第六話 最上さん特製、脅迫デート
「最上、さん…………クゥッ……かわいいです」
「よろしいぃー」
なぜ俺はこの最上咲良という傲慢な仇敵に対して、素直にかわいいと言っているかと言うと――。
今朝の授業、ノートを忘れた俺に対して、彼女は俺のためにノートを作ってくれた。
なぜ俺のノードの事情を知っているのか、そしてどうやって俺のためにノートを作って、提出したのかを聞きたかったが。
「千里くんが『最上さん、かわいい』って言ってくれたら教えるよ」
「クソ……そこで待ってたのですか」
という、くだらないことがあって、放課後、彼女は俺の教室で俺と話している。
最上さんはかわいいのは事実だが、あまり口に出したくなかった。
「これでいいですよね……早く教えてください」
「咲良ちゃんって呼んで欲しかったけどねー……『最上さん』って堅苦しいじゃん」
「咲良ちゃん、かわいいです! もう、いいですか……?」
俺の声がだんだんと小さくなる。最上さんも満足そうに笑うけど、まだ何か言ってきそうな顔だ。
「まずは約束通り、デートしてから言うよ」
俺の血液が燃やされているように、イライラとした気持ちが燃え上がる。でも口を開いてくれそうにないし、最上さんならなに言ってもムダかも。
「わかりましたよ」
「じゃあどこ行く? 駅前のカフェとかどう?」
昔から行こうとして行かなかったカフェだ。それなら悪くない。俺は軽くうなずいた。
真冬の晴天は日光がよく当たるけど、手足が寒くなる。最上さんと帰り道に歩き、なんだか本当の恋人みたいな雰囲気になってしまった。
「千里くん、手、寒いかな?」
「ん? ああ、ちょっとだけですけど……」
「手貸して」
最上さんは俺の手をにぎり、雪に近い色の両手で俺の手を包む。
あたたかい、そしてやさしい。
「最上さん……ありがとうございます」
「ううん。そんな他人行儀にならないでよ、恋人なんだから」
なんだか、本当にこのままでいいかも。
でもな、やっぱその傲慢な笑顔を見てられねえよ。
「私ね、ずっと恋人とこんなこと、したかったの。私がありがとうっていうべきだよ」
「恋愛、生まれてから一度もしたことないですか?」
「そうだよ。上品な美少女という役目だけでなく、私の家の事情もあったのよ」
家の事情……恋愛禁止とか、厳しいルールがあるのかな。でもなんで俺と付き合いたいんだ?
ゆったりと歩いていくうちに、あっという間にカフェの前についた。
「入ろっか! 今日は私の奢りで」
「いえいえ、俺が奢りますよ。どうやったかは別として、俺を助けてくれたのは事実ですし」
「まあまあ、席に座ろ」
俺たちは窓側の二人席で向かい合って座る。最上さんはメニューを見て悩みこむ。
「うーん。なににしよっかなー。カフェオレにしよっかな」
「俺もそれでお願いします」
「おっけー」
注文した後、しばらく時間が経つ。テーブルの上に二杯のカップが並べられる。
「いただきます」
俺は甘いカフェオレを口の中に含む。あたたかくて、香ばしい匂いが広がる。
「千里くんってさ」
「はい……?」
「間接キスとかいける?」
なにを言っているのだ、最上さんは。
すると最上さんは彼女自身が口をつけたカップを、俺の唇に近づける。
同じ香りのカフェオレだが、俺の心臓の拍動が速くなる。
「ん!?」
やっぱこの人の行動を予測するのは不可能だ。




