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第100話:シュシュの隠密工作 ―― 痛みの震源地

【舞台:聖都セレスティア外縁 ―― 隠された地下回廊】


「断罪の門」を、物理的破壊ではなく「存在意義の抹消」によって無力化したアスカ一行は、王都を囲む白銀の城壁へと迫っていた。しかし、アスカは正面突破を選ばない。彼女の視界に広がる演算ウィンドウには、聖都の地下から噴き出す異様な魔力の奔流が、黒いノイズとなって映し出されていた。


「……いい、シュシュ。ここから先は物理的な壁より、概念的な『淀み』がひどいわ。私の魔力スキャンでは、司教たちに逆探知される恐れがある。……あなたの『鼻』が頼りよ」


 一行が辿り着いたのは、聖都近郊の打ち捨てられた廃村。その中心にある古井戸の底に、アスカは隠された魔法回路の入り口を見抜いていた。


 シュシュは、闇に沈む井戸の底を見つめ、瞳を細める。


「任せてくださいニャ、アスカ様。……でも、ここから漂ってくる臭い、最悪ですニャ。白百合の香りで塗り潰そうとしてるけど、その奥底に腐った薬草と、数万人分の『湿った絶望』が混ざったような……鼻が曲がりそうなおりの匂いがするですニャ」


「レイ、あなたはここで待機。私の結界の中にいれば、あなたの『死のタイマー』は安定するわ」


「……はい。気をつけて、シュシュさん。そこは……聖女の継承が行われる際、私たちが最初に『みそぎ』を受ける場所の近くかもしれません」


 レイは不安げに、純白のドレスを纏うアスカの背中を見つめた。アスカは無言で頷き、シュシュに合図を送る。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【舞台:地下深く ―― 痛みの転送装置『アニマ・ドレイン』】


 シュシュは音もなく闇を駆けた。 湿り気を帯びた石造りの回廊は、地上とは比較にならないほど重苦しい空気に満ちている。壁面には、血管のように蠢く赤黒い魔力ラインが走り、それがすべて奥の一点へと収束していた。


「……これですニャ。このラインが、全国民の『痛み』を運んでいる運河ですニャ」


 シュシュは鼻をひくつかせ、迷路のような回廊を抜ける。たどり着いたのは、広大な地下空洞だった。そこには、数千、数万の魔石が幾何学的に配置された、巨大な逆円錐形の魔導装置が鎮座していた。


 装置の中央では、赤黒い雷が絶え間なく爆ぜ、気味の悪い脈動音が空洞内に響き渡っている。それは「癒やし」という名の搾取を支える、聖教国の心臓部そのものだった。


「……うわぁ、エグいですニャ。これが聖教国の『奇跡』の正体かニャ」


 シュシュが目にしたのは、装置に刻まれたおぞましい術式だった。それは病や怪我を「治癒」するのではない。国民から「剥がし取り」、一時的にこの装置へ「プール」し、それを極細の魔力線へと変換して、一人の聖女へと強制転送する――まさに『痛みの処理工場』だった。


「誰だ! 異端の獣か!」


 背後から、白銀の法衣を着た司祭たちが現れる。彼らは装置のメンテナンスを担う技術僧たちだった。


「ニャっ! バレたかニャ。でも、お掃除の時間にはちょうどいいですニャ!」



 シュシュは黒い閃光と化した。


「痛いのは嫌いだニャ? だったら、あんたたちも少しはレイ様の苦労を味わうがいいニャ!」


 魔力を纏ったシュシュの鋭い爪が、司祭たちの杖を次々と両断する。さらに、装置の冷却管を一本、強引に引き抜いた。 プシュゥゥ! と耳障りな蒸気が吹き出し、装置の脈動が一段と激しくなる。


『シュシュ、聞こえる? 座標を確認したわ』


 脳内に直接、アスカの冷静な声が響く。


「バッチリですニャ、アスカ様! ここが震源地。国民の『デトックス』なんて綺麗なもんじゃない、ただのゴミの押し付け合いの現場ですニャ!」


『……やはりね。論理的欠陥どころか、これは意図的な搾取だわ。シュシュ、そのままマーカーを設置して撤退しなさい。……あとは、私がドレスの裾で掃除してあげる』


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【舞台:地上 ―― 崩壊の予兆】


 シュシュが地上へ飛び戻ると同時に、聖都の石畳が大きく揺れた。 地下の装置『アニマ・ドレイン』の循環が乱れ、処理しきれなくなった「痛み」の余波が、地上へと漏れ出したのだ。


「……っ、ああ……!」


 レイが胸を押さえて膝をつく。彼女の体内に蓄積された数万人分の痛みが、地下の本体と共鳴し、暴走を始めようとしていた。


「レイ、大丈夫よ。演算は終わったわ」


 アスカは、純白のドレスを翻しながらレイの傍らに立った。彼女の指先が空を切り裂くと、地下の装置を直接「停止デリート」するための、数千の赤い数式の矢が地上に展開される。


「……シュシュ、よくやったわ。不潔なゴミ捨て場の場所は完全に特定した」


 アスカの瞳には、かつてないほどの激しい怒りが静かに燃えていた。


「レイ、安心して。この国の『痛み』を吸い上げる心臓ポンプ、今すぐ私が止めてあげる。……たとえ、それでこの国の『偽りの平和』が明日から崩壊することになってもね」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【ラストシーン】


 アスカが指先を振り下ろした瞬間。 聖都の地下から、大地を揺るがす絶叫のような破壊音が響き渡った。地下の装置は、物理的な衝撃ではなく「構造そのものの否定」によって粉々に破砕された。逆流した膨大な負の魔力が、聖都の夜空へと一気に噴き出し、初夏の澄んだ空を、不気味な赤紫色――「因果の拒絶反応」という名のノイズで塗り潰していく。


「……始まったわ。レイ、これが『救済』の第一歩。……痛いわよね? でも、それはあなたが生きている証拠だわ」


 赤く染まる夜空の下、純白のドレスを纏ったアスカは、衝撃で泣き出しそうなレイを抱きかかえながら、混沌へと突き落とされた聖都を見据えていた。それは聖女を救うための、あまりにも残酷で、論理的な破壊の序曲だった。


 アスカの瞳に宿る光は、すでに次の「添削対象」――大聖堂の頂で震える最高司教を捉えていた。


いよいよ、次回はアスカと最高司教グラシウスとの、それぞれの信念を賭けた戦いが始まります!

ぜひ、次回もお楽しみに!


さて、この『最強の美少女賢者アスカの「最適解」』は、皆様の熱い応援により、無事100回を迎えることができました。本当にありがとうございます。

今後も、よりよい作品にすべく頑張っていきますので、応援のほど、よろしくお願いいたします!


少しでも『続きが気になる』『面白い』と思っていただけたら

ぜひページ下部の評価(☆☆☆☆☆)やブックマークで応援をお願いいたします。

皆様の応援が、完結までの大きな原動力になります!!


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