第五話 なんで持ってんの
まずいまずい……ノートがない。
先生は一人ずつノートを回収してくる。順番が回ってくる前に探し出したいけど、近くのどこにもないよー!
「泉、ノート出して」
ごくり、とつばを飲む。先生が目の前まで来ていた。崖に蹴り落とされたように、俺は両手の動きを止めた。
「すみません……忘れてしまいました」
「はあ? 泉……おまえ成績いらねえのか? ふざけんな」
俺は何回も「すみません」のセリフを繰り返し、先生は俺を飛ばして他の人のノートを回収しに行く。
「泉、おまえノート忘れたんかよ……あれだけ俺のこと言っておいて」
白井がこそこそと俺に声をかける。
「やったはずなんだけどな……心配かけてごめん」
「いいけど、次は気をつけろよ。おまえならテストで挽回できると思うよ」
いや、きっと無理だろう。この先生は成績に厳しい。この学校は五段階評価だが、おそらく四か三になってしまう。
得意科目でしくじったな……家に帰ったらしっかり探そ。
「泉以外の人のノートを回収してきたから、これから授業を開始するぞー」
にしても、うぜえな……俺がそう思っていると、教室の外からある人が走ってきた。
「失礼しまーす! ごめんなさーい!!」
その姿は最近になってから、よく見るヤツだ。学年一位の美少女――最上咲良。
彼女は、はあはあ、と荒い息を吐く。手にはあるノートをにぎっていた。
「ごめんなさい、千里くんのノート、私が持ってました、勉強の参考にしてて……へへ」
へへ、じゃねえよ。なんで持ってんだよ! でもよかった、これでおそらく成績は下がらないだろう。
「はあ? 授業後、しっかりと泉に謝りなさい」
「わかりましたー!」
反省の態度を見せず、無垢な笑いをしながら教室から出た。
てかまず、授業中に他クラスに入るなよ。
「泉、誤解して悪かった、じゃあ授業やってくぞ」
今日の授業は普段通りに受けることができた。授業後、ノートの確認も終えたので、先生が俺の手に返しにきた。
「泉、ノートを無くしたの? 前のはまだ書けそうだったけど、これは新しいノートだね」
「え……」
俺はノートを受け取り、先生は俺の視界から離れた。
新しいノートだ……筆跡も、薄くて俺の字じゃなさそう。でもたしかに名前は『泉千里』と書かれている。
間違いなく、これは俺のノートではない。
「まさか……最上さんが俺のために書いてくれたのか?」
俺は声を漏らす。でもおかしい。最上さんは俺のノードの事情を知らないはずだ。
「はあ……どうなってんだよ」
結果オーライだったけど、この件は深く心の奥に刻んでおいた。そして俺は次の授業の準備に行った――。
――とある男の視点――
「これで、最上様の命令を遂行することができたか……でも、怪しまれるかな」
ある男は古くてよく使われたノートを持っていた。ノートの表紙に『泉千里』と書かれている。




