第九話 ガチ無理すぎる設定
「最上様、おかえりなさい」
俺の知り合いではあるが、見たことのないほど、きちんと正装が整っている。
「白井……! なんで最上さんの家に。それになに『最上様』って」
おかしい。目の前の男は、毎日会っているはずだし……いたずら好きな男なのに。人間違いか? でも本当に白井に似ている。
「泉、中で話そうか」
もしかして、友達関係? たまたま今日、最上さんの家に遊びに来ただけかな。
俺はいろいろなことを妄想しながら、豪華な家の中を見回る。
白井は俺をリビングのソファに座らせた。広くて何人も座れそうな広さで、高級な革でつくられている。
「泉さ……今まで隠してごめん。説明するとダルいけど、俺の父は最上家の執事で……俺はしょっちゅう最上さんちに泊まることがあるんだ。この家の中だと『最上様』って呼んでる」
「いやなにその情報!? 知らないんだけど」
なんだよこれ、親友はじつはとあるお嬢様と関わり深い人だったみたいな隠し事? それにそのお嬢様は俺の……彼女じゃねえか。
「ああ、申し訳ないわ。自分の身分を言うのはまずいかなって」
「そ、そうか……同居してるの?」
「まあ、たまには同じ家で泊まるけど、今日はたまたま最上様の家に泊まることにしたの。それに……これ」
白井は彼自身のカバンから一冊のなにかを取り出す。それは俺の見たことあるノートであった。
「俺がおまえのノートを盗んでた。最上様の指示で」
「えー!?」
だ、だからか! あの日、俺の机の隣でうろうろしていたのも盗むためなのか。
俺は背後にいる最上さんをにらんだけど、彼女は、テヘ、と笑う。テヘじゃねえよ。
「ごめーん。ピンチに陥ってしまった千里くんを助けて、私のことを惚れさせようとしてた」
「あれら全部演技だったのー!?」
やばい、情報過多だ。白井は最上さんとは関わり深い幼馴染で……俺のノートは白井が盗んだのか。
「まじごめん泉」
「無理」
信頼していた親友だったっていうのに。それよりも白井と最上さんの身分に驚いたわ。
白井はともかく、最上さんは非常にえらいお嬢様だったのか。
「どう? この新しい私を知って、さらに好きになった?」
なおさら怖いわ。こういうお嬢様って、親から厳しいこととか言われそう。特に今は無理やり最上さんと付き合っているから。
最悪、始末されたりとか……いやいや、そんなこと考えるな! 今は法治社会だ。
「白井、お茶を用意してきて」
「はい」
白井は一礼をし、リビングから離れた。間違いなく、俺は初めてこんな礼儀正しい白井を見た。
「千里くーん!」
最上さんは俺の隣に座り、ゆったりとソファでくつろぐ。
「はぁー! 今日は母さんいなくてよかったー。父さんはそろそろ帰ってくるかな」
「母さんは厳しい人なの?」
「うちの両親は私に厳しいの。勉強もそうだし、普段の学校生活とかも。こうして噛み砕いた話をするのはほんと白井と千里くんだけだからね!」
へー、と俺はうなずく。たしかにアニメの世界で見そうな設定だな。現実も他人から見た評判を気にしてそうだな。
「特にうちの父、すっごく怖いの。そろそろ帰ってきそうだから、早めに帰ろ」
「うん」
しかし次の瞬間、家の扉に鍵がささった音が響く。最上さんは思わず「しまった!」と言い、俺の手をにぎる。
すると、扉から一人のスーツ姿の中年男性が現れた。見た目は四十代だがすっきりしている。
「咲良……こいつは誰?」
ごくり、と俺はつばを飲む。男は俺の姿を見て、だんだんと顔が赤くなり、爆発しそうな怒りが伝わる。
「この男は誰だ!!」




