第三十一話 泉千里は悪い男です
「いいわよ! 泉くんが負けたら、すっごい高級なカカオ豆でつくってもらうわよ」
「いいです『わよ』、負けたらそっちもちゃんとつくってくださいね」
「口癖まねするのうざい!!」
玉緒さん、手が震えてて、頬を膨らませている。まあ、俺は最上さんのからかい癖を感染してしまったのかな。
※
「うそだ……この俺が……!!」
「わ、わわ、私……泉くんと……!!」
五段階評価の成績表。その結果は想像もしてなかった。
玉緒雪、化学のみ四、他は五。俺は……現国のみ四、他は五の評価……つまり、同点……?
この俺が、勉強で同点を取られるなんて!!
「玉緒さん、やるじゃないですか、まあ、同点ですけどね」
しかし玉緒さんは目がピカッと光り、ぴょんと跳ね上がって祝福する。
「きゃー! もう大満足よ。あのガリ勉の泉と同点なんて。いいよ、チョコつくってあげるわ」
玉緒さん、なんだあの目から滲む幸福……まるで絶品のスイーツを食ったときの顔じゃん。クソォ!!
「俺も、今日の放課後、つくってきますよ」
「せっかくだからさ、今日中に渡そうよー。私も泉くんがつくるチョコ、食べてみたいなー」
「わかりましたよ……」
※
放課後、俺は家に帰り、キッチンに立つ。
わかりました、と言ったものの、チョコなんてつくったことねえよー。
カカオ豆とか、ココアとか、どこで買えばいいんだ? 作り方もさっぱりだし……さすがに市販で売っているチョコはダメだし。
とりあえず、外に行ってみる? いや……それだと間に合わない。
「もー、どうしよ。てきとーに買って、自分で包装すれば……」
いや、せっかく贈るなら少なくとも自作のものがいい。玉緒さんもきっとそう思っている。
勉強はともかく、チョコのクオリティで負けたら、恥だぞ。
頭を抱えた俺は、チラッと食卓にあるキャンディーを見た。
あれでなにか作れるのかな。キャンディーも溶かせそうだし……そうだ、同じ砂糖だし、いけるでしょ。
「チョコでないチョコ――世界で唯一のチョコをつくってやるよ、玉緒さん」
いくつかのキャンディーを取り、スプーンに乗せる。
カチャ。火にかざして、スプーンを熱する。
数分で液体になったキャンディーを、板チョコの容器に入れる。
「ふぅー」
キャンディーが少しあふれて形が崩れたけど、冷蔵庫に入れた。
※
しばらくして、冷蔵庫から『板チョコ』を取り出し、アルミホイルで簡単に包装する。
「よし、待ってろよ、玉緒さん。集合時間は、十八時だから……あと三十分で駅だ! 早くいかないと」
もちろん――俺は試食をしない。
家から駆け出し、駅に向かう。
夕日の下、駅にはたくさんの人が歩いている。着いたときには、もう玉緒さんが待っていた。
「お待たせ、玉緒さん」
「こんだけ待たせて……さぞおいしいチョコをつくったんでしょうね」
「もちろんです! どうぞ」
俺は自作の『チョコ』をそっと彼女に渡す。アルミホイルの包装を見て、玉緒さんは目を小さく開く。
「なにこれ……」
「食べてみてください」
玉緒さんはアルミホイルを外し、中身の透明で色鮮やかな『チョコ』を見つめる。
「これ、チョコじゃないわよね?」
「キャンディーですよ。食べてみてくださいよ」
玉緒さんがその『チョコ』を口に入れるまで、少し時間がかかった。
「食えるよね?」
「もちろんです」
パクッと、玉緒さんはキラキラとしたキャンディーを噛む。俺はほんの少しだけ、ふふ、と笑いが漏れた。
「いかがですか?」
彼女の目が、わずかに震える。表情がぐしゃぐしゃになるくらい、味に驚いているだろう!
「す、すす、しゅ、しゅっぱい!!」
飴でチョコつくるのはやめましょう笑。ぜひ気になった方は感想、評価の方お願いします! モチベーションになります!




