第二話 唐突な始まり
「は? えっ……まて、私のこと、じゃないよね? 今なんて言ったの??」
最上さんはドグッと体が震え、目がちょろちょろ慌てている。でも俺は彼女のことをブサイクではないと思うけど、その傲慢な口がどうしても気に食わない。
べつにそんなかわいいわけでもないし、自ら自慢するなって感じだわ。
「最上さん、自惚れないでください」
「う、うそだあ!」
まあいい、こういう人は初めて見るけど、気にしない方がいいか。
俺は彼女にもう一秒も目線を配らず、再び授業の準備に向かう。
「ちょ、どうせ私のひどい言葉にドン引きしちゃったでしょ? そんぐらい許してよ……あれは一度は言ってみたかったセリフなの!!」
最上さんは頬を膨らませて、俺の目と合わせようとする。
「いいから、最上さんも授業の準備でもしたら?」
「うそ……この私を相手にして、普通の人ならもう心が溶けそうになるくらい跪くのに!」
いや普通なのは俺のほうだろ! もういいやこの子、自惚れがひどい人だな。俺は今度こそ振り向かず、まっすぐ授業の準備に向かった。
「次の時間は……数学か」
ロッカーから教科書を取り出すと、背後から騒つく声が徐々に伝わってきた。
「くっ……うう……」
またなにか起きたのかよ。
振り返ると、おそらく人生で二度はない光景が目に映る。
「うう……ごめん」
最上さんの頬が赤に染まり、手で頬のしずくを拭いている。整った顔がぐしゃぐしゃになるほど嗚咽していた。
「最上さん、ちょっと」
さすがにまずいと思って声をあげた。泣くのはセコイな……めんどうなことをかけてくるなよ。
「おねがい……前言撤回してよお……」
「は?」
「うそでいいから……かわいいって言って」
なにを言っているのだ、この子は。俺はこんな短時間で同じ人に、二回も同じ感情を抱くのは初めてだよ、勘弁してくれ学年一位!
「いいから、かわいいって言って!!」
「か、かわいい!!」
最上さんの怒りで体がビクッとなる。泣いている女の子はほんと怖いな。
でも最上さんの怒りはおさまっているようだ。
「君……名前、なに」
「泉千里です」
「私、覚えたからね。放課後、四組に来て」
と言い残し、最上さんは小走りで教室から離れた。
この出来事のせいで、多少は授業中にクラスメイトから目線を感じるし、俺は集中して勉強ができなかった。
でも約束事だし、放課後はしっかりと隣の四組に行った。うちは三組で、体育とかで四組と同じ授業を受けている。
放課後の四組は静かな夕日の光に照らされている。最上さん一人だけが席に座ってボーッとしていた。
「最上さん」
「素直に来てくれたんだね。今日は申し訳なかった。でも謝るつもりない。連絡先ちょーだい」
俺はスマホを取り出す。そして彼女と連絡先を交換した。
「おとなしいね。やっぱ私と付き合うために仕掛けたんじゃない?」
最上さんはピカッとした目を俺に寄せる。
「ほんとうに違います。ブサイクって言ったのは申し訳なかったけど、付き合いたいほどかわいくはないです」
「くっ! 泉……」
やっぱ最上さんはそれを聞くと表情が凍って、さらにかわいいとは思えない。
「最上さんだって、俺に言われる必要ないでしょ。君みたいな学年一位の美少女を求める人なんてたくさんいるはずなんだから」
「そんなの、だれから聞いたんだよ」
「最上さん……?」
彼女は頭を下げて、声が小さくなる。しかし話す速さがだんだん増える。
「学年一位っていうレッテルはうれしいよ。でもべつに告白されたって一、二人ほどだし。ロッカーにラブレターが入ってるなんてアニメにしかないシチュも体験したこともないし」
「最上、さん……!?」
最上さんの声が大きくなっていき、だんだんと叫び声に変わる。
「異性に学年一位のタグのせいで何度も疎遠されたことがあるんだよ。異性の友人すらできないのに恋愛なんてできないよ! 私だって恋愛がしたいよ!!」
「最上さん、大丈夫?」
彼女の声の響きが俺の心に伝わる。最上さんなりの悲しさがよくわかった。
「いいか、泉!?」
「はい!!」
「もう今日から私と付き合え!」
「は」




