 ―― 管理から意志へ】


「やめなさい! 秩序を失えば、世界は再び混沌に飲み込まれる! 人間にそんな重責を負わせるというの!?」


 必死に叫ぶステラに対し、アスカは慈しむような、けれど揺るぎない眼差しを向けた。


「そうよ。重いし、間違えるし、傷つくわ。……でも、それが生きるってことじゃない。リサは居候のくせに、私にそれを教えてくれた。ゼノスは元皇帝なのに、一軒の古本屋を守ることに命を懸けた。シュシュだって、猫のくせに一番威張って生きてる」


 アスカは一歩、ステラの目の前まで踏み込んだ。


「ステラ。あんたが怖がっている『混沌』は、私たちにとっては『自由』っていう名前なの」


 アスカの手がステラの胸元に触れる。


「ラスト・ハック。――世界の所有権を、各々の意志インスタンスに返却する」


 瞬間、オリジン全体が眩い白光に包まれた。 ステラが独占していた世界の管理権限が、細かな光の粒となって、世界中へ、一人一人の人間、一匹一匹の生き物へと、本来あるべき場所へ還っていく。

 それは、神が支配する「完璧な庭」が終わり、不完全な人間たちが明日を作る「荒野」が始まる合図だった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【ラストシーン:雪解けの静寂】


 光が収まった時、オリジンの刺すような冷気は消えていた。 ステラの周囲にあった神々しい装飾は消え、そこにはただ、途方に暮れたような表情の少女が一人、宙に浮いているだけだった。


「……終わったわ。ステラ」


 アスカはレイの手をぎゅっと握り直した。


「これからは、もう誰のせいにもできない。毒を溜める必要も、誰かを間引く必要もない。……全部、私たちが自分で決める世界よ」


 天井からは、本物の雪が、音もなく降っていた。それは「忘却の吹雪」ではなく、ただの冬の終わりの、静かな雪だった。


「アスカ……」


 レイがアスカの肩に頭を預ける。二人とも、魔力は使い果たし、立っているのが精一杯だった。けれど、その表情は、セレスティアのあの日よりもずっと晴れやかだった。


「さあ、帰りましょう。……みんなが待っている、あの埃っぽい古本屋へ」


 アスカは微笑み、遠く南の空を見つめた。 黄金の光が消えたオリジンには、アスカとレイの確かな足跡と、自由へと解き放たれた世界の、微かな息吹が満ちていた。


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