第二十九話 最上家のお料理
「そ、その家訓とかって大事にされるもんじゃないですか?? そんな簡単に燃やして大丈夫ですか??」
「大丈夫さ。それのせいで咲良が自殺に追い込まれたし、それを聞いた咲良の爺さんも泣きそうだったぞー」
まじか……仰天すぎたな。なんか……いい匂いする。まろやかなビーフシチューの香りが漂っている。
「泉くーん! ごはんだよ。ちょっとでもいいから、食べてほしいなぁー」
明里さんの声がキッチンから聞こえる。匂いを嗅ぐだけで鼻が幸せになりそうだな……お腹がぐるぐるしゃべりだしてきた。
「さあ! お義父さんとごはん食おうぜ」
「ちょっと……それは……アハハ……」
最上さんと結婚しません!! って言ったら気まずくなりそう、いや、今も気まずい。
「お、おいしそう……」
赤茶色のビーフシチューが五皿並んで、できたての湯気が噴き上がる。
「でしょ!」
明里さん……すっごいドヤ顔で見つめてくる。
「ほらー! モーエ、サクラー! ごはんだよー。泉くんは座っててね!」
俺入れて五人、食卓につく。とりあえず始まった食事の時間だが。
フォークで肉を口に入れる……最上さんが俺のこと、めっちゃ見てんだけど。
「千里くん? 体が固まってるよ? ちょっと母さん、ビーフシチュー、千里くんの口を合わなかったんじゃない?」
そ、そういうことじゃない!! やっぱ俺は人んちでごはん食べるの慣れてない!
「あら……泉くん、なに食べたいの? 今作ってあげる」
明里さんは心配そうに顔を俺に近づける。
「い、いえ……チョー美味いっす。マジッス」
「無理して食べないでね」
ほんのり甘くて、肉の旨味が広がる。でも、人の家のフォーク、皿、それに食べたことない他人が作る料理……やっぱ慣れねえ。
萌ちゃんはちゃんと食べているかな――。
「……もぐもぐ…………おいひい!!」
やっぱ、かわいいなあ。癒されるように心に響くっていうか、萌ちゃんのような妹ほしい!
「千里くん!! 萌だけ見てないでよ! 私が彼女でしょ?」
「おい……最上さん……!」
こんな感じで、食事の時間が終わって、俺は帰ることにした。玄関前で俺はお別れの手を振った。
「お邪魔、しました」
明里さんと暗次さんは『異口同音』で俺にハキハキと声を出す。
「また来てね!!」
と声が重なった。なんて返せばいいかわからないけど、とりあえず笑顔を作った。
「千里兄ちゃん……また来て、くれる?」
もえー!! 彼女はパチパチときらめいた目を寄せる。体がふわっとなって、心が溶けそう。
「うん、また来るから。じゃあね」
――一方、白井の視点――
「おはよう、白井」
「ここは?」
周りが……暗いし、なんか前に一台のデスクがあって、パソコンが開いている。
ていうか、俺をなんかの薬で眠らせたろ。目の前の金沢のクソみたいな笑顔を見て、心の怒りが燃え上がったわ。
「俺を監禁するかよ。警察は怖くねえのか?」
「監禁してねえよ。ばーか」
あれ……体が動ける。ロープとかに縛られてないか。俺は立ち上がり、一歩、彼に近づける。
ギュッと金沢のえりをつかんだ。
「なにをするつもりだよ」
「まあ、このことは警察に知られたらまずいけどね」
金沢の目線はゆっくりとそばにあるパソコンに映す。
「おまえ……それは?」
最上さんの家の、玄関? 泉がいるぞ……最上萌としゃべっているのか?
「隠しカメラ。単刀直入で言うとね。これ以外にもあるけど、見せちゃったらまずいかと」
「これだけで……十分まずいだろ」




