第三十話 一ヶ月遅れのヴァレンタイン
三月九日から五日間経つ。三月十四日、木曜。普段通り登校して教室でくつろいでいると、普段とは違った風景が見えた。
「私にくれるの? ありがとー」
チョコを渡し合う人たち。まったく、今日はなんの日なのかを思い返せば、ホワイトデーじゃないか。
ヴァレンタインでチョコを渡された覚えはない。
まあ、その日は眠れなくなるほど心が折れたけど、幸い返す必要がないから今日は楽だ。
「おはよう。千里くん」
「最上さん……おはよう」
最上さんとの恋人関係はある程度慣れてきたし、目を合わせなくても気楽に話せる。
「千里くん……言いたいことがあるんだ……」
「なに?」
「はっぴー……ゔぁれんたいん……」
最上さんは背中に隠していた板状のものを取り出す。あれは……チョコレート?? それより最上さん、すっげえ顔が赤くなってし。
「……ヴァレンタイン、一ヶ月前ですよ?」
「テヘヘ……どうしても千里くんとヴァレンタイン気分になりたいから、がんばってつくったの」
最上さんはぽりぽりと頭を掻く。
「ありがとうございます。自分でつくったんですね」
「そうだよ。まあ、萌といっしょにつくったんだけど、他の人にお菓子つくるの初めてだから、美味しいかわからない……」
ひょいと最上さんから板チョコを受け取る。
萌ちゃんと最上さん、女の子二人が作ったチョコか……なんか心がドキドキする。
「ありがとうございます! おいしくいただきます」
異性との関わりが薄い俺は、たしか今回、初めてもらうんじゃないか!
「私の実家? ていうかその……故郷で、ヴァレンタインにチョコ渡す習慣がなくてさ……ちょっと、慣れないの」
「そうなんですか? チョコ渡す習慣がないのって珍しいですね」
あれ……最上さんの顔、どんどん赤くなっている。しかも目を合わせてくれない。
「最上さん?」
「ちょっと、教室にもどるネ!!」
パタパタと、最上さんは小走りで逃げた。なにを恥ずかしがっているのかな。
もうすぐ俺は二年生になる。授業も終わったし、最近は少し遊んでもいいかな。
「泉くん……」
俺の席の隣から一人の女子の声が聞こえた。
久しぶり、と言っても毎日会っているわけだが、彼女の声を聞くのは最上さんと出会ってから珍しくなっていた気がする。
「玉緒さん! 成績どうなりました?」
「ふん。まだ私の名前覚えてるらしいじゃん。最上さんと成績勝負しな。お、ふ、た、りで」
「ちょっと……玉緒さーん。怒らないでよ」
彼女は玉緒雪。なんと、この学年で唯一俺と成績の勝負ができる学年二位の子。いつもポニーテールでめがねをかけているし、運動をしないため肌がめっちゃきれいな人だ。……最上さんと会う前はこの子とよく勝負していたな。
◇
「今回も俺の勝ちですね! 二位さん!」
「うう……!! 泉くんうざいわよ」
◇
「ふふ。まさか玉緒さんが勉強以外のことで俺に声をかけるとは……まさか、俺が先に恋人作っちゃって嫉妬してるんですか?」
まったく、最上さんにからかわれて、俺も冗談言うようになったなあ。
「ち、ちがう……もういい、クラス替えがあるし、もう二度と泉くんの顔見たくないわよ」
玉緒さんのぷっくりとした唇が震える。
「玉緒さん、成績なんだったんすか? びびってるんすか?」
「うざい!! 評定――勝負してあげるわよ」
「んじゃ、負けたほうは相手にチョコつくるの、どうですか?」
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