第十九話 最上さんと関係崩壊危機
「おっはー! 泉、顔色悪いけどどうした?」
「『どうした?』じゃねえよ。俺たちの『お嬢様』が危ないぞ」
「へぇ……最上さんのこと? どうかしたのか?」
一昨日と昨夜、いくら寝返りをしても心がうるさくて寝れない。
「白井、川口ってやつがいたよな」
「おん」
俺はこの前の川口のことと、三月九日について語った。
しかし彼もあまりピンとした表情を見せてくれない。
「まじか、早く最上さんに会いに行こうぜ。たぶん教室にはいる」
「おけ」
俺たちは駆け足で四組に入る。
あれ? 最上さん、普通に他の子としゃべっている?
「あっ、白井くん、千里くん!」
元気だ。俺が心配しすぎたのかな。普段通りの元気な最上さんだ。
俺は率先して最上さんを、教室の端に連れた。
「最上さん、三月九日について、教えてくれません?」
なんだかこの質問……探偵みたいで幼稚だな。
「なにその日、千里くんの誕生日なのー?」
「ふざけないでください。ノートにも書いてありましたよ」
「やっぱ、隠し事は千里くんにバレちゃうか」
最上さんはへへッと笑って、他人事のように捉える。
一瞬、沈黙が生まれる。
「最上さんっていっつも……いっつも……」
「千里、くん?」
「いつもそうやって俺を誤魔化そうとするのやめてください! 俺のことが好きなら、俺も最上さんのためにしてあげたいんです!」
あれ? なんで俺は叫んでいるのだ? 最上さんはいつも俺にやさしくて、申し訳ない。
でも今聞かないと、後悔する気がする。なんとしても口を開かせてやるわ。
「私、千里くんのような彼氏、つくれてよかった!」
「え……」
「三月九日のはね……じつは私の誕生日なの、それまでにプレゼント用意してきてね」
いや、嘘か。
この謎の答えを知りたいのに、川口は言ってくれないし、最上さんも。
俺はさらに深掘りをしようと、壁際に立つ最上さんを手で囲む。
「ち、千里くん?」
「もう少し教えてください……なんであのメモに誕生日を」
最上さん、どうしても口を開いてくれないな。ただ頬が赤い……赤い!?
「わ、私……お手洗いに行ってきていいかな? 壁ドンは……また今度しようね……」
「えっ!?」
やべえ、逃げ道を塞ぐように手をついていた。
俺は手を緩くすると、最上さんはパタパタと逃げる。
「最上、さん……」
俺はチラッと目線を最上さんのつくえに移す。まあ、たぶんなにもないけど、一応見ておくか。
「これは……」
何枚かの、手紙? 勝手に見ちゃいけないけど、やっぱ気になる。
◇
最上咲良。僕たちの約束を守ってくれるよね? 君がそれくらい罪を犯したならば。
◇
最上さんってなにかやらかしたのか? いや、『一応』彼女は端正な美少女の設定だ。
「千里くん! それ見ないでよ!」
「最上さん……」
ノートのときみたいに、俺が彼女のものを勝手に見るのを捕まえた。
最上さんは俺をにらみ、時間が止まる。
二回目のためなのか、彼女は拳をにぎって、元気だった声音が一気に凍る。
「もう、やめてくれないかな」
「ごめんなさい……」
「白井」
最上さんは俺のそばで黙っていた男を呼ぶ。白井は「はい!」と言い、背を正す。
「千里くんを、私に近寄らないようにして」
白井は俺の顔色をながめ、俺の肩をトントンと叩く。
「なあ、泉……今日のところは」
俺は息を吐き捨て、最後に最上さんを見る。
「わかりましたよ! もう最上さんのこと知りません!」
悔しい気持ちが心の奥から燃え上がる。
教室から走り出し、彼女からできるだけ離れた。
せっかく最上さんの心配をしていたのに、本当に怒った――というわけではない。
「最上さんが抱えているもの……」
彼女が俺にあんな言葉を吐くわけがないし。
数学の問題にも、英語の読解にも屈せなかった俺は、今回も同様――この問題を解いてみせる。
俺という男の言葉を思い出す。
◇
「これから、最上さんを二度と傷つけないようにがんばります」
◇




