第二十二話 最上さんに会いたいよ(泣)
◇
三月九日まで残り五日。
最上さんと別れた次の日。最上さんがいる四組に行ってみよ。
「君、咲良ちゃんの彼氏じゃん。どうしたの?」
「最上さん、いますか?」
「ううん。今日は病欠らしい」
最上さん、ちょっとしたことで休まないでしょ。『千里くんに会いたかったよー』とか平気で言ってくるくせに。
でも、なんで今日に限って……。居てくれよ。
心臓がざわつく。
病欠なら……一週間休んでいても、おかしくはないし、三月九日までに彼女に会えない。それに俺は最上家に訪れるたびに拒絶される。
三月九日まで残り四日。
今日も彼女の友達から病欠と伝えられ、進展はない。教室にもどった俺は、最上さんのことでいっぱいすぎる。
「おっはー、泉」
「白井……最上さんちに行った?」
「この前行ったら最近は来ないでくれって言われたの。心配だな。俺、今日も行ってみるわ」
「サンキュ」
結局、後で白井に連絡を取ると、「やっぱりダメって言われた」と伝えられる。
三月九日まで残り三日。
夜も眠れねえし、授業にも集中できない。ノートのことを思い返すことと、最上さんについての聞き込みをしていた日が続いた。
◇
なんとなく、俺はここの数日の出来事を日記にまとめた。今日は三月七日。残り二日だ。
今日も、なにもわからないままか。
最上さんの教室に見たことのない姿が現れる。
「……白井、あの人知ってる?」
ある男が、最上さんのつくえのそばで手紙の文字を目で追っていた。
背が高く、真剣なまなざしに、ずば抜けた顔が俺の目線を吸引する。
「泉……じつは彼も昔、最上さんに付きまとった人なの。家がお金持ちらしくて、最上家の母もその人を気に入ってたよ」
なんだよ、あいつ。まさか……最上さんのことを知ってんのか。
「まじか、でもなんでここにいるんだ?」
「聞いてみるしかないね」
近づいてみよ。彼も気配に気づいたように目線をこっちに振り向く。
「お久しぶりです、白井さん。それにこの方は泉さんなんでしょうね」
「俺のこと、知ってるの?」
「もちろん、咲良さんが愛してやまない男のことですし。まあ……君が咲良さんの彼氏だなんて。おっと失礼した。どうも、僕は金沢夙人という者です」
男は少々、俺を見下すように目を小さく開く。
クソ、だから最上さんに断られるんだよ! いや、今はこいつの知っていることを聞こう。
「あの……最近の最上さんについて、知ってる?」
金沢という人物は、さっき読んでいた手紙を俺に見せる。
◇
君が端正な美少女設定は、いつまで続くんだろう。僕を裏切った償いはするの? 泉千里と仲良くしやがって。
◇
「これは……」と俺は声を漏らす。
金沢はなにも変わらない表情で俺に目を合わせる。
「川口が咲良さんに送った脅迫状だ。内容よりも、もっとも恐ろしいことは、彼女は誰にもこのことを言わなかったこと」
「そうなの! それに三月九日も」
「おっ? 君たちも三月九日に気づいたようだね。先に君たちの情報を教えてくれないか?」
「川口と最上さんは三月九日になにかをする。そして川口と最上さんはかつて親しい関係だったことだけだよ」
金沢は満足いかない顔で、ふーん、とうなずく。そして彼は一枚の写真を取り出す。
「泉さん。決定的とは言わないが、彼らの関係がわかる写真だよ」
最上さんと川口の顔が並んで写真にうつる。そして周りには、橙色の光に照らされる芝生が見える。
顔がほぼくっついていて、俺の胸の奥がチクっと痛む。俺ですら、まだないのに。『千里くん、キスしよ?』って言われる頃にもどりたい。
いや、違う。そんな時間じゃない。俺は切り替えて気になったことを言う。
「これって、日の出のとき?」
「そうだ、かつて同じ日の出を見るほどの仲で、おそらく川口はそのとき本当の恋人関係だと思っていただろう」
「なんでその写真を持ってるの?」
「咲良さんに送られたことがあって、印刷しといた。それにこの日の撮影日はまさに――三月九日の午前五時」




